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信オン 三浦を訪ねて三千⑯




抜首村への道のりは思いのほか時間がかかった。
既に日が暮れかかっている。

山裾の広がる原生林を背に、ひっそりと集まっている集落。
それが抜首村だった。

戦火が及んでいないと見えてシダなどの長寿の高木も多い。
道すがらの雑木林などを見ても、手つかずでそのまま残っている。

わらぶきの祖末な民家が4〜5ほど見える。
見るからに”外れた村”であった。

「しけ…まくってんな」

凸は、ため息を漏らすように吐き出した。

さすがにこれでは、まともな宿屋などはないだろう。
下手するとそこらの社か、馬小屋で寝るしかないかもしれん。
晩飯などは期待できそうもない。

「でも灯りがついてる家はあるねえ…。宿屋はなさそう」

「おじちゃんハンバーグ食べれるのん?」

「……運がよけりゃな。なんとかなんだろ」


3人は、目についた一番大きな門構えの民家の戸を叩くことにした。
とりあえず、一晩の塒を確保しとく算段だ。


「はい、はい!にぃに、ここはあたしにまかしてちょんまげ!」

「いいけど、なんでそんなにはりきってる」

「ほら、にぃにの人相だと山賊に間違われかねないし〜。あたしのような可憐な乙女が泊めて〜ん♡と言った方が、何かと心証もいいしサービスがよくなるかもでしょ?」

「俺の人相、そんなに悪いかなぁ…。まぁ男よりは女が茶をつぐほうが気が利いてるとは言うが」

「まぁあたしにまかしとき!」

「かずはたん!頑張るのん」

美代に応援されて、かずはは戸を叩いて家人に問いかけた。

「もしもし、旅のものです。申し訳ないのですが一晩宿をお借りできないでしょうか?」


柄にもない猫なで声を出しながら、すがるよう頼み込む。

すると、引き戸が開いて一人の老人が出て来た。
片手に柄杓を持っている。
小柄だが、人相が悪く片目がつぶれていた。
70歳を過ぎているだろうその身体に似合わず、目には力強さがみなぎっている。

その老人の迫力に圧され、かずははあわてた。

「あっ、あの…怪しいものではありません。一晩宿を…」

ビシャッ!!

老人はかずはの言葉が終わるのも聞かずに、柄杓に汲んである水をかずはにぶちまけた。
かずははいきなりに冷水を浴びせられて固まった。

「……!?」

「帰れ。馬鹿」

老人は投げ捨てるように悪態をついて、戸をぴしゃりと閉めてしまった。


戸の前に、濡れ鼠になってただ立ちすくむかずは。

凸は、自信満々で特攻していった先ほどのギャップに抱腹寸前である。

「っ…くっ…」

美代は哀れむ目でかずはを見ている。

その様子がとてつもなくシュールでユーモラスだった。
さすがにこれは笑ってはいけない。人として笑えない。
しかし、笑ってはいけないという枷ができると人は何でもないことで笑いをこぼしてしまう。

必死で笑いをこらえる凸を尻目にかずはは無言立ちすくんでいる。

ようやく戸口から離れたかと思うと、ごそごそと荷物の中から黒くて丸いものを取り出した。

なんと大きな炸裂弾である。
吹っ飛ばす気だ!こいつまじだ。

凸はさすがにあせり、導線に火をつけて炸裂弾を投げ込もうとしているかずはから炸裂弾を取り上げて火を消した。

「やめろバカ。家ごと吹っ飛ばす気か!」

「わーーん;;返せー!あの糞じじいぶっ殺ーす!!舐めやがってしちりん風情がよー」

「落ち着けって。ここで騒ぎを起こしても始まらん。それにジジイを吹っ飛ばしてもお前の体重は軽くならんぞ」

「体重かんけねーぇし!とにかく許せない許せない!乙女の顔に水をかけるとか;ありえねー」

「誰が乙女だ…。いい加減そのMY設定やめろ。お前はサイボーグ黒ちゃんか」

「うっさい、女は一生夢見る乙女だょ!」

「だょ!じゃねえよ。いいから落ち着け、ほら美代も見てるし」


かずははハッとして美代を見た。
美代は悲しそうな顔をしてかずはを見ている。

「美代ちゃん…うう;」

かずはは美代にすがるように抱きついた。
これではどっちが歳上だがわからない。

プライドを見知らぬじじいに傷つけられたかずは。
しかし、そのかずはを優しく抱きしめて慰める美代。

「かずはたん、気にしないのん。あとでドラ焼きをあげるから元気だすのん」

「美代ちゃん…ありがとうね。ごめんね、こんな……!って、まだドラえもんの設定続いとんのかい!」

「うち、わかったん!かずはたんは、太ってるんじゃないのんな。人よりちょっと体格がいいだけなんよね」

「いや、それ北斗の拳の雑魚の台詞だから…もうやめてぇ;」


かずははすっかりいじけてしまった。
こうなると、当分だめだ。

とにかく早く宿を確保しないと。

凸はさきほどの家のはす向かいの民家の戸を叩いた。

するすると戸が開いた。
出て来たのは、血色の良い品の良さそうな老婆である。

「すまん。旅の者だが一晩夜露をしのがせて頂きたい」

丁寧に頭を下げると、老婆はにっこり笑って家に凸たちを招きいれた。
先ほどの老人とは大違いなので、いささか面食らったが、ありがたいことには違いない。

礼を言いながら、土間に足を入れた。
家の中は正面に囲炉裏があり、鉄鍋が天井の釣り金にかかっている。
質素ながらも掃除も行きとどいていて綺麗だった。

「まぁまぁ。お客様なんてほんと久しぶりじゃ。よう来なすった」

「突然すまんな。旅の途中だが子ども連れで足がなかなか伸びなくてのう」

「いえいえ。ここいらなぞは旅の人が訪れるのもまれでして…。おやまぁ、めんこい子もいらっしゃる」


老婆はそう言うと、美代を見ながら微笑んだ。

美代は笑いもせずに、ささっとかずはの影に逃げ込んだ

おかしいな、と凸は思った。
誰にでもなついて人なっつこい美代が、こんな温厚そうな老婆を遠ざけている。

「あらあら。恥ずかしいのかえお嬢ちゃん。ほほほ…」

そう言って老婆は静かに笑った。


凸は部屋の隅に陣取り、胡座をかいて老婆の所作を見守っている。
かずはと美代は囲炉裏のそばで手をだしながらぬくんでいた。

老婆は鍋に水を入れて囲炉裏にかけ、台所で野菜を切っているようだ。
リズムよく包丁のリズムがまな板を叩く。

「おなか減ったぁ」

かずははさっきのトラブルでかなり体力を消耗したようだった。

「うちも減ったのん」

「ほほほ。若い人は元気だねぇ。いますぐ夕飯の支度をしますんで少々待っていてくださいな」

「世話をかけるな婆さん」

いえいえと言いながら、ゆっくりと台所へ向かう。
美代もはしっこく手伝おうと老婆に近づくが、いいから休んでなさいと言われて、仕方なく囲炉裏の前に戻った。


凸は荷物から小さな箱を取り出した。
中にはパックされたレトルトのハンバーグがいくつか入っている。
店で出しているものを非常食として持ってきていたのである。

それを老婆のところに持っていき、これを調理してくれんかと頼んだ。
老婆は「へぇへぇ」と快く快諾してくれた。


料理の支度ができると、囲炉裏を囲んで4人は座った。

鍋には、味噌で煮た大根や白菜キノコなどの野菜と、さきほど渡したハンバーグの身が入っている。
椀を渡されると、ぷ〜んといい匂いが鼻を刺激してきた。

「いただきます」

それぞれ手を合わせて、椀の汁を啜る。炊かれた麦飯も美味い。

凸は箸を置いて老婆に問いかけた。

「婆さん、ひとつ聞きたいんだが」

「あい。なんでしょう」

「向かいの爺さんに一晩宿を貸してくれと言ったら、水をぶっかけられたんだが…あの爺さんは人嫌いなのかね」

「ああ、源三さん…。あの人は昔、泊めた旅人に襲われたんです」

「ほぅ、それはまた…」

「以来すっかり人を信用しなくなりました…。以前は誰からも好かれる優しい人であったのに」

「この村に若いものは?」

「いやしません。若い人は西に東に稼ぎを求めて出て行きます。ここはもう10人程度の老いぼれしかおりません」

「ふむ…」

かずはと美代は一心不乱に箸を動かしている。

「しっかし…豚みてぇによく食うなぁお前は…」

凸がかずはの食いっぷりを呆れて見ている。

「もぐもぐ…、ごくっ…。ぶ、豚じゃない!」

「それでよく戦闘とかできるなお前」

「へへーん。エネルギー代謝率が高いこの身体。お父さんお母さんありがとう!丈夫な身体にありがとう」

「というより鋼鉄の胃袋だな。あらゆるものを咀嚼するブラックホール…っ!?」


その瞬間、凸の動きが止まった。
かずはの右手が凸の腹にめり込んでいる。

ストマッククロー。胃袋のあたりをワシ掴みにする地獄の禁じて。
かずはが相手を黙らせるときの必殺技だ。
しかも相当の握力がないと効果はないのだが、まるで万力のように凸の胃袋を締め付けてくる。
恐ろしい握力だった。

「ぐっ……おい、やめろ…」

凸の顔が苦悶に歪んでいる。

かずはは素知らぬ顔で、右手に力を込め続けている。

「わるかった;すまん、もう言わない…」

顔色が青くなり、脂汗が浮いてくると、ようやくかずはの右手から解放された。

「はぁ;はぁ…殺すきかっ」

息も絶え絶えに、手をついて息を吐き出している。
かずはは涼しい顔で椀を啜っている。何事かあらんやといったていである。

「あらぁ、にぃに様。どうかいたしまして?ほほほ…」

「ぐっ;野郎…」


かずはは、メインが薬師であるのに真紅内でも屈指の怪力を持つ女だ。
全米アームレスリングの優勝者の腕を叩きおったこともあるのだ。

凸は見かけは無頼に見えて、虚弱体質である。
喧嘩をまともにしたら、ふるぼっこにされるのは凸のほうであった。

「あまり調子に乗ると…本当に埋めるわよ」

かずははにこやかに笑いながら、サラッと怖いことを言った。

「ごめんなさい…調子こいていました;」

凸は素直に謝った。さすがにまじぎれされたら、命に関わる。
しかし、信オンの女は豪傑が多いものだ。男はみな情けない。

「わかればいいのよん。にぃに♡さ、食べよ食べよ」

老婆は騒ぐでもなくニコニコ笑っていた。


騒がしい食事がすんでお茶が出された。

「ふぅ…。お婆さんごちそうさま〜ん」

腹が丸く膨らんだかずはは、腹をさすりながら礼を言う。
お粗末様でしたと洗い物をかたそうとしたが、洗い物はあたしがやるからとかずはが老婆を制した。
美代も一緒に手伝うらしい。

その二人を見ながら、老婆は懐かしそうに目を細めている。

「今日はほんに楽しい日。こんな賑やかなのはいつ以来じゃろう」

「婆さん、旦那は?」

「10年ほど前に流行で亡くなりましたがね。息子は戦でなくしました。以来、一人きりですじゃ」

「とは言ってもまだ周りに知人はいるだろう」


老婆はいやいやとかぶりを振った。

「ここいらに残ってる衆はよう馴れ合わん。老い先短い命じゃもの。死ぬ時は結局一人だで」

「さみしくはないのかの。その…ひとりで」

凸がそう言うと、老婆は朗らかに笑う。

「なぁにがよ。ここまで生きてこれただけでも御の字ですじゃ。犬や猫でも今さら余計な連れ合いなど無用さね」

「ふぅむ」

「お侍様。武田の人じゃないかね」


凸はぎくっとした。なぜわかる?甲斐訛りもそう強くはないはずだが。

「ああ。いかにも」

凸がそう答えると、老婆はすくっと立って、古びた箪笥から巻物を出して来た。

「お侍様。これを……」

差し出した緑色の巻物。

「これは……」

その巻物に記されていた文言を読みながら凸は驚嘆した。

「こ、こりゃえらいことだぞ、かずはっ!!これが真実なら武田は、武田は…」


思わず、叫んでかずはを見た。驚天動地のうろたえようであった。

─しかし


「きゅるきゅる…すぴぴぴ…」


かずはは、美代と寄り添うように既に寝ていた。
その寝顔は安らかなアンパンマンに似てまんまるだった。

【つづーくー】


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テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

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No title

>いのきさん
リック・フレアーは短足!

かーるごっち

No title

>かずは
風邪引いた;
ぐすぐす

まんぷくぷー

おやすのょ(* ̄∇ ̄)ノ
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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