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デジャブー




目に見えてるものだけが真実じゃない

そう言ったのはデカルトだったか誰だったか。

「デジャブかな」

うつろな目で目の前に並べられた牌をみながらぼやく。

まぁ、見事な糞配牌だ。対子がひとつあるだけで、あとはバンラバラバラ。
まさに十三不塔一歩手前のゴミ手である。
十三不塔とは、ローカルルールで存在する役満やら満貫に当たる手だが地方ルールや身内の中では禁じ手とされているところもある。要はツキがどん底のとき訪れる配牌だ。

それだけ俺のツキは底の底だってことだろう。

「何がデジャブだって?」

対面の黒ブチの眼鏡レンズの奥から、特に関心のない口調で牌を詰もって凱が尋ねた。

「さっきの局も糞手で何にもできなかったような…」

俺はため息まじりに言葉をちぎる。
疲労と寝不足のせいで頭がくらくらしてきた。

下家のタツヲが、トップ目なこともあり、上から目線で軽口を叩く。

「何寝ぼけてんだよ。さっきどころかオーラスまでずっと糞手だとぼやいてんだろ」

「そうか……。夢かと思ったぜ…」

軽口を叩き返す元気もなく、天井に向かって小さく息を吐き出して椅子に沈み込んだ。
勝負に勝ち負けは必然なのだが、こうもカタルシスが欠落している勝負はさすがに萎える。
マージャンというゲームは、勝敗が7割強が配牌の優劣で決まる。無論、その手をあがれなくても勝てなくても、その勝負を楽しむひとときが、配牌の優劣で決定づけられるのは間違いない。

「勝負は時の運だよ。まだ始まったばかりだし」

凱はこう云うが、ここまでツキがないと、ここ最近の運気の悪さもが合点がいく。

1円パチンコでも負け、仕事ではトラブルの連続でそのオハチが回っててんてこまい、その上、今度はお袋からの無理難題に家族間断裂に通風再発、飲みすぎた時のインポ気味な息子ちゃん。

天中殺どころか宇宙天体殺に値する海底2万マイルの沈みよう。あたい見ちゃった新世界。みたいな。
新世界と言えば、アニメでやっててよく見てた。鬱展開すぎてどうにもやりきれない話だったような。

俺は手牌にある中を掌で遊ばせていると、ふとある人の顔が脳裏に浮かんだ。

「そう言えばよ」

「ん?」

「チュンを見ると思い出すな。伊丹さんを」

「あ、ああ…。伊丹さんか」

タツヲや凱、高坂が手牌を眺めながら、思い出したように頷く。
メンツから抜けた周防は奥のソファで漫画の天牌を読んでいた。
伊丹さんは、友人であり先生でもあった俺の恩人である。3年ほど前にチャリでこけて頭を打って亡くなった。
ここにいる奴らも一緒に旅をしたり取材に同行したりして面識はあった。

「なんでチュンを見て伊丹さん?」

高坂がその細い目を少し広げて訊いてくる。

「伊丹さんとよく麻雀したんだけどさ、あの人よく突発的に親父ギャグ飛ばしてたんだよな」

俺は雑に掘られた文字の溝を指でなぞりながら、感慨深げに目を閉じた。

「チュンをポンするときに、チンポーとか言うんだよな。女性もいるってのによ。笑っちゃうよな。あははは」

「……退場」

「最低だな凸さん」

「通報レベル」


口を揃えて3人が俺をなじり出した。

「ちょっ、待てよ!俺じゃねえ。伊丹さんだっつの」

「あ、それローン。満貫」

弁明しながら捨てた牌を見てタツヲが牌を倒してニカッと笑う。

「ぐあっ;」

「ザクとは違うのだよザクとは。ふははは」

タツヲがドヤ顏でシベリア級のガンダムギャグを飛ばす。こいつを今すぐ八甲田山に放り込んでやりたい衝動に駆られる。悔しくて切なくて涙が出る局。

俺は点棒を卓に置くとうつむきながら肩を落とす。


「人ってぇのは、厳しいばかりじゃダメなんじゃねえかな…」

「あ?」

「なんつうか、優しさが必要なんじゃねえか」

「何の話だよ」

「歳寄りをちったぁ労われって話さ」

「ま、今度はあんな下ネタじゃない話をするんだな」

タツヲはそう云うとしたり顔で洗牌を始めた。
うんこー(糞っと同義語)。
しかしこれが今の俺の運。そこのそこの牛乳瓶の底。
そこのけそこのけお馬がひひん。何をやってもダメなときゃダメだ。

動いても死ぬ。動かなくても死ぬ。
人生においてどん底は必ず来る。
ズズズズズズズンドコ運のツキ。

「ところで今日はみさおさんって来るの?」と凱。

「来るよ。まぁ、定番の19時頃だな」とタツヲ。

藤川みさおは未だに現役で信長の野望オンラインを続けているゲーム狂である。
ちなみに織田の悪口を言うとブチ切れて目潰しをするという凶暴な女だ。
飲むときなどは細心の注意をもって言葉を選ばないと命とりになる。

現在は午後の3時。まだ3時間はゆうに打てるのだが、俺は流石に負け続けて吐き気がしていた。
次はちょっと休ませてもらおう。いや、というより何も食ってねえから飯食いに行ってこようか。

カレーかラーメンか。渋谷の駅周辺での選択肢は以外と少ない。立ち食いもあるにはあるが、ゲロまずな店しかねえ。
全く、何がヒカリエだか。小綺麗になっても軽く飯が食える店とか激減してんじゃねえか。
なるほどコブラが天国を嫌うわけだ。これじゃハンバーガさえ食えやしない。

4局目が終わった。言うまでもなくまたドベだ。
4連続ドベとはどういうことだろう。ツキの女神がもし存在するなら、衣服を剥ぎ取って犯しまくってやりたい。というより、女神じゃなく号泣会見の野村のようなおっさんかもしれないのだが。
とにかく緊急事態である。これはデフコン5以上のエマージェンシーだ。

そうか…。これは天が俺にビーンボールを投げたってことか。
確か、先週に1ぱちのエヴァ10で62回の大当たりを出したっけ。もちろん通常も含めてだが。
あれか!あの無駄なツキの放出でリバウンドが来たわけかインジャーラ。

そう。運の定量は必ずある。尽きない運などない。
人は運の放出を一気に出す人、ちびちび出す人と色々いるが、稀に溜めた運気を一気に放出する人が存在する。
しかしその運をあまり効率的でないものに放出してしまう場合が多い。
人は後から後から気がつくのだ。失ったものの価値を、その大きさを。

俺は頭を抱えた。
なんか目の前に小さな天使が見える。

「わろすwwww」

「わろすwwww」

5〜6人の小さな天使が俺の頭の周りをぐるぐると回りながら笑っている。
天を追放されたルシフェルの気持ちがわかるような気がする。
そう。神は人の事象に干渉はしないし救いもしない。ただ静観して眺めるのみである。
神や仏に祈っても俺の運は戻ってこないし、ちんぽも勃たたない。
あらや悲しき我が運命。

「ま、いっか。どうせ地球も滅びるし。ラーメン食お」

悲観的な思考が渦巻く中で、この楽観的というかどうでもい慣れという怠惰な思考。
まさにB型、典型的な負け犬クズの思考。都合の悪いことは、袋に詰めて川に流すという圧倒的な自己中心派。
だがそれがいい。それでいいのよお富さん。


俺はメンツを抜けて、駅からちょっと離れたラーメン屋に入った。

「へい!らっしゃーい。お好きな席にどうぞ!」

威勢のいい掛け声が店内に響く。
ウンウン。いいじゃないか礼儀正しく活気があって。ラーメン屋はこうでなくちゃ。
勝負に負けたらラーメンだ。ラーメンで運を取り戻す。何故かわからないが、ツキがない時はラーメンに限る。
こういう時は、せめてラーメンぐらいは美味いものを食いたい。

豚骨ラーメン、オール普通のオーダー。
見た目も美味そうだ。
ハシで麺を掬って、口に放り込む。

「ぐっ!?」

これは!!


「ぶぇあっ、ま、まっず;」

声に出さなかったが、俺は悲鳴に近い叫び声を押し殺した。
まずいラーメンの解説をしても不毛なのでまずいとかしか言えない。
ここまでラーメンをまずく作れるのはある意味才能だろう。
カレー、ラーメンはどう考えてもまずく作る方が難しいパーソナルな料理だ。

俺はなんとか完食はしたが打ちのめされて店を出た。
勘定するときの店員の兄ちゃんの爽やかな笑顔が切なかった。
腹がもたれて、舌がザラザラしている。ダメだ…もうダメだ。
俺は渋谷の雑踏に紛れながら、スクランブル交差点を背を丸めて歩いている。

俺は陰鬱な気持ちを引きずりながら、雀荘に戻った。
すると、周防がカップヌードルを美味そうにすすっていた。

嗚呼、雀荘で食うカップヌードルのなんと美味そうなことよ。
俺はまたしても牌を切り間違えた。人生は常に選択の連続だ。
そして、それが積み重なって今の自分に反映されている。

俺は周防の肩をポンと叩きながら尋ねた。

「ツカさん、それ、美味いか?」

周防は満面の笑みを浮かべながら

「最高!」とだけ答えたが、その瞬間に対面の高坂の親倍の小三元に振り込んだ。


高坂は苦笑しながら

「あのチンポー(中ポン)が効いたねw」と控えめに下ネタを言った。



【終わり】












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凸

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