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ペーパーレスか 続 短編習作

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ストラウス教会の風見鶏に陽が差し込むとき、ゲットーの朝は始まる。

マソは昨日、死に物狂いで原稿を完成させて、データをサブチーフのベルに送った。
これでリテイクが出なければ仕事は完了だ。
ベルは、この仕事に就いてまだ日が浅く24歳の若手だが、聡明で話のわかる女性だった。ついでに褐色の肌を持つグラマー美人なのもマソは気に入ってる。
前任のエピファニーは美しい名前とは半比例して恐ろしく我が強く、傲慢な女性で何度も衝突した。
結婚を機に退職したらしいが、あれを嫁にもらう男はマザーテレサよりも深い慈愛の持ち主だなと素直に尊敬する。
もっとも仕事上の顔しか見ていないので、プライベートはどう化けるのか想像もつかない。

とにかくリアルショットで録画されたムービーを再生しながら取材内容も確認したし、整合性もとれている。
クレームチェックも万全。後はベルの上司のラッツイォがGOサインを出してくれることを願う。
土壇場で構成を何度もひっくり返されて煮え湯を飲まされてはいるが、いいものにはいいと賞賛する公正さは持っている男だ。

さて、では本題のサイファーだ。
それを考えるだけでマソは、雨の日に濡れた靴を我慢して歩いてるような惨めな気分になってきた。

下手な言い訳は逆に怒りを買うだけだろう。
とにかく真摯に謝罪をして誤解を解いていくしかない。
マソはサイファーと直接話したことは無い。
噂ではかなりの巨漢でナルシストらしい。

奴の前で口にしてはいけないNGワードがあるとタツヲが教えてくれた。

豚とデブ だ。

普通に話してれば、出てくるわけもない単語だが、うっかり口にした奴は一瞬であの世でツイストを踊ることになるらしい。調子に乗ってしゃべりすぎると身を滅ぼすってことだ。口は災いのもと。

早速デポットのコールに記憶に無いナンバーが表示された。
覚悟を決めてコールに出る。

「はい」

「……マソ・バスキアンか?」

コールしてきた相手は野太く低いしわがれ声で聞いてきた。

「そうだ」

マソはできるだけ平静を装って短く答える。

「サイファーが会いたいそうだ。明日の午後5時にレグナス・アベニューの通り沿いにあるアーケロンって店に来な」

「…わかった」

「必ず来いよ。後悔したくなかったらな」

そこでプッツリとコールは切れた。

マソはデポットをキャビンに置いて、セックスプラウトに火を点けた。
膝がガクガクしてきたが、とりあえず準備はしておかなければならない。

揉め事(一方的な言いがかりだとしても)には2つの解決法がある。
誤解を解いて相手と信頼関係を得るか、もしくは殺すかだ。
武力など0に等しいマソは当然前者を選ぶ。
それには相手の趣味嗜好をきっちり把握してから望む。
そして、もつれた紐をゆっくり解きながら殺すには惜しいと思わせる。
それが長生きするコツだ。臆病に慎重に。そして大胆にタイミングを間違えないことも重要だ。

サイファーの嗜好を掴むにはまずアニメの情報収集だ。
サイファーは伝説の東洋のマニアックなプロフェッショナル集団「フリークス」の信奉者で有名である。
側近についてる手下も失言でいつ風穴をドテッ腹にくらうか気が気ではないので、必死にアニメの知識を収集していた。
サイファーは知ったかぶりや半可通も大嫌いだからだ。

不幸中の幸いなのがタツヲ自身もフリークスと呼ばれる超絶アニメオタクだったということだ。
奴が以前自慢していたのを聞いたことがある。

「自慢じゃないが、1980から2050までのアニメーションのことなら俺以上に詳しい奴はいないね」

いきつけのパブ「バイパー」でそう嘯いていた記憶がある。
まずは情報収集だ。
物書き、特に俺のようなフリーライターは、まずアンテナを研ぎ澄ましておかなければならない。
どこに飯の種が転がっているか、ささいなことでも後々リンクしてくる事柄も可能性は0ではない。
つまり、つまらないことでも見逃さずにメモリしておくことが重要だ。それが危急のトラブルを回避する命綱になる。
俺はアニメーションなんかにさほど興味はないのだが、タツヲと友人というだけで俺の命はグラスに残ったカクテル一滴ほどには希望はあった。

サイファーはとにかく饒舌でナルシストでありロマンチストだとタツヲから聞いた。
特に抽象的な言い回しにエクスタシーを感じるらしい。
ようは大昔のラッパーMCハマーよろしくインテリぶりたいのだろう。

そういう意味ではサイファーとマソは共通点がある。
マソもローテクをこよなく愛するロマンチストだからだ。
ロマンチストはB型に多い。
時に現実的であったり時に荒唐無稽な夢想家であったり。
ようするに、歳を積み重ねても成熟しきれないガキであったり、リアリストだったりする破綻人格者が多い。
そしてB型は忘却の能力に優れている。都合の悪いことは記憶の彼方にしまいこみ、後悔を一瞬、自責を刹那。個人差はあるだろうが、超自己中心的なアンバランス感覚を持つものが多い。社会適合性があるようでいてないようで、意味のわからない人種だ。
そしてそんな特異点を持つ自分を気に入ることができるのもB型だとマソは信じている。
だが、この世界ではB型であることは徹底的にイリーガルな存在とされ、管理職などにはまず就くことができない。
ようするに高給取りにはなれない。マソはそれでもB型に誇りを持っていた。
それでこそ典型的なB型であるとも言える。

とにかく時間はない。まずはライブラリに出かけることにした。
マソは半分吸ったセックスプラックの吸いさしをアッシュトレイにこすりつけて、クローゼットを開けた。
そこから無地の襟なしファンネルに着古したデニムジャケットをはおり、ベルコモンのサングラスをかける。
玄関のシューズボックスからオフィシャル用のホワイト・フェザーズのローファーを出して履いた。

4階のアパートからB1のパーキングまでエレベータポットで移動。
パークの左奥に置いてる愛車”ベルトーネ”のイグニッショントレイにキーを差し込むと、ウィンと柔らかいうなり声をあげた。
シートに滑り込み、認証を確認すると、コクピットのコンソールパネルが花火を打ち出すように潤沢なスペクトラムを刻んで”ベルトーネ”に命を吹き込んでいく。
アイドリングが済むとナビボーグの「エイシャ」がお決まりのエールを送ってきた。

「お早うございますミスター」

「おっす!おらゴクウ。いい朝だなクォターバック」

「エラー。わたしはゴクウでもクォターバックでもありません。音声で行き先を指定してください」

マソは電話でタツヲから入手した古典的アニメショーン・ジョークをエイシャにチャレンジしたが、理解されずに一蹴された。いまいましい電子音のシャットダウン。
一世紀前のファジーAIではここまでが限界なのは想定内だが、こんなときはローテク信奉も良し悪しだ。
ちったあ粋な受け答えをしてくれてもいいだろうとないものねだりをしたくなる。
不安でがたついてる時には、そんなくだらない慰めさえも安らぎになるというのに。

マソ自身もこの言葉に何の面白さがあるのかは理解できていないのだが、タツヲが熱っぽく挨拶はこれを抑えておけばまず間違いはないと言っていた。ゴクウとはアニメの主人公なのか?確か数世紀前のチャイナ創世記の主人公の名称だった記憶があるが。
タツヲのアドバイスは思いっきり不安だった。

マソはコンソールのナビマップを指先で確認して行き先を告げた。

「シン・シティのMANDARAGEに向かってくれ」

「イエス。マイロード」

目の前のストアガレージがゆっくり上昇して光が徐々に差し込んでくる。
マソは長い一日になりそうだなとうんざりした。
しかし実際には、人生で最も長い二日間になることをマソはまだ知らなかった。


【シン・シティ】

MANDARAGEはアニメやコミックスの専門のデータ・ライブラリでガネーシャ大陸全土に100以上の店舗を持つ。もちろん、コンテンツはすべてデータ・チップで売買されオンラインでも閲覧は可能だが、グリーンIDでの閲覧以外は、タックスが倍に跳ね上がる。
マソのようなグレーIDしか持たないものは、直接ストアに出向いて旧式映像のブルーレイDisk閲覧が一般的だ。
そのほか、あらゆるコミックデータなども収蔵しているが、紙にプリントされた「本」は、ショーケースに入れられて観賞用に厳重に管理されている。
プレビューは無料だが、それも作品によって頁数が限定されている。
データベース・サーバーはある地域の砂漠の下のシェルターで運営されて厳重に管理されていた。

一直線に続くレールの左右にプロミネンスロードの建造物が立ち並び、そのガラス張りのオフィスではせわしなく、人々が動き回っていた。
ゲットーから30マイルほどミドルハイウェイを走ると、まるで異世界に来たような錯覚を起こす。
整然とした住宅群。縦に伸びた流線型の高層ビル群。
糸を引いて流れていく極彩色の景観にマソは何の感情も示さない。

世界の理には必ず表があり裏がある。
裏はねずみが這い回る下水のようなゲットーエリア。表は未来に寸分の杞憂も抱かず暮らすハイエリア。
コインは表裏一体。朝が来れば夜が来る。
それは悠久から変わらぬ退屈な事象だ。
だがそれがなんだ。
生まれた環境はどうあれ、組み込まれた塀のブロックの隙間に入り込むのはまっぴらごめんだ。
俺は俺のやりかたでのし上がって本を書き本を創る。
ハイタワーのプレイスゾーンを見るたびに想うことだった。

しばらくするとティルナノグの手前に位置するシン・シティエリアに入った。
ここはゲットーとハイランドベクター通称汚れ無き人々の地の中間にある街で、人種がさまざまに入り乱れるカオス・シティだ。

マソはスクリーンに映ったタイムカウンターを見た。

AM:9:12..

ハイウェイ降りて市街地に入ると、ルート指示のカウントダウンの表示が005になった。
あと5分で目的地に到着する。

「ちょっと早すぎたか…」

そうぼやいて瞼をこする。
あせる気持ちが時間の感覚を狂わせている。ストアのオープンは45分からだった。
トラブルを抱えているときは、すべからく時間の流れが倍速に感じられる。
そういえば朝飯も食っていない。
いつものエッグマフィンとエスプレッソを想像して急激に腹が減ってきた。

マソは車を傍に止め、シェーカーズの屋台でホットドックサンドとコーヒーを求めた。
屋台の若い店員が”ベルトーネ”をクールだなと褒めそやす。
マソは得意げに形式と年代を告げて自分の4倍以上長く生きている”じいさん”の自慢をする。
しかし、リラックスしてるわけではなく、周囲には用心深く注意を払っている。
物売りの店員とグルの強盗集団だって少なくない。
飯を食いながら後ろから撃たれる可能性だって0ではないからだ。

「さみ…」

コーヒーをすすり終わると急激に寒さが襲ってきた。
レザーコートの内側をさするように肌におっつけながら体を震わせる。
やはり外気が5度というのは骨身に滲みる。

人通りは少なく無気味なほどに静かな市街地に続くストリートは
白い靄にかぶって先が見えない。

ドアを開けて車に乗り込もうとすると、背後から硬いものを背中につきつけられる。

「動くな」

声がまだ若い。なんてこった肩凝った。
ここにきて今度は強盗か。
失意のメタファー。人生はすべからくクソッタレだとマソは嘆く。
運の悪いやつは一生かかって天中殺だ。
ケ・セラセラセラ・ケ・セラセラセラだな。
トラブルメーカー万歳である。

お次は何が飛び出すやら。

【どこかに続く】

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テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

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No title

>烈風さん
「時計仕掛けのオレンジ」風にしようと思ったけど、やはり凡夫の才能はここまでのようで
でも楽しんでいただけて何より感謝w

今回もおもしろし!
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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