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夏を食べる



俺は海が見たくなって小旅行に出た。

とはいっても、電車で2時間ほどの場所。
昔馴染みの藤井が住んでいる下田である。

熱海で降りて藤井を待つ。
喫煙所でタバコを吸い終わってスマホをいじくっていると、「やぁ」と声をかけられた。

懐かしい恰幅のよい体躯を揺らしながら、人なっつこい目が笑いかけてくる。
藤井だった。

「藤井さん。相変わらずかい」

「凸さんも元気そうだ。他のみんなも元気?」

「まぁ変わらずさ」

挨拶もそこそこに、藤井のワンボックス型の軽自動車に乗り込んだ。

実は藤井の住んでいるとこから熱海は近いとは言えない。
距離にしたら結構走るのだが、ありがたいことに藤井は快く出迎えてくれる。
7月半ばの下田は土日などの行楽日は道が混む。
しかし、藤井は地元の利を活かして多少遠回りにはなるが、空いている道を悠々と走る。

「藤井さんさ、最近やたらと遠方に出かけてるな。ブログで見てるよ」

「はは。凸さんだってちょっと前に旅行言ったでしょ。京都とか」

エアコンを少し弱めて藤井は軽く笑った。

「ありゃただの社員旅行さ」

俺はそう言って煙草を取り出して火をつけた。

「信は最近どう?やってる?」

そう聞くと、藤井は一瞬顔を曇らせてぼちぼちねと言った。

なんだろうと訝しんだが、それ以上は詮索もせず、ふうんと頷いて車中から初夏の景色を眺めていた。

藤井のアパートに着いた。

「相変わらずいい環境だねえ」

アパートの横に流れる河は、緩やかにその先に見える海に流れ込んでいる。
まったくうらやましい環境だった。

息を吸い込むと、鼻孔に河の水の匂いが染み込んでくる。

アパートに荷物を置いて、土手になっているコンクリートの縁にコシをおろして対岸を眺めた。
ちらほら河原に家族がいて水遊びをしている。

ああ、いいなぁ。こんな情景が日本にはまだある。
100mさきの裸の欄干にはローカル線の電車が通り、絵に描いたようなレトロチックな風景があった。

いつ来てもここはいい。

「ほい」

不意に顔近くに缶ビールのラベルが現れた。
冷気がほんのり伝わり心地いい。

藤井はプルトップを開けて軽く缶を合わせて乾杯をするとゴクゴクを喉に流し込んだ。
俺もそれにならい、ゆっくりと冷えた液体を流し込んだ。

「ぷふぅ…」

お互い顔を見合せながら笑った。

「ははは」

「はっっはっはっ」

笑いながらお互い声が揃った。

「麦茶だこれ!」

いやれっきとしたビールなのだが、ツーカーでジョークが通じる。
以心伝心だ。

「凸さん、夕飯は何を食おう」

「ん?ああ…俺がソーメンを作ろうか。ネギとショウガはあるかい?」

「あるよ。じゃあ俺は岩国の鮎を焼いて、つまみの肴でも作っとこう。あとは八海山があるし」

「吞兵衛のおっさんには、このうえない御馳走だな。ありがたい」

俺はそう言うと、残ったビールを飲み干した。

藤井は笑顔を見せながら、缶をぐしゃりと右手で握りつぶして丸めていた。
アルミ缶とはいえすげぇ握力だ。

俺は彼の時折見せる暗い陰が気になった。
信関連のことだろうか。それともリアルの…。

いやこれ以上の詮索は野暮だ。
歳とりゃ言いたくないことや悩みなんぞいくらでもある。

まさか真性包茎の悩みでもあるまい。


そこらを1人でぶらぶらと散歩すると言うと、藤井はそれならちょっと買物に行ってくると言ってアパートに戻った。

対岸に見える小さな公園には、以前に来た時に可愛い猫が二匹いた。
まだいるだろうかと思い、欄干を渡って公園に向かう。

公園には、2〜3人の男性がツマミとビールをテーブルに置いてよろしくやっている。
猫は見当たらない。
田舎なので知らない顔を見ると、普通は怪訝な目で眺められるが、ここは港町のはずれでもあり別荘や旅館もあるので、普段でも観光客はいるようで別段気にもかけてないようだ。

まぁ若くて綺麗な娘だったら別だろうが、中年のおっさんが散歩していても気にかける奴もいるわけないか。
人相がよっぽど悪けりゃ、警戒もされるだろうが。

公園から海に向かう。
河を500Mほど下るともうそこは海だ。

海を眺めるといつも頭の中でリフレインする歌詞がある。


でっかい奴が 勝つならば
あたりきしゃっぽのコンコンチキよ
チビが勝つから男が惚れた
母シャチの夢を受け継いで

柔道讃歌のアニメの歌詞である

このアニメの中で、主人公が漁師の母親から、おやつだよとカツオを一匹渡されるシーンがある。
じゃぶじゃぶと海水で洗いながら、生のカツオにかぶりつく主人公。

小学生ながらに「美味そう」と思い、兄貴にあれはうまいの?と聞いてみた。
「食えるわけねえだろ」と一笑にふされてしまって、漫画やアニメの虚偽を知ったという。

それはともかく海はやはり大きい。
海は広いな大きいな。
海のようにでかい男になりたかったが、残念ながら米粒のような男にしかならなかった。
世界で活躍している若き才能を見ていると己の人生はと振り返ってのみるが、所詮人は持った分をわきまえて生きるしかない。受け入れながら諦めるのだ。
だが、それは負けではないこともわかっている。

生きているから最高だ。
YATTA!YATTA!君が笑えば藤井も笑う。

そんなもんである。

海は見ていて飽きないとは言うが、さすがに俺は飽きた。
5分で飽きた。何か用かで九日十日。

そろそろ、日が暮れていく。
俺は海を背にアパートに向かって歩き出した。

そろそろ夕飯を作ろう。
実はレパートリーのミネストローネスープはちょっとした自信がある。
これは店にも出せるレベルではないかと自負している。
身体にもいいし、何より何にでもあう。カレーと同じく簡単なので、特に自慢にもならんのだが。

いいトマトがあれば、最高なのだが、そーめんや鮎には合わないのであきらめた。

アパートに戻ると、藤井は台所でトントンと包丁をふるっている。
藤井も料理は得意で色々作ってくれる。

「おう、凸さん。ソーメンの露は買っといたよ」

「サンクス。じゃあ家から持ってきた伝説のソーメンのお披露目といこう」

俺はバッグの中から丁寧に包装されたそーめんを取り出した。
表面には、手鍋そうめん 絹肌の貴婦人と印刷されている。

「ふっ…。まるで高貴なお姫様だな。じっくりと楽しませてもらうぜ」

俺は包装から丁寧にそーめんの束を出しながら、意味不明な言葉をつぶやいていた。

しかし藤井には聞こえていないようで、無心で包丁でまな板を叩いている。
イワシのナメロウを作っているようだ。

俺は大鍋に水をたっぷりといれて火をかけた。

そーめんはとにかくゆがき加減がキモである。誰にでも簡単にできる故に一番難しい。
時間との勝負である。

入れるタイミング。出すタイミング。まさに至高のSEXと同じと言える(ねーよ)

「凸さん、こっちはあがりだ。あとはまかせた」

藤井は己の作業の終わりを告げると、皿をテーブルに並べながら料理を盛りつけている。

「まかせとけ!ばっちりだ」

俺は親指を出してOKを出す。ネギを刻み、ショウガを摺って約美羽は完了。
あとは露を椀に入れてできあがり。

そして、沸騰した湯にそーめんをぱらぱらと放り込む。
見る間に透き通った細い糸に変化していく様は、まさに絹肌。
上品な柔肌をこれから蹂躙するかの如く昂奮してくる(きめぇー)
さいばしでさっと掬いながら湯で加減を探る。

「よっしゃ!ここや!」

手網にうつして、水でたっぷりと冷やす。
さらに、カチ割りの氷が入ったガラスの大器にゆがいた貴婦人を流して移す。

さらさらと、光り輝く白い絹。
思わず、下卑たぐへへと声が出そうになる。
考えてみれば変態だ。

「藤井さん。こっちもあがりだ」

「うい、じゃやるかい」

「うむ」

居間のテーブルの上に並ぶ質素で豪勢な料理。
鮎、なめろう、そーめん、冷や奴、味噌ともろきゅう、、冷やしトマトなど。

まずはビールで乾杯だ。

「お疲れさま。世話になるよ藤井さん」

「いやいや。じゃお疲れさま」

またまた乾杯をしながら、ぐっと喉に流し込む。
美味い。部屋はクーラがほどよく効いていて気持ちがいい。

さっそく氷山に浮かぶようなソーメンを箸で掴んで、つるっと流し込む。
蕎麦は喉で味わえ。先哲のグルメの言葉である。
ソーメンもまたしかり。

「う、うめぇ…」

藤井が唸る。

「だろう?上品なお嬢様を引ん剝いてるようなこの食感。たまらんぜ」

俺はまたしても意味不明な比喩をうたいながら藤井にあいづちを打った。

「エッチなのはいけないと思います!」

藤井が真面目な顔をしながら言うと

「キリッ!が抜けてるぜ」と俺は返した。

楽しい夜は更けていく。
ビールの次は八海山だ。ナメロウをつまみながら酒をやる。
冷えたトマトも鮎も殺人的なほどに美味い。

俺はいま夏を食べているのだ。

夏を食べよう。そして土に根を下ろし風と共に生きよう。
ゴンドアの歌にあるものね(ありません)

そして藤井さんはその夜、俺に悩みを打ち明けた。

どうやら包茎手術に失敗したようだ。
ケチって上野の闇医者にひっかかったらしい。

だからあれほど高須クリニックにいけと言ったのに。

俺はあきらめるなと藤井さんを励ました。

「藤井さん、俺たちには道具が使える手があるじゃないか!」




もちろん

それが根本的な解決にはならないことは言うまでもない。

ちゃんちゃん!





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テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

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No title

>藤井さん
来るよ来るよ。夏が来るよ!

No title

高須クリニックは料金が・・・・

たかす!
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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