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猫日和



うららかな春の午後。

藤井は日課の散歩に出かけた。
日課といってもそう決めてるわけでもない。
こんな気持ちのいい休日の午後に部屋に閉じこもっているのは勿体ないと思ったからだ。

自宅の側を緩やかに流れる河から、その先の海に流れ込む諾々とした水の流れを目で追う。
春の日差しが波光に反射して溢れるさまは、毀誉褒貶に沈む濁悪の日々を一時忘れさせる。
嫌なことがあると藤井はいつも河を見つめている。

静かに何時間でも眺めていたいのだが、いつも近所の老人たちが声をかけてくるので、それは不可能だった。


「藤井さんや。そんなところで小便するんじゃねえぞ」

「しねーよ。ボケてんのか、じいさん」

「ひょひょひょ。そろそろ嫁でももらって手慰みから卒業生せいよ」

「大きなお世話だ糞じじー。ラオウみたいにはよ昇天しろ」


ところで藤井は歩くのが好きだった。
毎日10kmは歩く。

健康のためというのもあるが、とにかく歩きながら散策するのが好きだった。
山歩きも好きは好きだが、以前、山を歩いていたら地元の猟師に間違って発砲されたので以来、山を散策するのは敬遠している。

藤井を撃った猟師は

「すまん。シルエットがイエティ(怪物)かと思ったから(笑」

と、悪びれずに謝った。
まったく失礼な話だったが、一応怪我もなく大事には至らなかったので、慰謝料5万円をふんだくって許してやった。

アパートから10Mほど離れた欄干に寄り添う歩道橋を渡り河の向こう岸に着くと、小さな公園がある。
そこにはいつも猫が二匹ほど住みついていて、藤井とも馴染みだった。

二匹の猫は藤井をみると、すり寄ってくる。
この辺りの猫は比較的人なっつこく、構えたり逃げたりはしない。

「よぅ。元気か」

足下に頭をすりつけながら、にゃぁんと鳴くのが愛らしい。
藤井はたまに餌をあげているので、猫もよくなついている。

ポケットに入れてあるビスケットを数枚砕いて与えると、二匹の猫はぺろりと舐めながら食べ始めた。

櫓が組まれたスペースに四角形の大理石のテーブルと椅子がある。
そこに腰掛けながら、のんびりと猫の食事を見守っている。

猫と山河と春の午後。
ゆとりのない都会では味わえない贅沢な時間だ。

猫は食事が終わると、日なたでうつ伏せになってうとうとしている。
猫は一日中寝ているものだが、何とも愛らしく幸せそうだ。
ぽかぽかの日差しに、もふもふの毛がなぶられて何とも気持ち良さげである。

藤井は思った。猫になりたいな。
猫になって呑気に昼寝をして自由きままに生きてみたい。

「そうだ!猫になろう」

そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。

そしてどうも身体がむずむずする。
目を開くと何故か景色が灰色に見える。

「げぇっ!!」

しかし声に出たのは

「にゃーっ!!」であった。


藤井は猫になってしまっていた。

どういうわけだが猫になった。
目線が低い。身体はしなるような筋肉がついている。

猫?何故に?猫になりたいと思ったら猫になれた。
なんの怪異だこれは。
藤井キャットとか洒落にもならない。色気もない。
もしかして、うち…猫になってるのん?

むうう…。

さぁて困ったにゃ。
藤井は混乱したが、すぐに頭を切り替える。
人間の時の思考能力はそのまま維持されているようだ。

まっ、いっか!

藤井は気楽に考えることにした。

猫になって過ごすのも悪くはない。
アニメは見れなくなるが、そんなことよりも気分がいいのが嬉しかった。
思いっきり伸びをしてみる。
身体中の筋肉がきしきしと喜んでいるのがわかった。
みなぎってくる活力。これが獣の力なのかと感嘆した。


まず、魚を捕ろう。
河辺に降りて、魚を捕ろうと水面を覗き込むと、重心を崩してぼちゃんと落ちた。

底が浅かったので助かった。藤井は慌てて岸には咿啞上がって身体からぶるぶると水気をはじき飛ばす。
春とはいえ、まだ水は冷たい。日なたで身体を乾かしていると、大きな猫がこちらを見ながら近づいて来た。

「ふ〜〜っ!」

テリトリーに入り込んだ見慣れない侵入者を威嚇しているのだ。
さすがに一回りもでかい相手では勝ち目がないと悟ると、藤井は尻尾を巻いて逃げ出した。
人間の喧嘩は慣れたもんだが、猫の喧嘩は勝手が違う。

公園に戻って身体を乾かしていると、人間のカップルがやってきた。

「あっ、猫」

女が寝ている藤井の頭をなでる。

うざい。とにかくほっといて欲しいのにとにかく人間は干渉してくる。
なるほど。人間ってこれほどうざいとは思わなかった。
猫になってみてわかったが、とにかくほっとけと爪をたてたくなるが、身体の大きさからとても適わない相手に対して、本能がストップをかける。
ここは大人しくされるがままにしているのが一番だと。

カップルはひとしきり、くっちゃべると、藤井をひと撫でして行ってしまった。

猫も案外気楽ではないんだなと、急に眠気がさしてきた。
うとうとしながら、乾いた身体の毛づくづくろいをする。

このまま…猫でいるのかな俺。
不安とともに、さみしい気分にもなってくる。

そして…

さっきの猫の片割れがじっとこっちを見ている。

威嚇ではない。
本能的にわかった。後尾を求めている。
番の相手と藤井を認識したのだ。


「ちょっ、待てよ!」とキムタクの台詞。

藤井は俺は男だぞと叫びたがったのだが、それは通じない。

相手の猫は後から背中にのしかかってきて腰を動かし始めた。

「や、やだ;俺は入れるのは好きだが、入れられるのは大嫌いなんだぁー;」


脳天まで突き抜けるような激痛が走った瞬間、また目の前が真っ暗になる。


目を開けると、藤井は人間の姿に戻っていた。

「夢か…びびった」

そう思ってさっきの発情した猫を探すと、いつのまにか消えている。

しかし、なんか尻が痛い。
藤井のケツの痛みは2〜3日消えず、医者にいったら切れ痔だと診断された。


「凸さん、俺さぁ…猫になったんだよ」

知人の地獄突にそう話してみた。


「ほぅ。マラソンでも始めたか」

「それは猫ひろしじゃないか;」

「今、デヴィッド・ボウイのアラジン・セインを聴き直してるんだ。邪魔をしないでくれ」

そう言われて藤井は座薬をつっこんだ尻を抑えながらため息を吐き出す。
確かに猫になった。
なるにはなったがにゃるらとほてぷ。

猫も猫でいろいろ大変なのだ。
藤井は猫の気持ちが少しだけ理解ができた気がした。

あの高揚感は人間では味わうことができない。
また、なれたら今度は魚屋の魚をくわえて逃げてみるか。

そんな妄想を抱きつつ、時々出てしまう「にゃぁ」という語尾を、静岡の方言だと誤摩化しながら過ごしている。

藤井は今日も公園で猫を戯れながら、まどろみの中で遊んでいる。
いつかまた猫になる日を夢見ながら。


【おしまい】



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テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

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No title

>いのきさん
ホモ猫ですw

>藤井さん
デニス•ホッパーのCM思い出したw

No title

最近はアヒルが襲ってくるw

藤井さんに興奮するネコって…
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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