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鍋の夜


出来れば曲を聴きながら読まれたし。

鍋はいい。
何がいいかって楽でいい。
そして栄養を無駄無く摂取。

藤井の屋敷。
真紅の月が出ているいい夜だ。

長方形のテーブルに置かれた4つの取皿とタレの壷。
そして牛と豚の霜降り肉に各種の具材。
ガスコンロに焼べられた土鍋に綺麗に盛られた土鍋からは、既にいい匂いがぷぅんと匂ってくる。

「ふっふ〜ん。鍋は単純明快もういいかいってね」

藤井は上機嫌で冷蔵庫のビールの冷え具合を確認した。
鍋から溢れる煮佛の音がリズムよく耳にさえ心地いい。

「え〜と、箸はどこだ。箸、箸っと…ハッシ32てか」

キッチンの収納をまさぐりながら鼻歌まじりに箸を探す。

「おぅ、あった。割り箸サイ箸日本橋」

買ってあった割箸を袋を見つけて、煮立ち始めた鍋の火を少し緩めた。
あと少しすれば、十分に美味しい具に出来上がる。
まさにこれが至高の鍋。

鍋は盛りつけも重要だ。如何に美味しそうに見えるかも食欲をそそる大きなファクターになる。
藤井は均等に盛りつけられた野菜、肉と総菜のコラボにご満悦といった様子でニヤニヤと眺めている。

「冬はやっぱり鍋だぁね。よくぞ日本に生まれけりって痛いよ上段廻し蹴り」

鍋は宇宙と一体になる儀式である。
─と、室町時代のある食通は言ったとか言わないとか。

古来より倭人は医食同源にあり三里四方の野菜を食し琴棋詩酒を珍味佳肴で宴を楽しむ。
鍋はその宴の中心にあり、鍋を食するということは、人が宇宙と意識を一体化させるものだと言う。

春菊、白菜はエンベロープ。豆腐やつくね小惑星。椎茸、榎は流星群。霜降り肉はあまたの星々。土鍋は宇宙の一部を現す無限大。

そうだ。鍋を食する日本人は日常から宇宙へと意識をシンクロさせることに成功しているのである。
なんと素敵なジャパネスク。愛と希望のコスモゾーン。

友人達を待つこのひととき。
すべてが満ち足りたこの空間。

心から日本人に生まれてよかったおっかさん。
藤井は天に感謝する。そしていまだに天中殺を信じてる。火星に生物がいると信じてる。
ドラキュラ伝説を信じてる。どこでもドアを信じてる。夢は必ず叶うと信じてる。
最後に日本を信じてる。日本人を愛してる。

だからこそ、鍋を食せるのだ。
鍋は正直である。作った人の心を映す。

若い頃、やさぐれて組の構成員になりかけた時も、鍋が救ってくれた。
鍋を作ってくれた当時の彼女に言われた言葉を思いだす。

「ふーちゃん、あなた忘れたの?鍋は心の眼で食べるのよ」

転落しかけていた人生を救ったひと言である。
その彼女とは性癖が合わずに別れてしまったが、いまだに彼女の至言は心に残る。

心正しく安らかに。
鍋を食べる前の心得だ。

日本の鍋は宇宙一の食である。
鍋の中で息づく具材には全て小さな宇宙が宿っている。
欧米人は外へ外へと宇宙を求めるが、東洋では内へ内へと宇宙を探る。

そう。宇宙とは鍋そのものなのだ。
つまり宇宙鍋。
深淵なる宇宙の神秘にせまるには宇宙鍋を食し、
その精神を宇宙に浮遊させて幾億光年もの時を超えるしかない。

どれくらい、そんなことを考えていただろう。
長い時間だったような気もするし、刹那だったような気もする。


玄関の呼び鈴が鳴った。


「藤井さーーん、きたよぅ!」

友人の高崎の声だ。

続いて、みさお、タツヲ、周防の3人の声。

「お邪魔しますー」

友人の凸やマソも呼ぶはずだったのだが、凸はサラエヴォから帰国中に空港でエボラの疑いをかけられて出国できないと聞いた。
「ボスニア!ヘルツェゴビナ!」
そう云いたいがためだけに、サラエヴォに行ったらしいが、ジェットコースター級のアホである。
マソはマソで彼女ができたのだが、夜の打席で腰を痛めて療養中である。
さすがのマソでも、彼女相手にサイクルヒットを打つのは難しかったようだ。


「やぁやぁやぁって、ビートルズのズウトルビのゆっとるびー」

藤井は4人を迎えて冷えたビールを急いで冷蔵庫から取り出す。
4人は思い思いにツマミや酒を持ち寄ってきていた。

高崎が白いビニール袋からスナック菓子を取り出すと、タツヲ、みさお、周防も持ってきた土産をひろげはじめた。

広島名産伝説の「牡蠣チップス」、幻の横須賀原産大吟醸「兄者」、茨城の珍味「海老納豆」、湘南特産地酒「サザン」

藤井は4人を座らせて、キンキンに冷えている缶ビールを配った。

「いやいやまぁまぁ、よくぞ忙しいのに来てくれたもんたよしのりダンシングオールナイトってか」

「相変わらず寒いわね藤井さん。死ねばいいのに」

みさおがお決まりの毒舌を吐くと、追蹤して高崎がたたみかける。

「シベリアジョークの藤井さん、能書きいいから乾杯しよう…って」

見るとタツヲと周防は既にプルトップを開けて飲んでいる。

「あんたら、まだ乾杯もしてないのに早いよ早いのござ早漏のウサインボルト;」

藤井は頭を抱えて嘆くが、タツヲも周防も気にしない。
ちいせえことはいいんだよと、構わずぐいっと飲み続ける。

それにつられて、高崎、みさおも飲みはじめる。
鍋を始めるにあたっての禊とも言うべき「ご挨拶」はフライングによって流された。

藤井は一瞬殺意が湧くほど激昂しかけたが、深呼吸をして呼吸を整えた。

鍋は楽しく優雅であるべし。
些末な怒りに捕らわれて、宴を台無しにすることこそ愚の骨頂。
大人になれ俺。
そう自分に言い聞かせて、怒りを胸の箪笥にしまい込む。


「ま、まぁいいや。それじゃあ始めると師走かしますかパラダイス」

ところで鍋にも無限に種類はある。

今日はスキヤキ鍋だ。霜降り牛肉プレミアム。
藤井が回した商店街のクジで当たった最上級の肉である。

このとき藤井はまだ気がつかない。
4人の眼に光る怪しい揺らぎを。

一見、普段は仲良く温和に見える友人達だが今日は違う。
これはまぎれもなく「戦」だった。

野菜や他の総菜の具はもう準備完了だった。
割下に藤井は、山積みされた生玉子を一つ割って自分の椀に入れた。

「みんなも玉子は適当納豆ありがとうっと入れてね」

そう促しながら割下の玉子を溶かす。


みさおは既に缶ビールを3本あけて日本酒に突入している。
驚異的なスピードでアルコールを消化しているが、これはあとが怖い。
そろそろ目が据わってきている。

「おらっ!藤井。肉入れろ肉!」

待ちきれんとばかりに肉を催促するみさお。
既に酔っぱらってるのは明白だ。

「ペース速すぎつうのよ、スリーフォーファイブ。君ってばさぁ…」

トングで豚肉を鍋に入れて食す。うまし。
豚肉もスーパーとは言え高値の高級品。
最高品質の黒豚である。

そりゃ食うペースも速くなる。
一心不乱に肉にかぶりつく。
そして喜悦の表情を浮かべながら感動の嵐。

「こりゃうめぇ!」

周防が叫ぶ。タツヲが笑う。高崎食べる。みさおは食う飲む遊ぶの大乱調。

あっさりはまぐりペロッと2kgの豚肉を平らげて、いよいよ「和牛プレミアム肉」を投入する。
きめ細かく、肉と脂の色が美しい和牛のプレミアム。
肉の宝石流れる銀河。まさに芸術品と言っていい。
まだまだ、このグール達の腹は朽ちることなしこの上無し。

藤井は皿に盛られた肉を調理トングで挟んで一回二回とくるっと回す。

「さぁ、入れるぜぇプレミアム肉をばよぉってばよぉヨーヨー剣玉」

たっぷり勿体をつけて、鍋に投入。
う〜〜ん、肉の煮える匂いも上品な趣がある。

続いて肉を入れ続ける藤井。
この瞬間こそがホスト役の至極の誉れ。

─だが

4人の眼は既に獲物を狙う野獣の眼である。
いわばゲリラで武将に取り憑き武功を稼ぐ一匹の戦士。

お互いを牽制しながら出方を見ている。

高崎はまず外堀から埋めていく「野菜総取スプリット」
みさおは肉だけに焦点を定める「直取りクリスタル」
タツヲは手前の肉と野菜を入れ替える「肉返しサイクロン」

周防は…
具材に関係なく適当に手元にあるものを全部放り込んで食う「クロス・クロ肉ル」だ。


高崎の箸が掴んだ肉と、みさおの掴んだ肉がバッティングする。

「おや、みさおさん。この肉は俺が先に掴んだものですよ。他をお取り下さい」

にこっと笑って高崎は言うが、みさおも笑って肉を掴んで離さない。

「おほほほ。何をおっしゃってやがるのかしら高崎さん?肉を掴んだのは同時だし、ここはレディファーストが紳士の嗜みじゃなくって?」

酔っぱらいながらも平静さを保つ、みさおだがいよいよ化けの皮が剥がれてきた.
箸を持つ手を震わせながら、早くも両雄が激突必死、玄武と白虎。

目覚め始めている情熱が導く結末は運命さえも貫いていく。

みさおの笑顔の横に青筋が浮き上がってきている。
それは高崎も同様だった。

一方が引っ張れば一方がまた引っ張る。
そうしているうちに、漁父の利と言わんばかりにタツヲと周防が肉を食う。

目を糸にして笑いながらも、みさおの声は堅い。

「うふふふ。高崎さんも意外とせこいのねぇ。たかが肉ごときでこんな意地はっちゃってさ」

「ははは。それはそのままお返ししますよ。そもそも肉より魚を食べたほうが体に良い年頃なのでは?」

これに、みさおはぶちんと切れる。

「言うわね、言ってくれちゃうわね。切り干し大根みたいな顔して言ってくれちゃったわね」

「織田のパラジクロロベンゼンとまで言われているオイラになんてことを;」

藤井はそれを見てあわてて止めに入る。

「ちょ、ちょっと止めてよ、お二人さんかく又来て四角。、せっかくの鍋で喧嘩はだめヨン様冬ソナ、ペヨンジュンとかなんとか言っちゃったりなんかして」

みさおの耳に藤井の声は届いていない。
高崎があきらめて肉を離すと、みさおは親の敵とばかりに肉を割下につけて口にほうばる。
鍋の中の肉をあらん限りに掬い取り、自分の椀にわっせと持った。
どんだけ肉が好きやねん。

食べると鬼面の顔もほころんで相が変わる。
とろける食感、溢れ出す肉の甘み。
本当に美味しいものを食べてる時は、人は皆菩薩になると言う。

しかし、すぐに新たな獲物を求めて鬼の貌に戻ってしまう。
高崎はその凄まじい形相を、後にこう語っている。


「ええ…。あの時のみさおさんは、まさにキレた時の新日本プロレスの永田裕志でしたね。肉を食う度に敬礼してましたからね。いやぁ思いだすだけでも恐ろしいです(笑)」
織田議会所属 高崎談

するとタツヲが周防を何やら止める仕草をしている。
周防が手に持っているのは、山盛りの残りの具材だった。

「やめろってツカさん!まだ入れなくていいんだよそれ」

「いいっていいって。大は小をかねるんだから煮ちゃえば同じよ」

「おおぃ!」

周防の手から鍋にあらんかぎりの具材が投げ込まれた。
肉は具材の下に埋もれて視界から消える。

「何さらしとんじゃぁ!わりゃあ!!!」

みさおのガゼルパンチが周防の顎にヒットした。

「がはっ!?」

虚をつかれた周防は庭先まで吹っ飛んで気を失った。
半ケツを出しながら仰向けにひっくり返っている。
ここで肉争奪戦は1人脱落。

残るは藤井を含めた3人。高崎はすでに飲む方にスライドさせたようだ。
が、肉をあきらめたわけではない。
タツヲはてんこ盛りの野菜をどけながら肉を探索している。

藤井は肉には手をつけず、うつむきながら様子をただ静かに見守っていた。

みさおが咆哮しながら肉を食う。
高崎はやけになって、鍋にビールをいれて「コクがでるんだ」としたり顔。
タツヲは、周防の悪戯の後始末をしながら、プレミアム肉をくべ続ける。

もちろん藤井はプレミアムを一切れも口にいれてはいない。
テーブルのビールはひっくり返り、野菜や総菜の残骸がそこらにちらばる。

みさお、高崎、タツヲはもう肉のことしか眼中になく、奇声をあげて肉を争奪している。
周防は以前、半ケツで庭にぶっ倒れている。

とびちる煮汁。耳をつんざく罵声と怒号。
ほとんど、みさおと高崎のものだったが、そんなことはどーでもよかった。

藤井は傍らにある一升瓶をそのまま飲んだ。
しらふじゃもうやってられない見てられない。
程よく酒がまわってきたとこバシッと顔に肉キレが飛んでくる。
みさおと高崎が奪い合いをして、肉が滑って飛んできたのだ。

藤井はぶるぶる震えながら、この阿鼻叫喚の無限地獄を見ていたが、さすがにキレた。

「いー加減にしろてめぇらーー!!!」

藤井は高崎の後頭部にケリを見舞って、みさおの頭に拳骨をくれた。
タツヲは無言で肉を探して鍋をかき回している。

「人が下手に出てりゃあいい気になりやがって。おめーら見たいな悪(わる)は茶碗か皿かっくらいに覚悟しなって支那と韓国紙一重」


高崎とみさおが頭を抑えながら、ニカッと笑った。

「なにさらしとんじゃぁ禿げ…」

「やるっちゅうんかい、藤井の」

完全にバトルモードスタートである。

藤井は右手で来いよとばかりにクイックイッと合図をした。


「上等じゃあー!!!!」

高崎とみさおは藤井に同時に襲いかかった。
もう鍋どころではない。

肉をめぐってのバトルロイヤルだ。
絶対に負けられない戦いが始まった。

タツヲが顔をあげると3人が交差した火花が、美しい火花に見えた。


─数時間後

タツヲは深い眠りにおちていた。
周防は以前として気を失ったままだ。

藤井とみさおと高崎はというと…

殴り合って力尽きて3人ともにボロボロになって倒れていた。

高崎は空になった鍋に顔を突っ込んで気絶。

みさおは、襖をやぶって体を半身出しながらこれまた気絶。

藤井は血まみれになって、最後の一切れを食べようとして椀を持ったまま気絶。

壮絶な鍋の夜はこうして幕を閉じた。



一週間後の名古屋の茶店。

「藤井さん」

茶店で団子を齧っていた藤井に、みさおが声をかけてきた。

「やぁ」

「このあいだはごちそうさま。おいしかったぁあの肉。途中で記憶とんじゃったけどまた呼んでね」

「ああ、俺も途中からさっぱり記憶がねーんだけんども、にんともかんとも」

「なーんかあの後三日ぐらい体の節々が痛かったのよねぇ」

「俺なんかムチウチ・セイウチ・田子の月なんてもんじゃなかったよ。死にそうだった件」

「まぁでもやっぱり鍋は大勢でやったほうが楽しいよね。じゃっまたねえ」

去っていくみさおに手を振りながら、見上げる青空冬の空。

高崎はあれからばったりと菜食主義者になったそうな。あの夜のことは語りたがらない。
タツヲに聞くと、寝てしまった時に不思議な夢を見たらしい。
なんでもアンパンマンとラーメンマンとスーザンアントン子がバトルをしている夢だという。
周防は顎をくだかれていまだに入院中でしゃべることができなかった。

藤井の屋敷は半壊状態となって取壊しになっている。

様々な疵を残した「鍋の夜」で藤井は何を得たのだろう。
刹那に挑むあるがままに。

得ることよりも捨てることが今の世では難しいのかもしれない。
なーんて言っちゃたりなんかして。

【終】

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No title

>かずは
マロニーちゃんとお鍋ちゃん!

やっぱマロニーだよねぇー♪

No title

>高崎さん
藤井さんは照れてだけなんです!
本当です!本当なんです!!

>みさおん
寒くて寒くて家からでれない><
忘年会はすき焼きといきますか!

No title

この寒い駄洒落連発で昨日も今日もガクガクブルブル寒い!
肉をたくさん食さないとヒンニュウから脱出で気ない気がして><
というわけでお肉を譲って^ー^

No title

藤井という男に手塩にかけた高崎米を贈答したら

エロDVDを送ってきたと写真付きで晒されました;w;

No title

>藤井さん
タ、タイトルは!

>いのきさん
昔は焼肉なんか御馳走だったけど今じゃ居酒屋感覚だもんねえ
豊かになったもんだw

肉は人を狂わせる…
小さい頃、最後に残ったフライドチキンを争って激しく兄弟ゲンカしたなw

No title

高崎さんにエロDVDもろた!
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凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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