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ペーパーレスか 短編習作





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夜の闇を覆う目がくらむ程のイルミネーションカラー。
マソ・バスキアンの視線の彼方にそれは存在する。

多重構造居住施設ハイ・タワー。
ゲットーエリアからビル群を従えるように煌びやかにそびえたつテクノポリス。
マソ・バスキアンは指の隙間から漏れるカクテル光線を小さく遮りながらトリミングする。
人差し指と親指の長方形は黄金分割された適度なレイアウトでマソの目を楽しませる。
スランプ時の気分転換である。

東ゲットー地区1145-B。
半壊しそうなアパートの窓から見えるタワーの光は、皮肉にも灯りの乏しいゲットーエリアを煌煌と照らす。

ベッドに寝そべりながら、非合法の"セックス・プラック"を吸い始める。
暗く狭い部屋に白い滑らかなウェーブの輪。
甘い柑橘系の匂いが充満する。大昔はこれは"シガレット"と呼ばれていたらしい。
もっともそんな呼称などどうでもいい。
無造作にキャビンに置かれたファイバーコントロラーを手にとって電源をいれると旧式の40インチ・プラズマモニターにノイズまじりの映像が映る。

リアスクリーンには禿げ上がったスーツ姿の男が若いカップルに街頭インタビューをしている。
内容は国防関係の防衛費の増減がどうたらこうたら。
マソにとっては毛程にも興味がないもので、カテゴリーを変えると、今度は銀髪の細身の男が何やら意味のわからない絵の前で熱弁をふるっている。
絵は何も変哲もないバナナのイラストで、黒のシルエットに黄色のペイントが施されている。
マソにはこれが何の意味を持つのかは皆目わからなかったが、少なくとも男の身なりはマソの1カ月分の生活費より高いものだろうということはわかる。

そろそろ、〆切が近いなとマソは憂鬱になった。

乱雑なワーキングデスクの中央に置かれたタブレットに、カーソルの点滅がリズムを刻み、その先にヘルヴェチカのタイプフェイスで見出しがつけられている。

わざわざキーボードを使わなくても、音声感応デヴァイスによるテクスト生成で、完璧なプロポーショナルフォントがスクリーンに投影されるのだが、マソはあえてキーボードを使っている。
何よりテクストを自動で抑揚のないテンプレートに補間されるのが嫌だった。

Corrupt...

腐敗した

腐敗した…。その後のワードが続かない。
先週のルポの見出しをつけるのに悩んでもう2日。

そもそも腐敗したという見出しもどうかと考える。

民主派の上院議員カールソン・クーパーの醜聞をあげてこいとデスクからオーダーが入った。
何のことはない贈収賄と愛人問題をリークして、他社よりも先にすっぱ抜く。
それだけのことで、トピックスの閲覧は跳ね上がりストックは急上昇する。
広告クライアントの集客律もアップして収益も増える。俺のギャラ増えるってわけだ。
しかし政治家などはいつの世もよかれ悪かれ皆同じ。
清廉潔白でいたい人間が政治家などになるわけもない。

つまり奴らは哀しいまでに人間らしい人間ではないのかとマソは思う。
欲望をスーツケースに隠して、賄賂を受け取り女を抱く。
それはごく当たり前のことで、地位あるべきことが枷となり挙げ句に咎人に堕ちる滑稽さが哀れだ。
それに乗っかって蠅のように餌を求めている俺達もまた哀しいほどに人間だと自嘲した。。

ルーティーン(定時連絡)を2回ぶっちぎってるので、デスクもそろそろ、雀の雛のようにピーピー喚きだすだろう。

マソはルポライターとして、Scoop Delivery 社と契約している。
Scoop Delivery 社はここ数年で業績が落ち込み、ランキングを20位にまで落としていた。

Scoop Delivery 社の創業者ウォルター・ダンはパーソナルな表現手段としての紙媒体に最後までこだわった1人である。
頑なに輪転機を駆使してペーパーバックを制作していたが、環境資源政策によって徹底的な紙の統制がなされ、あえなく印刷物事業を撤廃。
紙の値段は高騰し、大昔にウォーター・プライスの先達が言及したように、国家総ペーパーレス時代となった。

人びとの手からは紙の新聞、文庫、雑誌などが消えた。
トイレットペーパーも消えて代わりに洗浄機の技術が発達した。
紙を使ったほとんどのメディアが電子化されたパネルになりデータに変わってから既に100年以上も経つ。
開発者の故ニック・シェリドンの長年の夢が叶ったとハイテク推進論者たちは歓喜した。
絵画やコミックなども全て電子化され、肉筆で筆を取って紙に描くのは一握りの国宝級の画家だけである。
キャンパスも絵の具も全てが庶民ではとても手に入らない高価なものとなった。

紙を使うことは究極の贅沢となり、地下で「闇紙」が取引されるようになる。
材質は劣悪のゴートパルプで生成されたフェイクペーパー通称FPと呼ばれた。
印刷は滲むしコシはなくざらっとした手触り。だが、FPによって紙と言う確かな媒体に文字や絵を投射できる喜びをクリエイターは感じていた。非公認のFPによる平綴じの簡易本まで出回るようになった。
しかし保管状態に難があり、外気にふれていると三日で紙が風化してしまう。脆弱すぎる本もどきであった。ユーザーはますます「本物」をほしがり市場は高騰する。

もちろん電子媒体での国営図書館のコンテンツは充実しているのだが、有害図書と認定された書籍は全て閲覧は不可とされている。更に電子メディアの利便性に相まって、個人でのサーバー閲覧はス防衛手段が希薄で絶えずスロッパーの危険が伴う。セキュリティ防壁を最高ランクにあげて、高度なセキュリティ・アナライザを設置しても、その障壁を破って全ての情報を丸裸にしてしまうゴーストハッカー集団が存在するのだ。
個人レベルでの書籍閲覧は、オンラインで繋がるかぎり閲覧履歴はもちろん、閲覧者の全ての情報が抽出される恐怖に晒されている。要は娯楽で気軽に書籍の閲覧はできず、閲覧制限も厳しい。

その点、紙であれば履歴は指紋ぐらいである。
それに本には「ページをめくる」といったダイナミックな指の連動がある。
次のシーンを自分の手で自分のタイミングで読めるその先の創造。

16歳の夏。マソはアカデミア在籍時に国立図書館研修でペーパーバックなるものに触れたことがある。
紙とインクの匂いが溶合った何とも言えない歴史の香り。

サンプルのペーパーバックは成績優秀者の順に触れる権利を与えられ、生徒は古き良き時代のローテクの感触を確かめていた。ようやくマソの番になりページをめくってみる。ざらついた表質のテクスチュアが指に吸い付いてくる。
印刷されたテクストは、Baskervilleのオールド書体が品よくレイアウトされ、パラグラフのスペースにも意志が感じられる。タイトルは「親和力」と記してあった。
マソは夢中になりすぎて、後ろで順番を待っているクリスティーンにつつかれるまで本を離さなかった。

それは運命の分岐だった。
紙に書かれた文字を本にして書く。
それがマソの夢となり希望となった。

卒業後のメディアトレード編集会社でもらった初任給で、薄い40ページほどのペーパーバックを買った。
古びて外装はボロボロだったが、それでも給料のほとんどがすっとんで、残りの数週間は昼飯抜きの晩飯はインスタントヌードルというサバイバルを経験した。
それでもマソは手に入れた「目標」を眺めながら、輝かしい明日がくることを信じていた。

全てが輝いて見えたあの頃。全てが…。


うとうととまどろむ、宝石のような瞬間をいきなり切り裂かれた。

玄関からドンドンとドアを叩く音がする。
ブザーを鳴らせくそったれ!と一瞬激昂しかけたが、そういえば、夜は節電のために切っていたのを忘れていたらしい。

マソは起き上がってスカウターを起動させながら玄関へ向かった。
夜の11時前。ここいらで人が訪ねてくるには遅すぎる時間だ。
壁に設置されたセキュリティボックスのシグナルを確認して、ドアスコープ から訪問者を確認する。
ゲットーは一瞬の油断もできやしできない。
ここでは一切れのパンやビスケットでも人が死ぬ。

スコープの向こうでぐるりと湾曲した男の姿が映っている。
黒い外套に短く刈り込んだ金色の髪。
友人のタツヲだ。

軽い安堵感に緊張が解ける。
ロックを外してドアを開けた。

「よぅ」

右手を上げながら挨拶したタツヲは、長身を屈めて部屋に滑り込んで来た。

「コールぐらいしろよメガネ」

マソが指を指してなじると、タツヲは家主の同意も得ずに冷蔵庫のエール缶を取り出しながら首を振る。

「履歴を見ろよ」

タツヲは円形のウェラブルデヴァイスから覗く目で心外だとばかりに抗議している。
椅子に座ると、デポットを指差しながらエールをグビグビと半分以上飲んだ。

長年のつきあいで情報享受をしながらの持ちつ持たれつの関係だ。
とにかくここでは情報が一番高値で取引される。
夜中にこいつが訪ねてくるってことは何らかのトラブル情報なのだろう。
嫌な予感しかしない。

マソは憮然としながらデポットのコール履歴を調べる。
受信欄から外れたカテゴリにールサインのアイコンシグナルが点滅していた。

「あ、来てた」

「あったりまえだ。3回はコールしたぜ」

「すまん。ナンバーがイリーガルコールになってた」

「おい。何の冗談だよそりゃあ」

「おっかしいな」

「知るかよ。どうせ無自覚の回路封鎖だろが」


マソは首を傾げながら、またセックス・プラックに火を点けた。
にしても、こんな時間になんの用だと言おうとした瞬間に、信号で急停止したエアモービルの如くマソの質問はストップした。


「マソやべえぞ」

タツヲはいつになく深刻な顔でマソを睨んだ。

「ん?」

「お前の書いた記事だよ」

「記事?」

「先月お前が書いた記事さ。それを読んでサイファーの奴が怒り狂ってる」

サイファー。
東ゲットー一帯を仕切るマフィア「リリース(解放者)」のナンバー2。
残忍でオタク。ジャパニメーション好きの享楽主義者だ。
気に入らない奴は3秒で殺すイカれた男だ。

先月は東洋のオタク文化を探るため、ルート77にあるオタクが集まるANIMAXへの潜入ルポを記事にした。
しかし、どう思い起してもサイファーが怒り狂うような文言を書いた記憶はない。

マソは頭を抱えてため息をついた。

「なんだってんだ…」

「詳しくはわからんが、とにかく何とか対処すべきだろうよ。奴は半端じゃねえ気違いだからな」

タツヲは残りのエールを流し込むと片手で缶を潰してマソに渡す。
何気ない仕草が所詮他人事という暢気さを醸し出している。
マソは苛つきながらくの字に曲がった缶を受け取るとシューターに投げ入れた。

「ま、俺にとってはサイファーが文字を読めるってのが大事件だけどな」

自分でも冴えてると思ったのか、タツヲは自分のジョークに笑い出した。
いつもなら違いないと一緒に笑い飛ばすところだが、サイファーに目をつけられてと知ったらさすがに笑えない。
冗談もTPOをわきまえないと命に関わるぞと怒鳴る気力すらなかった。

まさか…Dアニメストアを揶揄するような表現をした下りが気に入らなかったのか?
それとも、あのサイリウムを振って涙を流しているフリークス達を総称して「萌える覚醒者達」と見出しをつけたことか?

どっちにしろ、迅速に対応して誤解を解かなければ。

〆切は迫る。サイファーからは狙われる。
目の前のメガネ野郎は勝手に冷蔵庫を漁ってエールを飲んでいる。
そして明日履く靴下も洗っていない。

問題は山積みだった。

まずはできることからやる。
それしかない。

靴下を洗濯槽にぶち込んでセックス・プラックを一服しよう。
まずはそれからだ。

危急のときこそ、できることのプライオリティを決めて確実にこなすことだ。
そうすれば事態は好転の兆しも出てくるだろう。

だが、まずは…

数分後、タツヲを部屋から追い出すとクリーニングカプセルに靴下を4足放り込んでシグマ洗剤を注入した。

なんて夜だ。

明日は必ず原稿を仕上げよう。
そしてサイファーだ。
一番の問題はそれだ。

セックス・プラックを吸いながら胸の奥が鉛のように重くなるのを感じる。
まったくなんて夜なんだとぼやきながら、マソは吸い止しをアッシュトレイに投げ捨てる。

ふと、壁に貼った光学ステュートパネルに浮かびあがる絵のキャラクターが静かにこちらを見つめている。
マソはその絵をなんとなくタツヲに似てるなと思った。

【どこかに続く かもね】

fbnfgt,fmdnsbgafm,guf


んじゃ良き週末を!
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

>マソくん
わらたw
ちなみに下のコメは他のブログでも見かけた件w

No title

変なコメントはぼくじゃないんだからね!今日も金沢でちんぴろっしゅ

ドキドキしながら書き込みしてます!

只今、私初体験中(笑)
こうやってコメントするの初めてなんですよ♪d(´▽`)b♪

一種の告白みたいで照れますが…
地獄突(じごくとつ)さんの言葉の選び方好きだなって思いました。

素直な言葉って印象でストレートに言葉が溶けこんで来るというか☆
単純にすごいなとも思いました(^-^)

私…もうずっと良い事なくて。。
自暴自棄までは行ってないんですけどほぼ近い状態で(汗)

だから思い切って連絡しました(。?∀?。)
迷惑であればコメント即消してくださいね。

緊張しながらも楽しみに地獄突(じごくとつ)さんからの連絡待ってます(o^∇^o)
プロフィール

凸

Author:凸
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生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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