スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

信オン 三浦を訪ねて三千里⑦



場所は変わって尾張の城下。

居酒屋で鮒味噌を肴に徳利を傾けている者がある。
簾をかけて土間に長椅子を置いて机台を並べただけの店だが、思いのほか繁盛していた。

2名ほどの若い女給は、客の注文取りにせわしなく動き回り、威勢良く調理場に注文を申し付けていた。

その男は入口にある小さな机にややうつ伏せに気味にして、ちびりちびりと猪口を啜っている。
風体はこざっぱりした町人に見えるが、背中は広く迫力のある体躯であることがわかる。

歳は鬢に銀色のものがいくらか見えるが、まだ若い。三十を少し出たくらいであろうか。
袖からのぞかせる太い腕は逞しく、傷や火傷の後が刻まれている。
男が 日常で火を使う力仕事をこなしてきた歴史を物語っていた。

男は北斗斬という鉄砲鍛冶だった。
元は紀伊の里で、刀、槍などを製造する打物鍛冶であったが、鉄砲の魅力に惹かれ、希代に轟く国友鉄砲の産地、近江国坂田郡に移り住んだ。

そこで琵琶湖の東北隅にある国友村の鉄匠の家にひと月あまりも通い詰め、半ば強引に見習い弟子となった。
もちろん、斬の有していた技術も認められたに違いない。外部の弟子などはありえないと、村の上位階級である足利将軍より鉄砲製作を命じられた子孫の長老たちは猛反対をした。

斬は組合のもと評議にかけられ、身元の調べ、試し打ちなどのテストを受けた。
独り者の斬が村で暮らすだけでも大騒ぎとなる。
このように徹底した外部隔絶体制のもと、国友村の製造技術は守られていた。
鉄砲の製造技術は秘中の秘であり、なまなかなことでは外部の者を受け入れることはなかった。

4人の鉄匠のひとり、国友鉄算が特に推挙して斬を弟子に取りたいと頭を下げたことも大きい。
鉄算は冷酷に見え計算高く、普段は腹の内を見せない不気味な男であるが、この件に関しては周囲も不審がるほどに強く申し出ていた。
あるいは斬が若く美麗な男であるのも要因かもしれなかった。
この時代で師と弟子の修道関係はそう珍しいことではない。
鉄山は、子を成さず某時もことのほか淡白であったのかもしれない。

国友村は、故信長公が秀吉に命じて支配させた直下の地である。
天下を統べる手前であった信長は刀剣に興味なく、近代兵器である鉄砲の威力に目を向け、それを秀吉が引き継いだ。

戦のありようも、既に近代化の波が押し寄せ、刀剣槍などによる白兵戦から、大砲や遠距離射撃で敵を殲滅しうる手段を考えねばならない時期に来ている。

しかし、鉄砲の製造にはあらゆる技術が必須であった。
その錬磨された技術が結晶となって造られたものが国友鉄砲である。
種子島などとは比較にならぬ精度を誇り、軽さ、耐久性なども飛躍的に向上している。

銃身の鋳造法、筒の底を塞ぐネジの製作、照準、射角、射程、爆発力の砲術知識など数え上げればキリがない。
その一つ一つの製法が奇跡のように繋ぎあわされて、完成したのが国友鉄砲である。
まさに殺傷能力を秘めた究極の芸術品とも言える。

皮肉なことに、この美しき芸術品が今までの戦の仕様を一変させることは間違いなかった。

国友村の鉄鍛冶たちは、町人と言えどそこらの役人が持つ権限より、はるかに大きな権限を持っていた。
現代風に言えば、VIP待遇の契約専門技術者である。
当然、羽振りは良く威勢もいい。


この地は太閤より石田三成が任され、その家老である島左近は常々に国友州は石田の宝じゃと言いはばからない。特に鉄匠たちの接触には細心の気を配っている。
家来たちはそこまでせんでもと思うのだが、左近は人材の扱いを軽く見ることは出来ない。特に国友村の職人集団はプライドが高く、ややもすると傲岸である。己の知識・技術が世を統べると考えている節がある。
そんな連中とうまく付き合うには、柔軟なスタンスと彼らに対するリスペクトを忘れてはならない。
口だけで褒めてちぎるのは誰でもできる。

さすがに領民とは言え、足利時代からの職人集団だ。当然、その気骨も太く偏屈な者が多い。
へそを曲げられて、逆に豊臣の仇にでもなられたら身も蓋もない。

しかし、左近のような家老、しかも天下に轟く猛将に尊厳を払って対応されると、いかに偏屈な職人たちでも心を開かずにはいられない。
彼らは人の嘘を見抜く。左近は誠実に対応することによって、職人たちから盤石な信頼を勝ち得ていた。




「うむ。旨い」

鮒味噌に箸をつけながら、斬は飲み込むようにつぶやいた。

斬は尾張城下に鉄砲三千を納めた帰りであった。
既に鉄算のもとを離れ、家を持って独立している。

最近は商談などのとりまとめも任されるほどになっている。
春に嫁をとり、子供も生まれる。まさに順風満帆の帆風を受けて人生が開けていた。

子供のことを考えると、自然に目尻が下がる。
ニタニタしながら、酒を飲んでいると入口の暖簾があがり、ドカドカと店の中を進むと、店の中をジロジロと眺め回した。

誰かを探している素振りだったが、店の喧噪にまぎれて気にもならない。
斬は徳利に残った酒を猪口につぎ、押し込むようにぐいっと喉に流し込んだ。

すると、どんっと音がして対面に先ほど入ってきた男が座った。

「あん?」


斬は、なんだと訝しんで男を見ると、見る見るうちに顔が青ざめてくる。

男は二カッと笑った。


「北斗さん、暫くだね」

「あ、あんた…」


座った男は、机の上に両肘をついて手を組んだ。

「三浦さん…」


そう。この男が凸と美代が探している三浦カズ本人である。
三浦はにこりともせず、女給に酒と肴を注文した。


「2年…いや3年ぶりかねぇ」

「……」

蛇のように絡みつく視線が斬には痛い。

三浦と斬とは、三浦が近江の浅井に逗留している頃に出会った。。

三浦は当時、武田の寄り合いの組員として働き武田に忠心を尽くしていたのだが、織田との外交を機に織田への出奔を考えているのだと言った。巨大に膨れ上がった武田には、もはや国勢の真剣に想うものは少なく、獅子身中の虫の巣窟だと嘆いていたのだ。
国に両親と嫁を残してきた三浦は、このままでは国に帰れないと、侍をやめて尾張で商何か商売をするつもりだと斬に漏らしていた。
尾張はこれから関東の商売の要になるからということであるらしかった。

そこで商売をするにあたって、斬に国友の銃を数丁流してくれないかと頼んできた。
三浦は、これからは武器のバイヤーで儲ける時代だと熱く語っていた。
国友の製造台数は半端じゃなく組合の監査によって厳重管理されている。
数丁どころか1丁でも数が違えば大事である。
もちろん斬は断った。
そんなことをしたら、絶対ばれた上に鉄砲鍛冶として生きては行けない。とても無理だと。

しかし三浦はあきらめない。報酬ははずむから、一回限りだからと土下座せんばかりに嘆願した。


悪いことに斬はまだ習いの身分で、給金も雀の涙であった。

そこへ国元から母親が急逝したと便りが届き、何とか葬式代だけでも工面はできないかと縁戚のものが頼んできたのだ。しかし、当時の斬にはそこまでの余裕はない。

散々、迷ったあげく、斬は都合3丁を三浦に与えた。
斬がどうやってごまかしたのか、それはわからない。

しかし、それを元に三浦は尾張に名の聞こえた有力者に取り入った。めったに手に入らない国友銃を手に入れた有力者は気分をよくして、弾丸の販売ルートの利権を一部与え三浦はめきめきとその商才の頭角を現していった。

数年後には店を表通りに構え、表向きは回船問屋として、裏では戦の武器を大量に仕入れて売りさばく死の商人として超速の成りあがりを実現したのである。

斬はその時に三浦からもらった金で、無事に立派な母の葬式をあげることが出来た。
それは見習いの斬が手間賃としてもらえる2年分の金に匹敵した。

が、いつまでも慚愧の念は胸にこびりついていた。
己の犯した過ちは、国友の衆を、誇りを汚したのだといつまでたっても拭えない想いがある。

しかし、時が経ちすでにもう十数年前のことだ。
若気の至りで許してもらいたい。

斬は三浦の顔をじっと見ると、唇を噛んだ。

「三浦さん、その節は…お世話に」

小声でぼそぼそと挨拶をした。

「いやいやこちらこそ。お互い様さ。今があるのは斬さんのおかげと言ってもいい」

「いえ…そんな」


斬は三浦の目に何かふくむものを見た。
これは獲物を見つけた時の、絶対的強者の目である。
三浦は斬が納入の責任者であること知っている。
どこかでその情報を掴んで、斬に接触してきたに違いなかった。

「実はいい話があるんだが」

そう言ってにやりと笑う三浦の目には底知れない邪悪が浮かんでいた。


【続くにょん】

スポンサーサイト

テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

コメントの投稿

非公開コメント

No title

イノキさんに卑猥所作されて貞操の危機;w;

No title

>あや
よっく寝るがいい!

>いのきさん
それマソのネタだよww

昨日、藤井さんにちんぴろっしゅ!したよ♪

No title

読んでるの(・∀・)
でも、ねるの。おやちゅみ。v-206
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最近の記事
最近のコメント
月別アーカイブ
リンク
最新コメント
ブログ内検索
RSSフィード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。