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信オン 三浦を訪ねて三千里⑨




凸と美代が出たのは陽も高くのぼった正午前だった。
さすがに昨晩の疲労が祟り、凸がなかなか起きなかったのである。


「おじさん、何回起こしても起きなかったのん」

赤みをおびた頬をぷぅと膨らませて凸をなじる。

「疲れてどうにも瞼が開かねえからしょうがねぇな。う〜、ちっとまだ酒が残ってやがる」

「おじさんは不良なのん」

「優良だったらな、今頃こんなとこにお前みてぇなガキといねぇよ」

「ふーんだ。べぇ〜」

たわいもない会話で言い合うが、お互いそれを楽しんでいた。

凸も最初の頃は、やれ厄介なものを押しつけられたと愚痴をこぼしていたが、このひと月ですっかり美代がいることに慣れてしまった。

おまけに美代はなかなかにさかしいところがある。
屈託なく人見知りをしない気性で、宿にいる間も何かしら手伝いをしたりするものだから、大人によく可愛がられた。
ある旅籠では、見目の器量も見込まれて是非うちの養女にくれと頼み込まれたこともある。
いく先々でそんな調子であるから美代を連れている凸に対しても待遇が悪いはずはない。
今までにない快適な旅ができている。

人心掌握。
人の心を掴む才能が美代にはあった。本人が意識してやっているのではなく、あくまでも自然体だ。


もしかして…俺はすっげぇ金の卵が手のうちにあるんじゃなかろうか。
そんなことを考えたりもする。

三浦に渡すのも惜しい気がしてきた。
それに三浦の顔なんざ知らねえんだし、適当にごまかして、いっそ、このまま…。

「うぉっ!何考えてんだ俺は」

顔を左右にブルブル降って、湧いてくる邪念を振り払う。

三浦に会わせて引き渡す。
そして俺は三浦からツケを払ってもらう。
それで終いだこの旅は。

「おじさ〜〜〜ん、はやく来るのん〜」

先を歩く美代が手を振って凸を呼ぶ。
その様子を目を細めながら、目前にそびえる山をのぞんで歩を早める。

霜月も終わり冬の到来に急ぐ山並が、荘厳な銀色に化粧されるのも近い。
これを超えれば美濃の関所だ。

寂寞たる山林を超えて向かうは尾張の城下。
いざや急がんいざやいざ。



さて、あれから斬と三浦はどうしたろう。

時を一日戻してみる。


斬は今までの楽しい気分がいっぺんに吹っ飛んでいた。

目の前にいるこの男。自分の過去を知り、横流しの首謀者でもある男。
三浦カズ。かっての武田家で使者まで勤めた男。

昔のやさ男の面影はもうない。
悪相が顔の皺に刻み込まれている。

三浦の噂は斬も聞いていた。
それほど、今の三浦は地位と名声を築いている。
尾張の回船問屋MIURA。MIURAには取り扱わない商品はない。
武器は不動産はおろか人までも売買の対象だ。

ここまでのし上がるには、相当悪辣なことをしてきたに違いなかった。


「あの…。なんですか、いい話って…」

斬が見を乗り出してぼそぼそと声を出す。

三浦はその様子が滑稽だったらしく、ぷっと吹き出して笑った。

「あっはっはは。おいおい、そう構えなさんな。何も後ろ暗いことを頼むわけじゃないさ」

「というと?」

三浦は口に手をあてて、顔を斜に構えた。これは何かしら相談事を持ちかける時の癖である。

「知ってますよ斬さん。俺も結構な立身をしたが、あんたも大層な職人なったもんだ。噂はここまで耳に入るよ。あの4人の鉄匠に劣らない天才だとね」

「いえ…俺なんかまだまだ…」

「謙遜するこたねえさ。こぅビシっと胸をはんなよ。天下に轟く国友鉄砲鍛冶の名人様なんだから」

「いえ…ですから俺はまだまだそんな偉いもんじゃぁ…。それより、話ってなんですか?私もうそろそろ行かないと…」


斬は早くこの場を離れたかった。三浦のことを毛嫌いしているわけでもないのだが、顔を見ていると、どうしてもあの一度きりの過ちが、斬の良心を責め立ている。

三浦はそれを制して強引に斬を引き止めた。
さすがに軟化しない斬の態度に多少いらついているようにも見える。

「まぁちょい待ちなってばよ。おっと、さっきも言ったように悪い話じゃねえよ。これはある意味人助けだしな」

「人助け?」

「おおよ。人助けさ。それも斬さんもまったく知らない顔じゃない」

「えっ…誰だろう。昔の私設か一門にいた人ですか?」

「ああ、そうさ。かずはちゃんだよ。不動のかずは」

「不動…さん…。あ、ああ〜確か凸さんの妹とかで…」

「それそれ。その、かずはに1丁、鉄砲を造ってやってくれないかね」

「すみませんが…個人的な依頼で国友鉄砲は造れませんよ。材料まで厳重に管理されてるし、そもそも納入先は決まっていますし」


斬は勘弁してくれとばかりに、首を横にふる。

三浦は顔もあげずに、斬の猪口に酒を注ぎ足した。

「本物なら、だろ?」

「本物?」

「俺が言ってるのは模造品。レプリカさ。それを造って欲しいんだよ」

「何のためにですか?」

「先日、京でかずはちゃんに会った時に、旅に出るときに護身用に鉄砲があればなと言っていたんでね。ほら、何かと物騒だし女の一人旅ってさ」

「それだけ、ですか?」

「それだけも何もそれしかねぇさ。もちろん弾もでなくてもいい。外観だけ国友鉄砲ならね」

「しかし、それなら他の鍛冶屋に頼めばいいでしょう。国友じゃなくても護身用にはなりますし」

三浦はぼりぼりと横つらを掻きながら、う〜んと呻く。

「ま、確かにそりゃ道理だ。が、かずはちゃんはどうしても国友とまったく同じじゃなきゃ嫌だと抜かす。俺だって同じことを言ったよ。でも、聞き入れてくれなくてさ」

「そもそもなんで三浦さんが、不動さんに鉄砲を用意してあげるんですか?あっ、まさか…」

「いやいや勘ぐらないでくれ。前に安請け合いをしちまったもんだからさ。ほら俺の店ってなんでも手に入るって看板出してるだろ?で、用意できなきゃ貫目が下がるというか何というか、ね。それにあれはそんじょそこらの鍛冶屋が造っても出来映えがね。やはり素人目にもわかっちまうから」

「はぁ…」

斬は呆れたようにため息をついた。

「何でも手に入るとは言え、国友鉄砲だけはさすがに禁忌の品さ。いくら金を積んでも手に入らねえ。そりゃよくわかっちゃいるが、レプリカなら何とかしてやると担架を斬った以上、後にはひけネェンだ。な?頼むよ斬さん」

「……レプリカを…しかしそれでも…」

「もちろん金ははずむぜ。…でも、断るってんなら、こっちもそれなりに考えがあるが」


さっきまでとは打って変わった険しい表情で、声色も太く短いものになった。
豹変した三浦の胆力に斬は気圧され、うつむいて無言になってしまった。

三浦はくっくっと笑いながらぽんぽんと斬の肩を叩く。

「はは…。冗談だよ冗談!まぁでも頼むよ斬さん。あんたと俺の仲じゃないか。それに人助けってことでさ」


断ったらどうなるか。どう言い繕ってもレプリカは偽物である。
肉が入ってない青椒肉絲は青椒肉絲じゃない。

同じように弾がでない鉄砲など鉄砲ではない。
ただの鉄の筒である。

もちろん本物などは造って渡すことは不可能である。
レプリカなら…あるいは。

頭に浮かんでくるのは嫁の顔と、まだ見ぬ子どもの顔だった。
壊したくないもの、守るべきもの。

それが今の斬にとって、国友鍛冶の誇りと同じように比重を占めている。


「わかり…ました。一か月もらいましょう。それでいいですか?」

「おお、ありがたい!それでこそ斬さんだ。それじゃしっかりと頼んだぜ。お〜〜い!!ねーちゃん、こっちの酒と料理の追加だ追加!」


三浦は依頼成功に目を輝かせて注文を頼んでいる。

斬は目の前に注がれた酒を一気に飲み干した。
急激にまわる酔いに暗澹たる暗闇を見たような気がしていた。



当の不動かずはは、そんな大事になっているとは露知らず。
甲府の屋敷の縁側で寝転んでお菓子をほおばっている。

「ふがし、うめぇー」


そう言いながら暢気に怠惰な生活を満喫していた。



【続くの反対はちゅじゅく】
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テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

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No title

忙しくて更新できましぇぇ〜ん;

ふがっしー!

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堅あげポテトうめ~~~。
ボリボリ。。。。ボリボリ。。。。

・・・あれ?もぅ1袋なくなっちった・・・

ちょっとにぃに~買って来て~~~!足りな~~い!!

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ふがしのふ~ちゃん

ふがしw
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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