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モブの悲劇 (仮想のサイドストーリー)

klkluyikh


フルダイブ型MMORPG「ソード・アート・オンライン」の正式版が発売された。

この日を待ちきれなかったゲーマーは多い。藤井も例外なく下半身を震わせながら待っていた。
一日千秋の思いで待つもどかしさ。

しかし、車やバイクと同じでカタログを眺めながら納車を待っている時が一番楽しいものである。
ゲームも同じだ。サービス開始の一歩手前がアドレナリン出まくりの高揚感を味わえるのだ。

ともあれ、藤井はナーブギアをつけて、ログインした。

インしてまずは各種の設定だ。この禊を失敗すると、開幕ダッシュに大いなる支障をきたす。
アバターは高身長の男性のイケメンに設定。ネームはfuu(フゥ)。
短い名前は総じて女受けがいいからである。
あざとい。さすが汚い。藤井は汚い。しかし立派な処世術でもある。

天才PG茅場晶彦が開発した仮想空間に降り立つ藤井。
アインクラッドの景観はさに壮観だった。心が踊り、いやがおうにも気分は盛り上がる。

周囲を見渡すとさすがに初日だけあってプレイヤーの数が多い。
皆それぞれにこの日を心待ちにしていたプレイヤー達だ。

この世界に魔法はなく、タイトル通りの剣技だけで敵を倒すゲームだ。
リアルの運動能力が脳神経に作用してゲーム内でも反映している。
身体能力に優れたものは、おのずと運動能力がそのままプレイヤースキルに宿るというわけだ。

藤井は考えた。

ソロではやはりきついだろう。
とにもかくにもまずは仲間を作ることだ。

オンラインにおいて最も重要なスキルは、コミュニケーションスキルである。
これがないと、どんなに知識が多く戦闘技術に長けていても仲間を作ることは難しい。
また、どんなプレイヤーに出会うか、でゲームの楽しみ方の幅は決まる。

藤井は、一般レベルのプレイヤーではあるが、卓越したコミュニケーションスキルと野心を持っていた。
この世界でハーレムを作りたかった。
女性に囲まれてくんずほぐれつしたかった。
男の野望は大概こんなもんである。ランプの精に願いを言えば絶対入るこの願い。
いつの時代も男ってぇのはアホである。


早速、明らかに初心者に見えるプレイヤー数名に声をかけてみた。
右も左もわからず不安なプレイヤーは、頼りがいのあるプレイヤーに靡くのは当然必然当たり前だのクラッカー。

快く仲間になってくれたのは3名。
早速パーティーを編成する。最初の仲間の人数は4人が理想だ。少なすぎず多すぎず。
もちろん全員女性キャラである。藤井を入れて4名。聞くと3名ともMMO自体初心者である。

まずは、色々と情報収集からだ。β組なんかは既に経験者なので開幕ダッシュするだろう。
レベルなどは驚異的な速さで上がっていく。
効率的な狩りかたを知っているからだ。
そんなスパルタで初心者がついてこれるわけはない。
まずはのんびりとこの世界の空気を味わうことから始めるのがいい。

しかしレベル性MMORPGおいて、とにかくレベルは最重要なファクターである。
何を持ってもレベルが高いプレイヤーが信頼される。

初めて最高レベルに到達したプレイヤーなどは神格化されたりもする。
リアルの時間を犠牲にしなければ手に入れられない栄冠だ。

でも藤井達には関係はない。そも藤井にとって攻略などに興味はないのだ。
目的はハーレム。それしかなかった。

NPCに聞き込みをしながら大体の雰囲気は掴んだ。
まずは、この4人で狩りをしようと藤井は提案した。

3名それぞれのリアルはあくまで自称であるから、真実はわからない。
背の高い色黒美人のfeirin(フェイリン)。自称、大阪でOL。
小柄で可愛らしいツインテールのmeisa(メイサ)。自称、都内の家事手伝い。
最後に長い金髪とクールな瞳が印象的なreira(レイラ)。千葉の女子高2年だと言う。最年少だ。

当然のこと、ゲームのアバターであるから皆相応に美しく可愛らしい。
しかし─中身はオサーンという可能性も十分にある。
ネカマ上級者はとにかく女より女らしいので厄介だ。

ともあれ、この時点であれこれ詮索するのはマナー違反だ。
藤井はネトゲ初めて20年。酸いも甘いも真っ黒もそれなりに極めていた。
空気を読まないようで読める天才であった。
気くばりが半端ない。
気を使うより腰使えとか言われるぐらい気を使う。
それに修羅場も幾度もくぐって来ている、いわば歴戦のオンライン勇者だった。

この時点でメンバーの中身が男か女かは重要ではない。

まず使えるか、使えないか。それだけである。
強い奴、賢い奴は取り込んでおいて損はない。
ギルドをもり立てていくにはやはり、スキルの高いプレイヤーは不可欠だ。
藤井だけが経験者だとしても、要はやる気と要領と頭の回転の速さでなんとでもなるのがMMOだ。
MMO初心者だったのが、一か月の廃人プレイで軍師級とかよくある話。

レイラが言う。

「フゥさん、あたしはまったくの初心者なのだが足手まといにならないだろうか?」

口調がまさにキャラに似合って格好いい。衣装も短いタイトスカートにスリットが短く入り、すらりとしたプロポーションを際立たせている。
現実にこんな娘が目の前にいたら、男は誰しも前かがみになるだろう。

「誰だって皆初心者さ。黙って俺についてこいよ」

リアルなら超絶うざい台詞もゲーム内ではすらすら言える。

「そ、そうかな…。じゃぁよろしくご教授頼むよ師匠」

レイラに続いてフェイリン、メイサも「お願いします!」と頭を下げた。

藤井は思った。

「気持ちえ〜〜〜!めっさ気持ちえ〜〜!」

毅然とした態度は崩さず、「まかせとけ!」と親指をたてる。
リアルで見たら殴りたくなるその笑顔。
しかし、ここはアインクラッド。なんでも許されヒーローにもなれる世界。

だ・が!

2時間ほど狩りをして、レイラがちょっと用事があるから落ちると言った。
とりあえず、今日は様子見と言うところなので、じゃあ解散するかという流れになる。

「あれ?ログアウトできない」

メイサがツインテールを揺らして困ったポーズを取っている。

「メニューの下のほうにボタンがあるはずだよ」

レイラがぴっぴっと右手でウインドウを広げてスクロールする。

「あっ、ほんとだ。ログアウトのコマンドがないね」

「ええっ!」

フェイリンも驚きながらメニューを開くがやはり同じ。


「ちょっとぉ、これバグだよね」

「多分…すぐGMアナウンスがくるんじゃないかな」

「初日からこれなのにゃ〜。んもうぅ!」

3人娘達は呆れながらその場に座り込んだ。
互いに夕飯や、買物など予定があったようだが、強制ログアウトすらできないとは困ったもの。
藤井もメニューを見たが同じくログアウトできない。
特に予定はないのでこのままでもいいかと、草原に寝転がる。

いい風が吹いている。
ここがオンラインの仮想世界とは信じられないほどのリアリティ。

ログアウトしたら、とりあえず冷蔵庫にある食材で何か作るか。
そう考えていたら、いつのまにかうたた寝をしてしまっていた。

どれほど時間が過ぎたのか。

メイサに揺り起こされて藤井は目覚めた。

「フゥさん!起きて!!大変だにゃ」

「んぁ…?」


瞼を擦りながら立ち上がると、違和感に気づく。
最初のログインした時に降り立つ出発点の広場にいる。
いつのまにか狩り場から強制的に飛ばされたのか。
しかしなんでまた…。

いきなり強烈なボリュームでアナウンスが流れた。

「ソードアートオンラインに集いしプレイヤーに告げる」

GMコールか。皆、ログアウトできない不具合に対するメンテの通知だと思ったろう。

正面の高台に一人の男があらわれた。

「ちぃ〜〜〜っす、プレイヤーの皆々さまがた」

白いマントをはためかせながら、チャラい挨拶をする男。
数千を超えるプレイヤーの視線は、この男に集中した。

「ども茅場晶彦っす!このゲームの開発者っすー」

プレイヤー達がざわめく。
なにかのエクストラ・イベントだろう。開発者の登場にプレイヤーの表情が安堵に緩んだ。


「え〜〜、今現在ログアウトができない状態になっていると思いますが、それ不具合じゃねーからww」


はぁ?


プレイヤー達は口々にこの不可解な言葉の意味を理解できなかった。

「つーかぁ、リアルの身体から無理にナーブギアを外したら、おめーら死ぬからww」


─────────────────


一瞬の静寂。

なんだとぉーー!!!

地鳴りのような怒号が茅場に向かって浴びせられた。

「ふざけんな!」

「殺すぞてめー!」

「なめんなボケ!」

「はよ解放してー><」

「ピザ頼んでんだぞ!勘弁してくれえ;」

様々なプレイヤーの怒りの声。

その中には、まだ何かのイベントだと思いこんで、へらへら笑っているものもいた。


藤井はその様子を見ながら、まだ状況を理解できないでいる。

「ええっと…ログアウトできないつうことは…ここから出られないってことか」


「冗談でしょ…。冗談だよね…。あたし明日から家族と旅行なのに…」

今にも泣き出しそうないきおいで、メイサがその場にへたりこんだ。
フェイリンは広場の中央を見ながら、困惑した表情で無言で爪を噛んでいる。
レイラは表情を変えずに成り行きを見守っていた。

「でね、もうひとつショッキングなお知らせ〜。ここで死ぬと生き返れないっすよ。リアルのナーブギアが脳の神経を焼き切っちゃうから、死んだらはいそれまでよっす。あぼーんっすwww」

茅場のこの言葉に、へらへらと笑っていた者達も顔色を変えた。

「まじかよ…」

小さいどよめきと同時に、波紋のようにざわつきが拡大する。

その瞬間、全てのプレイヤーアバターのテクスチャーが電磁気を浴びて歪んだように見えた。
バリバリッと音をたてて、光の粒子がアバターの身体全体を包んだ。

「うわっ!」

「なんだぁ!」

「きゃぁ!!」


短い悲鳴がそこかしこに響き、パニック状態になっている。

一瞬のことであったが、それが収まったあとに今度は大きな悲鳴や絶叫が膨れ上がるように渦を巻いた。

「なんじゃこりゃぁああああ!!!!!!」

自身のアバターが変化している。
今まで美麗な8投身イケメン&美女が、普通のあんちゃん、ねーちゃんになっていた。

リアルの己自身の姿になっているのだ。
ネカマ、ネナベだった者も元の姿に。

若い者が大半をしめていたが、その中にはおっさんおばさんもいた。ジジイババアもいた。
小中学生と見える者もいる。


藤井も例外なく元の姿に戻っている。
もちろん3人娘もリアルの姿だ。


「……もしかして師匠…か?」

目の前の黒髪の少女が藤井を見て言った。

「お前レイラ…か?」

女性がうなずくと、ふぁさっと長い髪を軽くかきあげた。
まだ10代には違いない。
レイラはスラッとしたスレンダーな少女だった。
目は多少きついがアバターにも劣らない美貌である。
身長も170cm近くあるだろう。
モデルか何かやっているのかもしれなかった。

というかありえない奇跡を藤井は目のあたりにしている。
ネトゲにリア美なし!を信条にしていたのだが、これからは改めなければならない。

「さすがにおっさんだな。師匠」

レイラの男口調は変わらない。苦笑しながらも、藤井のリアルの容貌にさほど驚いてはいなかった。
というより、アバター時よりクールな印象を受ける。

「そりゃそうだ。三十路は過ぎてんだからな」

開き直ってメイサとフェイリンを探して周囲を見渡す。

すると背後から肩をとんとんと叩かれた。

「にゃぁ」

振り向くと、小さくて丸っこい女性がいる。
歳は20代半ばというところか。
メイサだ。こちらもリア女だったか。

「フゥさん、リアルはやっぱりって感じー」

そう言いながらケタケタ笑い出した。
見透かされている。アバターとリアルとのギャップに堪えきれずに爆笑していた。

「おめーも詐欺だろ。なんだその丸い体型は」

「ぽっちゃり系です。今の流行ですにゃ!」

「ですにゃ!じゃないよ、まったく…」


最後にフェイリンはと見渡すと、こちらをおどおどと見ている眼鏡をかけた女性がいた。

「フェイリン?」

藤井が言うと、顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。
下を向いて無言のままだ。
アバター時はかなり気さくに話していたのだが、リアルは極度の人見知りなようだ。
30歳をいくらか超えているように見える。
OLということだが、こんなんで仕事できるのかと心配になる。

「って…暢気にしてる場合じゃないって!茅場の話はまじなんか」

「この世界の死はリアルと直結しているとか…そんなこと言ってたよね」

メイサが怯えた顔で身体を震わせる。

中央広場の高台に目をやると、茅場がニャつきながらプレイヤー達の狼狽ぶりを眺めていた。

「ひゃーっははは!ドウデスカー!!これがものほんのゲームっすよ、生死をかけたマジゲーム。ワクワクするっしょ、ゾクゾクするっしょー」

リアルの姿をさらけ出したプレイヤー達の動揺は収まらない。
そんな様子をあざ笑いながら、茅場は両手を広げながら叫んだ。

「では、皆様!存分にこのリアルオンラインをお楽しみくださいねー!あ、そうそう100層のダンジョンをクリアできたらログアウトできるっすよー。ではそれまで頑張って生き残ってちょんまげ!シャラバーイ!」

そう言って茅場はどこかへ転移するように消えた。

遊びじゃないゲーム。この時点から真のサバイヴァルゲームが始まった。
藤井は頭をフルスピードで回転させる。

戦争でも災害でも頭の切り替えが速いものが生き残る確率は高い。
そしてあきらめないことだ。諦めたものから死んでいく。
これはゲームという名の生存戦争だ。

藤井はこのパーティを何とか強くして仲間を増やそうと考える。
まずは堅牢な体制を作り、効率的なシステムでレベルを上げていくのが先決である。

死んだら終わる。回復アイテムも大量に買い込むこと。
金の稼ぎ方、安全な狩りのやり方。

そして一番は、他ギルドとの摩擦をなるべく避けること。
ただのゲームだったらまだいいが、これはもはやゲームではない。
少人数の場合、弱小すぎても舐められる、しかし目立ちすぎても面倒ごとは多くなる。

最初はじっくりと力を蓄えていくことが、急務の課題だ。
β組などは、D攻略に精鋭部隊を編成するだろうが、そんなものは戦闘キチガイにまかせておけばいい。

まずは、安全に、快適に、この世界で暮らしていくことが先決である。
藤井は徹底的なリアリストである。
己のできる分を超えての冒険は決してしない。

「現実を受け止めよう、とにかく当分ここで暮らすことを前提に動くべきだ」

メイサは泣き出した。フェイリンもグスグスと泣いている。
無理もない、突然こんな状況になったのだから。
おっさんだって泣きたいよ。ってか俺一人暮らしなんすけど…。

まぁ…会社の誰か訪ねてきて何とかしてくれるだろう。くれるんじゃないかな。
くれないと困るぞおい!

レイラは最年少だと言うのに、相変わらず落ち着いている。
てか、こいつほんとに17歳か?と藤井は訝しむ。
大人より大人っぽいので、一回り以上も下の娘に気圧されてる感じがして何か悔しい。

「師匠、まずは金を稼いで家を買うべきだな」

「家?先に装備じゃねーのか、この場合」

「初心者ながら言わせてもらうと、まずは住む拠点をしっかりしておいて、徐々に装備の充実を図るほうがいいんじゃないかな。どうせ戦闘なんか高レベル帯の敵は倒せないし」

「ふむぅ。それもそうか」

「女性が3人いるから、まずは落ち着く場所が欲しいんだよ」

レイラがクールながらも少し微笑みを浮かべてそう言う。

「レイラたんにさんせーい!メイサもそう思うのにゃ。フェイたんもそうだよね?」

メイサに促されてフェイリンはコクコクと頷く。

「じゃ、まぁ階層を決めて家を買う金を貯めるか。それまでは節約しないとなぁ。金はまとめて誰かが監理しとかんと」

「会計とか、あたしは苦手だぞ。恥ずかしながら…数学とか赤点ぎりぎりだし」

「メイサは家計簿つけるぐらいしか…」

フェイリンがいきなり手を挙げた。

「あのっ、あのっ…あたし会社で経理やっていて…株も少々やってます…」

「おぉっ!!」

3人はフェイリンの意外なスキルに声をあげた。
何よりフェイリンのリアル後の初めての発した声に驚いた。

金は貯めるだけではダメだ。貯めて眠らせているだけの金は死銭である。
金を活かすのは運用してこそである。
それはこの世界においても変わらない。
まずは、金を貯めて情報を集めていくことを日常の課題とすることと決めた。

ギルド名も決めた。

「サファイヤ・リング」

命名はレイラだ。藤井は「ナカダシマン」と名づけようとしたが、レイラにグーで殴られて諦めた。
美人女子高生に殴られるご褒美。藤井はまさに羽化登仙の境地にいた。


半年が過ぎた。ギルドは女性陣の丁寧な勧誘と、頑張り鵜により順調に人が増えていった。
フェイリンの会計手腕も大したもので支出のバランスもよく、転売などの利益で15層にある住宅街に一戸建ての大きな家を買うことができた。
今では、総勢10名ほどギルメンが常駐しちょっとした中堅規模のギルドになっている。
もちろん、全て女性である。男は藤井一人だけであるが、表向きはレイラがマスターということにしてある。
藤井は元来、表より裏で動くほうのが好きだった。
一応目的はそこそこ達成したと言える。別にギルメンが恋人となるわけではないが、女に囲まれた生活には違いはない。
藤井のテンションは達成された目的に反して急激に低下していった。

ある昼下がり。今日はギルドの活動はオフの日である。
藤井は郊外にある沼に釣りに出かけた。
狩りでもいいんだが、たまにはゆっくりと考える時間が欲しかった。
夕方近くになってもまるで釣れない。
この沼には主が生息しているというが、魚一匹跳ねることはなかった。

煙草に火をつけて、空を見る。快晴の空に雲が流れていく。

昨晩のギルド連合の定期会合である報告を思い出した。

報告によると攻略組と言われるβ組が45層まで攻略に成功したという。
大したものだと思う。
ああいう奴らが、物語の主人公になるんだろうなぁ。

しかし─下手打ったら死ぬんだぞ?洒落じゃねえしよくやる。怖くねぇのかな。

だがうらやましくもある。未知の敵をなぎ倒して武名を上げる。
それは死と隣り合わせのタイトロープだ。
もちろん、大多数は藤井達のように生活を前提として安全マージンを取りながら戦っている。

ありていに言えば、攻略組に運命を丸投げしているだけである。
でも実際は当たり前にそうなる。誰しもヒーローにはなれないし、
ここで死んでも意味はまったくない。つかゲーム中にアボーンされたただのアホだ。

男として血はたぎらないでもないが、ゲーム内においてもおのずと己の限界というものは見えてくる。
攻略組のような鬼のような強さもないし知略もない。
そこそこ強い。それだけであった。

釣り糸を垂れながら、そんなことを思う。

「釣れますか」

いきなり声をかけられて、ひっくり返りそうになる。
思わず釣竿を落としそうになった。

見ると、黒いコートを着た少年が立っていた。
中学…いや高校生かな。
可愛い顔をしている。ジャニタレのようだ。
ジャガイモのような顔をした男性プレイヤーが多い中、久々に美形な男を見た気がする。

「いやぁ、さっぱりだね」

藤井は竿を持ち直して、無愛想につぶやく。

この少年、相当レベルが高いな。
藤井は直感でそう思った。

黒いコートに背中に背負った剣。見た目は黒髪の少年…。
あっ、確か…。

藤井は少年をジロっと見て釣り座を置いた。

「あんた、もしかして攻略組のキリトさん?」

「あ、まぁ…そのキリトです」

「ふぅん、噂じゃ凄い剣技使いだそうだが…。確かあの血盟騎士団のアスナにも劣らない腕だと」

「ははは…。噂ですよ噂。そんな大層なもんじゃいないです」

藤井は、そういって謙遜するキリトを見てねたましくも思った。

若くてイケメンで強くて…女にもてて…。
こいつが主人公なら俺はせいぜい通行人A、よくて取り巻きの一人ってとこか。
生まれもった天分には凡人はどう足掻こうが適わんな…。

しかし、現実に帰還できる微小な望みは、この主人公達にかかっているのだ。
俺らではどうしようもない壁を越えて高みを目指せる者。

「悪いなキリトさん」

「えっ!なんですか一体」

「俺も始めはこの世界で天下とるぐらいの気概はあった。が、ログアウトできない、死んだら終わりってことがわかった瞬間、保身に走った」

「………」

「そりゃ男だったら、夢見るさ。敵をなぎ倒してどんどん強くなる。死をも厭わず突き進むとかね。でも俺にはもうできない。怖いんだよ死ぬのが」

「それは…誰だって死ぬのは怖いと思いますよ」

「怖くて行動しない、でも生き残る戦いはやめたつもりはないんだが…、前線で戦ってる君らを見るとどうもね。自分が情けなくなる」

「………」


キリトは押し黙ったまま、沼を見つめていた。
日常に死を感じて生きているものは、どこかネジが切れているのかもしれない。
纏っている雰囲気が、どこか陰っているように見える。


「師匠〜〜!」

レイラの声だ。

こちらを見つけて走ってくる。

「師匠、こんなとこにいたのか」

「ああ、今日は坊主でさっぱりだ。ああ、こちらは攻略組のキリトさんだ。お前も知ってるだろ」

レイラは息を整えてキリトを見ると、うろたえもせず丁寧に挨拶をした。

「お初にお目にかかります。サファイヤ・リングのレイラと申します。お会いできて光栄です」

「あ…どうもキリトです。サファイヤ・リングのレイラさんなら俺も知ってますよ。黄昏の剣姫の通り名は有名ですから」

「恐縮です。以後お見知りおきを」

「こちらこそ」


こうしてみると美男美女でお似合いのカップルとも言える。
背丈が同じくらいに見えるが、レイラは女性にしてはタッパがあるのしょうがない。

レイラはあれから恐ろしいほどの上達ぶりでレベルと腕を上げていった。
その剣捌きは緩やかでいて鋭く、妖艶な動きで敵を倒していく。他のギルドの手伝い要請がくるほどで、黄昏の剣姫と呼ばれるようになった。
つーか誰がつけるんだこんなあだ名を。

とにかく藤井などはもう師匠と呼ばれるのすら、恥ずかしくなる域に達していた。
メイサとフェイリンは戦闘スキルはそれほどでもないが、各種生産スキルを上限まで上げている。


「そろそろ夕飯だよ。帰るぞ」

レイラはそう言うと道具を片付けながら先に戻っていった。

「ああ、わかったわかった」

藤井はキリトを見ながら。軽く頭を下げた。

「じゃまぁ、かみさんが来たので、帰りますわ。攻略頑張ってくださいな」

キリトは目を丸くして驚いた。

「かみさん…?って、まさかお二人結婚してるんですか?」

「ああ…先月に。恥ずかしながら、ちと若い女房ですけど、俺には過ぎたもんで。そのためだけに生きてても悪くないなと思ってるんですわ。我々は大いなるモブですから」

「なるほど…。それもまた一つの戦いかもですね」


藤井は少しはにかんで笑顔を見せた。


キリトはまだ一人立ちながら思っていた。
拳を握りしめながら思った。

「モブでも勝ち組か……。くっ!」
↑ちょっと悔しい

この後、キリトとアスナが結婚するまでには1年以上のタームがある。

藤井とレイラが何がきっかけで盛り上がってそうなったのかはわからない。
しかし結婚した後は、ギルメンもうざがるほどのラブラブっぷりであった。
あのクールなレイラが表情を崩して藤井に甘えるなんて想像できないだろうが、
とろけそうないきおいで藤井を慕っていた。

それ以来、藤井はすっかり隠居生活になれてしまい、戦闘もせず生産もせずほとんどレイラのヒモとなった。
周囲から非難囂々であったが、レイラはまったく気にもしていない。
藤井は夜の営みがものすごいからである。

そのうち藤井は他の女とも浮気をするようになった。
魚ばっかじゃ飽きる。たまには肉を食わないとなど意味不明なことを言って女を口説いて手込めにした。

藤井は性技の味方と通り名を持つようになり、浮気を知ったレイラは泣いた。
レイラにとって藤井は全てだった。リアルに復帰しても離れる気はなかった。
言うなれば愛が重すぎた。故に盲愛していたのだとも言える。

となると、行きつく先は冥府魔道しかない。

レイラは変わらず藤井を愛した。しかし次第にそのけなげさが鬱陶しくなってきた。
普通であれば美しい若い娘を嫁にした幸運に男は狂喜乱舞するものであるが、如何せんレイラはSEXに淡白であった。
それが藤井には物足りなかった。
もっと色んなプレイをしてみたかった。一度、浣腸プレイを強要したら反対にケツに木刀をねじ込まれた。
愛故の悲しき顛末である。
それから藤井の公然とした浮気が始まったのである。


その日も藤井は別のギルドの娘とホテルにしけこんだ後、数ラウンドを消化して一人で出て来た。

水辺の沿道を歩きながら、鼻歌を歌っていると、なにやらドンッとぶつかってきたものがある。

「おいっとぉ…」

なにか背中のあたりが痒い。
腹のあたりを見ると、鈍い光を放つ剣が生えている。

血が一気に噴き出して、HPがみるみる減っていく。

「え…?え?」

ガクッと膝をつくと、目の前には泣きながら剣を握っているレイラがいた。

「レイラ…お前」

「師匠…!」

レイラは藤井の首に切っ先を振り下ろした。
藤井の首が飛び、HPは0になる。

そこそこ悪くない人生だったな。泥につかった人生だけど、一度きりで終わるなら。
思考がそこで途切れ真っ黒にブラックアウトした。

ブブブッと藤井の首と胴体が揺れ始め、細かい粒子になって砕け散った。

「うわぁぁああん〜〜!師匠!師匠〜〜!」

レイラはうつ伏せになって泣いていた。
いつまでもいつまでも泣いていた。


その後、キリトがラスボスの茅場を倒し全てのプレイヤーがリアルに生還した。

回復したキリトは、その後、時を待たずにアルヴヘイムオンラインへ身を投じる。
たまに、あのモブのおっさん、藤井の姿が頭をよぎる。
モブの勝ち組のおっさんは、あの女子高生とリアルで結婚したのだろうか。

そんなことを思いながら、キリトはアスナの眠る病院へ自転車をこぐのであった。


【終】
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テーマ : オンラインゲーム
ジャンル : オンラインゲーム

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No title

>藤井さん
モブキャラとしての藤井さんの活躍をもっと書こうと思ったんだが全然活躍してねえっつう
挙げ句に死んじゃったw

>いのきさん
実は俺も書いてて殺意が湧いて来た!

>烈風記者さん
原作乗っかり企画だけど楽しんでもらえたならそれでw
創造力がないんでパロぐらいしかできんのですわ

これはマジで名作の予感。
ラノベでの出版を視野にいれた方がいいよ、凸さん。ほんと、これ、おもしろい。

一瞬、「藤井さんうらやましいと」思ってしまったオレが恥ずかしい…

No title

フェイリンの名前が怖い件

SAOは傑作だね!信長も将来的にはああなってほしい
騎馬にまたがり槍を使うぜぇヒャッハー
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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