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山姥 前編



【プロローグ】

暗い闇だ。

臭気を含む闇に溜まる邪悪。
それはそこにいた。

それは確かな意思を持ち、思考力もあった。
それはじっと願っていた。

ひもじい。
何か食べたい。

腹いっぱいに胃袋を満たしてみたい。。
食えるものならなんでもいい。

何でも。

そう─

人の肉だって─


ふいに光が差し込んだ。
それは差し込んだ光に向かって跳んだ。

人とも思われぬ速さで跳んだ。

後を追うように断末魔の悲鳴が脳天を駆け抜ける。
白い壁に真っ赤な鮮血が飛び散って塗料のように真っ白な床を汚す。

それは走り出した。何をすべきか、どこに行くべきかはわかっている。

逃げる。思考の全てがそれだけで埋まる。
けたたましい警報が鳴り響く中、それは一切迷いがなかった。
走り着いた先に銀壁に覆われた部屋がある。近づくと戸が自動で開き、部屋には卵形の複雑な装置が見える。

それは確信していた。
これこそが自分を救ってくれる神であることを。


【山小屋】

日出づる国遥か─。

時は平安。
京の都の繁栄とは相反して、病や飢餓に苦しむ民が溢れている。

天変地異による凶作。
深刻な飢饉は極限状態の飢えになり、木の皮を剥いで飢えを凌ぐ姿も珍しくない。
ある者はわずかな食料を略奪するために隣人を殺した。
常寂光土を求めて自ら命を絶つ者もいた。
人は己の欲望のため奪い犯し殺す。

殿上に住まうもの下賎の苦しみを知らず。
赤子が飢えに泣き、年寄が病気で苦しんでいても、知らぬ顔して雅楽や倭歌に興じて酒を飲み歌を詠む。
鬼とよばれるものがあるとすれば、この時代の殿上人(てんじょうびと)こそ鬼ではなかったか。

平安の文字とは裏腹に、人が人にあらず時代。

そんな時代のある山奥に、生まれたばかりのフクロウがいた。
数カ月もすると、自在に飛び回ることができるようなり、夜になると餌を求めて森を飛び回っていた。

ある雨の夜、突然、閃光と爆音が森の静寂を打ち破った。
フクロウは高い樫の枝からその一部始終を見ていた。

ぽっかりと穴が開いた地の中から、何かが這い出してくる。
ボロボロの布切れが、ゆっくりと這い出てきた。
それは人のように見えたが、棒のように細い腕や足。
皺の深く入った面と霜で覆われた蓬髪。目だけは爛爛と妖しく光を放っている。
まさしく羅刹の形相である。

つんざくようなするどい咆哮とともに羅刹は哭いた。
フクロウはその光景を瞬きもせずじっと見ていた。
冴え冴えとした雨の振る冷たい夜であった。


それから数年が過ぎ、フクロウも成獣となった。
フクロウは、山の静寂を破る二つの影を見ていた。

木切れを踏みつける音も飲み込まれるような森の中。
ふたつの影がある。影は大きい者と小さいもので時々その場で動かなくなる。
袈裟を来た旅の雲水の二人が憔悴しきった表情で座り込んでいた。

「いやぁー、助かったわい」

雲水の形(なり)をした入道が豪快に笑い声を上げている。
6尺を超える大男であごに真っ黒い髭をしつらえて如何にも磊落な骨柄に見える。

山小屋のような祖末な造りだが、囲炉裏はあり暖も取れる。
囲炉裏に鍋がかかっており、味噌の香ばしい匂いが漂っている。

「都への近道をと山に入ったはいいが、道に迷うてしもうてのぅ。難儀しとったところに地獄に仏じゃ」 

雲水は膝を打ちながら尚も笑う。

対峙した囲炉裏の向かいに白髪の老婆がいる。
何歳なのかは不明だが、かなりの皺が刻まれて相当な高齢に見えるが、不思議と生気に溢れている。

老婆は鍋の汁を椀によそい、細くしゃがれた声で笑った。

「ふぇふぇふぇ…。それはさぞかし難儀されましたなぁ…。何もありませんがどうか一晩身体を安らかにしてくだされ」

「すまんのー婆さん。これも御仏のお導きじゃわい。なんまいだなんまいだ…」

そう言って頭を下げると、従者の雲水も頭を下げて礼を言う。

「まったく、おばあさんが薪拾いに見つけてくれてなかったら、どうなってたことか…。助かりましたよ」

痩せて小柄な雲水は顔立ちもよく女人のようなシナをつくる。
おそらく若衆道かと思われる艶があった。

「それにこんな山奥で、こんな暖かい馳走にありつけるとはのぉ〜。まさに禍福相成り持って滅せいというところか」

巨漢の雲水は椀の汁を、ずずーっと啜りながら、満足そうに舌鼓を打つ。

「ほんと美味しいですよねこれ。お婆さん、何の肉ですかこれ」

老婆は、目をつぶりながら低く答えた。

「山豚ですじゃ。ここいらの豚は栄養がいいと見えてよぅ肥えとります」

「へぇ…山豚ですかぁ。初めて食べましたがこんな美味しいものだとは」

美しい顔をほころばせて笑う雲水に、老婆は無言でおかわりをよそった。

夕餉が済むと、囲炉裏を囲んで雲水達が諸国事情を語りだした。
薪をくべながら老婆は無言でそれを聞いている。


「しかし諸国の様子はひどいもんじゃな…」

「ええ…。長年の凶作が続き、押入りの物取りも増えて、明日の米のために子どもを売る親もいました」

「わしらは、運良くこんな馳走にありつけたが、ひどいところは草や木の皮を剥いで飢えを凌いでいるというからのぉ」

「ある村では年寄を山に捨てて、食い扶持を減らしているといいますしねぇ」


雲水達は世の行く末を案じている。
特に巨漢の雲水は振る舞いは野卑なれど性根は善良に見える。
おそらくこの時代においては真っ当な人らしい人であった。

老婆は二人の話を聞きながら無言で薪をくべている。

時折、パチッパチッと火がおこり揺らぐ炎が雲水達の話を切った。

「まったく…地獄じゃのぉ。ただ祈ることしかできんワシらには何とも歯がゆい…」



巨漢の雲水がぼつりと言った言葉に、老婆は薪をくべる手を止めた。

「じ…ごく?」


老婆の目は青黒く光ながら雲水達を睨め付ける。

「じごくじゃと…」

その様子に異変を感じた巨漢の雲水がなだめようした。


「おい、おい、どうしたんじゃ婆さんよ」


その声が一切届かぬがごとく、老婆はしぼるような声で身体を震わせている。


「地獄とは、な。地獄とは…食うものが何もないことじゃ。何も食うものが」


老婆の顔は皺でくしゃくしゃになり、白髪の髪が逆立つように跳ね上がっている。


「お、お婆さん、何をそう興奮されておられるのですか」


痩せた雲水が後ずさりをしながら威容に怯えた。


「食えるのは人の肉だけじゃ…。わかるかお主らにその地獄が!」

「なっ!?」

巨漢の雲水が声を上げる。

「お主らに本当の地獄なぞわからん!!」



刹那、バァーン!と老婆の背後の襖が開いた。

襖の中からガラガラと転がり落ちる人骨。
数えきれないほどの骸骨の山。

小屋中に腐臭が満ちていく。


「ばばぁーーっ!!!貴様ぁー!」


巨漢の雲水は思わず手に取った錫杖を老婆目がけて振り降ろした。
遠慮のない豪壮な一撃だった。

しかし、打ち降ろした先に老婆の姿はなく、信じられない脚力で宙に跳んでいた。
そして天井の梁にくくってある紐を引っ張ると、大きな鎌が唸りをあげて振り子のように巨漢の雲水めがけてに襲いかかる。

「ぐあっ!!」

雲水はよける間もなく、胸から脳天までをまっぷたつに割られて絶命した。
痩せた雲水は震えながら、戸口に向かって走り出したが、老婆の鎌は背後から雲水の頭を割った。

老婆は死骸の服を脱がして、綺麗に骨身まで削って肉塊にした。
それを味噌と野菜で煮込みながら、満足そうに笑った。

目玉をコリコリとすすり、肋や腿の肉を齧りつくしてあっという間に平らげてしまった。

今夜も狼煙のように、勝手口から煙があがる。
枝に止まってフクロウは見ている。
既に家族が持って、隣に小さいフクロウが二匹寄り添っている。

何度となく繰り返されてきた光景で、フクロウにとって驚くべきことではなかった。

老婆の勝利を祝うように、フクロウ達の合掌が始まった。
森に響き渡る鳴声は先ほどまでの惨劇を笑うかのようにユーモラスなリズムを刻んでいた。

【後編に続く】
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テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

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No title

>かずは
⊂( ⊂(´_ゝ`)?

!Σ( ̄□ ̄;)

バースデーケーキが2個だったのー♪
丸っとホールで2個~(*´ー`*)
もちろん全部食べた。

にぃにからのプレゼントが届かなーい。
まだぁー??(`Д´≡`Д´)??

No title

>いのきさん
これ元ネタは石川賢の漫画だけどやっぱ漫画じゃないとコミカルさが伝わらないね
下手糞が文章化するとやはり陳腐だなぁ糞w

ババアつええ

この食べっぷりは…
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凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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