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ジョブ・ヘンドリクス─イントロダクション (構想中)

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■Intro

生まれてこのかた、神と宣(のたま)う姿の見えない創造主などに祈ったことはない。
創造主が常に慈悲深く、人類を愛しているという証明がきっちりなされているなら、
街でウイルスのように巻き散らされる神のメッセージもありがたく傾聴しただろう。
神が実際におわすなら、この糞ったれな世界で溺れて足掻く哀れで無力な子羊に救いの手を差し伸べてくれてもいいはずだ。
神より飯だ。もう2週間パンも肉を食ってない。
フェイクポテトとインスタントの炭水化物、そして合成ミルクばかりの毎日じゃ
人生は胃袋の牢獄だ。
酒も女もギャンブルも飯が腹一杯食えてこそ楽しめる。

"人間が幸福であるために避けることのできない条件は勤労である"とは誰の言葉だったか。

そんな偉人の格言が陳腐に思えてくる。
1000の言葉より一切れのパンだ。

休憩時間を幾分かすぎた午後。
ジャイロストーンの青をしたためて建造されたメゾンの1階。
藤井・ヘンドリクスはチャイに安物のドープパウダーを溶かしながら、
プラズマ・ナイロンのスプーンでかき混ぜて作った小さな渦を眺めた。
目の前の空間パネルに表示された金額を確認しながら、テーブル中央のコンソール型の窪みにカードデバイスを置いて料金を支払う。

スクリーンに表示された残高を確認しながら舌打ちをした。

「また値上がりしてやがる…」

口の形を歪めながらため息をついた。
一か月前は30palだったはずだ。
10palも値上げしやがった。
エルダー通りの「パルディオ」が値上がりしたのと同時だ。
さすがに確認もせずにセットを注文したのは失敗だった。
嗚呼「プレジャー」よ、お前もか。
今月の支給日まであと10日。
残高を計算すると、晩飯はまたあの味のしないどろどろの豆スープに世話になるのか。
そう考えると藤井は泣きそうな気分になった。
先月の家政婦のオートマターの故障が痛かった。
あれで目玉が飛び出る程の修理費を支払って懐はオケラ寸前である。
考えるだけでチャイの酸味が荒れた胃に軽い痛みとなってしくしくと突き刺してくる。

いまいましげに、3階のリザーブ席で談笑しているグループを遠目に見る。
優雅に着飾った上等のサテンスーツを身にまとってリラックスしている4人の若い男女。
さながら、流行のマガジンのスポットを飾るモデル達のようだ。
端正な顔立ちとすらっとしたスタイル。そして品を備えた優雅な身のこなし。
円形のテーブルに陣取って高級カッファを飲み、俺たちを見下ろして嘲っていやがる。
白いプラチナカップに光輝くソーサー。
テーブルには見ているだけで喉がなるストリームチキンとオレンジスープの皿。
見ているだけで腹がなるなり何とやらだ。胃がきしむほどにむかついてくる。

あれは上級カーストに位置する「ヴァルナ」のガキどもだろう。
親が貴族の特権階級を持つエリート様だ。

絶対王政が支配するこの王都では、身分は絶対であり全てだ。
砂を噛む思いで食う飯の味を想像したことは?



王都直轄のあらゆる技術生産ラインが集結する「セクター」。
1,000を超える生産工場が、この巨大な球形の集合体を形どっている。
「セクター」では、実に1,500万人を超える人間が働き生活をしていた。
いわば、一つの都市であり国だった。

その中にメゾンはある。この巨大なボールの中には積層型のストリートがあり、
交差する各起点にメゾンは設置されている。
労働者はそれぞれの働くエリアから勝手に移動はできず、移動の権利を与えられているのは
特権階級の王族と貴族、そして「S」クラスの等級を持つアジテーターだけだ。

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藤井・ヘンドリクスは、セクターの最下部エリアの半導体のウェハー製造ラインで働いている。
この製造ラインにしても300名以上の工員が働いている。
藤井の労働等級は「C」。

「C」は給料はそこそこで待遇も普通。
「D」は給料も安く待遇は低い。それでも「E」の見習いよりはましといった程度だ。
「E」は未成年の見習いで勤務時間も短い。

「A」の労働等級を持つものはライン・マスターである女性のジェノ・ドルバ1人だ。
あとはチーフである「B」が10人ほどで、「C」が100人ほど。
等級があがるほどに、上流行程をまかされて部下もでき給料もあがる。

ジェノ・ドルバは、28歳の若さでラインマスター、つまりこの生産ラインのトップになった。
女性でしかも二十代では異例の出世である。
アップでまとめた輝く金髪にブルーの瞳。真っ白の胸元を大きくあけたサテンスーツに見事なプロポーション。
左目は義眼でニューロン・インタフェース・デバイスの最新型。
これで瞬時に製造ラインの進捗を把握して一元的に管理をしている。
彼女は就任して間もないが、他の生産ラインよりも確実に成果をあげている。
さらに独身でこれだけの美人が浮いた噂を聞かないというのもまた好ましい。
生産技術上層部からの評価も高く、そのうちに特権階級の「S」ランクへ昇格するだろうという噂されていた。
彼女自身もまたそれを強く望んでいるとの事だった。

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工場に戻った藤井は、工程管理主任と打ち合わせをしているジェノをチラ見しながら横をすり抜ける。
相変わらず颯爽としていて隙がない。
それでいて嫌みがなく工員からの信望も厚い。
ジェノは工員の誰とでもわけへだてなく接し、意見をしっかり聞くし労いもする。
トラブル時には誰よりも早く出社し誰よりも遅く残業をする。
派手な見かけによらない堅実で謙虚で完璧なマスターだった。

まったくいけすかない。
藤井はまったくのところ、このスーパーウーマンをとことん嫌っている。
我ながら矮小で偏頗な性だと自覚はしている。
だが気に入らないものは気に入らない。

藤井は前任のマスターであったラルゴ・アランに拾われた縁でここで働くことができるようになった。
大勢いる工員の中で、藤井には何かと目をかけてくれた。ラルゴに感謝もしていたし、家族のような親しみを感じていた。家に招かれて夕食を御馳走になったことも度々ある。歳は親と息子ほどに離れていたが、ラルゴは親友であり兄であった。

そのアルゴが1年前に癌で死んだ。
本人も自覚していたらしく、飲むとことあるごとに藤井に俺が死ぬまでに「B」に昇格して「A」を目指して後を継いでくれと言っていた。
藤井はそれを真に受けなかったが、死ぬ三日前に見舞いに行ったICR医療カプセルで「頑張れよ」と小さな声で
ラルゴは言った。優しい目でにっこりと笑顔を向けてエールを送っていた。
藤井はその時初めて後悔した。
資材運搬用のエリア4の道端で行き倒れていた時に、ラルゴに助けられてから数えて5年。
あれから何一つ成長していなかった自分を悔いた。

ラルゴの死後、死に物狂いになって仕事をして昇進試験も合格した。
EからDに等級はあがり、Cに上がるまでは1年かかった。
それでも以前の藤井からしてみると、長足の進歩である。

その死に物狂いの凡夫をタキオン粒子のごとく追い抜いていったジェノに燃え滾らんばかりの嫉妬をしていた。
さらにアルゴより優秀なのではという周囲の評価も気に入らない。
藤井は自分がこれほどまでに吝嗇家だということに驚いてもいた。
何より自分より歳下、しかも女に負けている事実がなんとも悔しくて情けない。

しかしこれが現実である。
AどころかBに昇格するにもため息のでるほどの障壁があるわけで。
認めざるを得ないものを認める勇気が、今の藤井にはなかった。

不機嫌な顔をぶらさげてドームデスクの備え付けのスツールに腰を降ろす。
すっと一差し指をD(ディメンション)モニタのカウンターに合わせて表示された在庫と出荷の数字を手で弾いた。
Cの等級になると現場作業ではなく管理側に業務がシフトされる。
納期の遵守が義務づけられ、品質の安定を保つためのチェックとQC。そして工員の勤怠管理。
藤井には退屈な仕事だったが、給料は悪くはない。
しかし今月はやばい。やばすぎる。ピンチなのだ。
やはり、修理は来月にしとけばよかった。
そもそも、あのポンコツに5000pal出す価値もあったのかと慚愧の念が増してくる。
パンみたいな高級品を食えるぐらいには「C」の実入りは多くはない。
あくまでも「普通に生活する」ぐらいに給料が出るくらいである。

「ずいぶんと青い顔してるけど、拾い食いでもしたの」

隣のドームから同僚のナナ・イスルギが声をかけてきた。
黒い髪にくりくりとよく動くおおきな瞳。先祖が倭人だと言っていたが、少年のようなきりっとした顔立ちしている。まだ二十歳になったばかりの匂い立つような華やいだ空気を纏っていた。
桃色に彩られた頬が健康的な色気を放っている。

ナナはことあるごとにシニカルな冗談を藤井に投げかけてくる。
彼氏はいないらしく、何故か10近くも歳の離れた藤井に興味があるようだった。

「ほっとけ。午後のルーティーンは?」

「概(おおむ)ね順調よ。世は太平こともなし、ね」

ふん、そうだろうよ。何事も起きるわけがない。
だいたいにおいて、管理制御の9割以上はメインフレームの「アヴァロン」に依存している。
つまりは何かのエラーや障害でもおきない限りトラブルにはならない。
一日中、管理モニターの数字を追いながら過ぎてゆく日々。
苦労するのは、半年に一回ほどの大規模なメンテナンスでデータ通信時のボトルネックが生じる時ぐらいだ。

だからおおいに退屈だ。
かといって「D」の組み立て作業に戻る気もない。

「C」に属する管理グループは30歳を超えたシニアが多い。
ナナのようなフレッシュと呼ばれる若手は少なく、60歳を超える管理者もいる。
勤務中は私語は禁止されているので、このセクションはほとんど同僚との交流はなく、共同作業もない。
ナナのように気軽に話しけてくる同僚は「C」に昇格してからは皆無だった。

定時になると一斉にラインが止まり、現場で作業しているDとEの連中が帰り支度をする。
ライン作業場を四方から囲む監視モニタに映る人びと。
そこには一仕事を終えた充実した労働者の笑顔がみてとれる。
1年前は俺もあそこにいたのだなと藤井は苦笑した。
生産ラインの仕事は特に面白いということはなかったが、少なくとも他人との共同作業はあったし、達成感は存在した。仲がいい友人もいたし彼女もいた。生活は今よりカツカツだったが、仕事帰りには安いエールを飲んで仲間とよっぴいて騒いだものだった。

今ではその仲間もいない。
別のエリアに回されたり、昇格して別階層に行ったり、病死した者もいる。
つきあっていた彼女は、藤井が昇格する前に別の男と浮気をして別れた。
別れ際の彼女の捨て台詞が「どうせDのあたしなんか捨てるくせに」と開きなおられたのだ。
なにもかもめんどくさくなった藤井は、「ああ。だろうな」とひと言いって終わった。
その彼女も今は別階層のエリアに移動して結婚したらしいとの噂を聞いた。

人生で輝く時を過ごせるのは、良き友人達とその時間を享受できたときだろう。
藤井は昇格してからは人づきあいが億劫になった。
業務は徹底的なスタンドアローン。
藤井の周りには静寂が訪れたが逆にそれが心地よかった。
自分のことだけを考え自分のためだけに生きることが楽だった。

追憶するようにカメラの映像をぼぅと観ていると、いきなり背中をバンっと叩かれた。

「っつ!!」

「なに浸ってんのよ。定時よ定時」

振り向くとナナがうんざりした表情を浮かべている。

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「ってぇな、このガキ!何すんだ」

「ふんだ。しみったれたおっさんが思い出に浸っても美しくないわよ。ホラぁ、さっさと帰るわよ」

「ああ…。わかってる」


ドームデスクからカートリッジを引き抜いて立ち上がった。
するとナナが腕にぶらさがるように体を密着させてきた。

「ネネ!藤井!明日は休みでしょ。パビリオンズでスペースレイトショーやってるのよ。連れてってよ」

「は?なんで俺が…。あとなぁ、藤井さん、だろ」

「うそっ!わたしの年収低すぎっ!!」

ナナはデバイスに表示された月例サラリーランキングを見ながら目を丸くして驚いている。
藤井の話はまったく耳に入っていない。

「お前ほんと人の話きいてねーな」

「まぁ、細かいこと言わないでよ。こーんな可愛い女の娘とあんたみたいなおっさんの猿人がデートできるのよ。光栄に思いなさい」

ナナの毒舌は今に始まったことではない。初対面から歳上の俺を呼び捨てどころか、猿呼ばわりをしている。
その方面のフェチにはご褒美だろうが、あいにく俺はこんなガキに舐められてへらへらと笑っていられるほど人間できちゃいない。
しかし、そのガキと同じレベルで言いあっているのだから、藤井の精神状態も知れたものだとは客観的かつ冷静には考える余裕はなかった。

「やなこった。んなもん一人でいけ一人で」

藤井は腕をナナから振り払ってネクタイを直した。

「へぇ?何よ!こんな美女のお誘いを断るって言うの?あんた馬鹿ぁ?それとも兄貴ぃ?」

「馬鹿はオメーだ。どこに美女がいるどこに」

「あんた顔も悪いけど目も悪いのね。ついでに頭も悪いわ」

「オメーに言われたくねえよ。それに図工は5だよ」

まったく調子が狂う。こいつと話してるとさっきまでの陰鬱とした気分がアホらしくなってくる。
昔の彼女にだってここまで罵声を浴びせられた事はない。
確かに可愛いが生意気で気に入らない。
それになんだって俺に構うんだ。こいつの容姿ならいくらでも男が寄ってくるだろうに。

ナナは少し寂しそうにうつむいていたが、つーんといそっぽを向いて歩き出した。
そして、ちらと藤井を見ながら思わせぶりにつぶやいた。

「ふーんだ。いいもん。じゃあ、いいこと教えてあげようかと思ったけどやーめた」

その言葉にぴくっと動きを止めて聞いた。

「なんだ、いいことって」

ナナは食いついたとばかりに目を輝かせて詰め寄ってくる。

「聞きたい?」

おねだりするような猫の瞳で首を傾げる。
あざとすぎるその仕草にどれほどの馬鹿男が騙されたんだか。


「いや、やっぱいいや」

「えっ!?」

興味なさげに、くるりと体を回転させてスタスタと歩き出すと、思惑が外れたとナナはあわてて藤井の背中を追いかけた。

「ちょ、ちょっとぉ!待ちなさいよ、この猿!!あんたが大嫌いなジェノのことだってーの」

「何だと?」

硬直したように動きを止めてナナを見ると、してやったりの顔をしている。
ナナはゆっくり近寄って藤井のネクタイをちょんとつついた。

「レイトショーのチケットよろしく、ね!」

悪魔の笑顔に藤井は思わず天を仰いでいた。


【続きはどこかで】

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