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藤井崩し



藤井駿河守の顔色がすぐれない。

終日、縁側で腕を組みながら難しい顔をしている。
普段は柔和な顔が、眉間に皺がより不動明王の形相になっている。

それというのも、娘である凸子がどうにも言うことをきかず、ほとほと困り果てていたからだ。
昨晩も朝帰りで、傾奇者達と一晩中遊び歩いている。化粧は一時の渋谷系黒ギャルよりもひどい。

いわゆる非行少女になってしまっている。

今日も朝帰りのことで大喧嘩になった。
あまつさえ、小遣いが少ないと言って暴れる始末だ。

藤井も若い頃は、そこそこ傾いたものであったが、こと自分の娘のこととなるとからきしだった。
女房は3年前に鬼籍に入っている。
世話は奉公人が面倒を見てきた。
それもあって、さすがに甘やかしすぎたのが原因であろうが、さりとて今さら厳しく抑えつけても反発するばかりである。

「父上のお嫁さんになってあげる」

そう言ってくれたのはいつのことであったか。
思い出すと溜息しかでない。


どうしたものか…。

どうせ娘なんぞは誰かがかっさらっていくものだし、もう二十歳も近いのだからどこか良縁をえて嫁がせればなんとかなるのかもしれない。

しかし、そうそういい縁なぞ馬の糞のように道端には転がってはいないだろう。
それに、家柄も城勤めとは言え、藤井はしがない馬廻番である。扶持は100石足らずで二人で食うにはなんとか困らない程度でしかない。

遊び回っているのは、あの傾奇者達が悪い。
奴らにひきずられて、ああなってしまったのだ。

そう考えると、あの傾奇者が憎らしくなってくる。
娘は悪くない。凸子はもともと心根の優しいおっとりした子だった。

何かのきっかけで無頼の徒に騙されて徒党に組み入れられてるに違いない。
そうだ、そうに決まってる。そうでなくては。そうであってくれ。

親馬鹿である。

古来より、盲愛というものは都合のいい擁護を伴う。
自分の子に限って。自分の娘がこんなに太ってるわけはない。

原因を中に求めず外に求め、囲うようにかばい、真実に目を向けないものだ。
モンスターペアレントは、なんのことはない大昔から存在している。

「あの旦那様…」

後ろから申し訳無さそうに、奉公人のみさをが声をかけた。

「なんだ、みさを」

「朝餉の支度ができましたけぇ…」

「うむ。わかった」


みさをは静かにうなづいて立ち上がった。
平伏するときの仕草が、畳に頭をこすりつけるようにしている。
そうすると小さな身体が余計小さく見えた。

みさをはこの家に奉公に来てからもう二十年になる。
東北の貧農の出目だった。良縁にめぐまれず、ずっとこの家で奉公を務めているが、凸子にとってはみさをのほうが、実の母親よりなついていた。
それを面白くおもっておらず、母親は生前かなりみさをに辛く当たっていた。
藤井はそんなみさをを哀れに思い、暇を出そうとしたのだが、このまま置いてくださいと、泣きながらすがったので、仕方なくそのまま奉公を継続させている。

以来、みさをが凸子の面倒を見てきた。

藤井は子供の教育に男親が口を出すべきではないと考えている。
口うるさく言うのは母親の仕事だ。男親は口少なく叱る時だけ道理を説いてやればいい。

そう考えていた。

みさおは凸子を甘やかしすぎた。
自身に子がいないこともさることながら、凸子への溺愛ぶりは藤井も呆れるほどであった。
凸子もみさおに甘えて、まるで本当の母と子のような絆を培っていた。

「もしかしたら…気がつかれたかなぁ」

藤井は顎を撫でながら、複雑な表情をした。

家内が亡くなってから、一度だけ、みさをに手を出してしまった。
寄合で出された酒に酩酊して、出迎えたみさおを組み強いて抱いた。

初めは抵抗していたみさをも、あきらめたように力を抜いた。

朝気がついた時に、とんでもないことをしでかしたと藤井は猛省した。
みさをにてをついて謝ったが、みさをは、男の人にはよくあることですけと、変わらずの態度で藤井のほうが拍子抜けをした。

それきりの関係ではあるが、みさをとはわずかだが微妙な距離感ができている。

女の感はするどいものだ。凸子は気がついているのかもしれん。
しかし…今さらみさをを嫁に娶るわけにもいかんだろう。

とにかく、凸子には一度しっかり話をしておく必要があるし、早急に良縁を見つけて落ち着かせなければ。
このままでは、藤井家の恥でもあるし、弄ばれた挙げ句、夜鷹にでも堕ちてしまうかもしれない。
そんなことになったら、目も当てられない。

居間には二人分の朝餉が容易してある。

白飯にあさりの味噌汁。焼きシャケに漬け物。
質素ながらも、美味い飯だ。


「凸子はどうした。まだ寝てるのか」

藤井の言葉にみさをは肩をすくめて答えた。

「へぇ…。朝まで東西祭りでマソ様達とご一緒だった様子で…」

「…まったく。マソにも困ったものだな。あれで一門の筆頭などと言うが、ほとほと程度がしれるわい」

「はぁ…で、がすか」

藤井はタクワンを齧りながら、憮然としている。

凸子と顔を合わせないことでどこかほっとしていることがいまいましかった。
他人より、己の身内に気を使わなくてはならんとは…情けない。

「凸子はいいから、お前が食べなさい」

「へぇ…。いつも勿体ないことで」

主人と奉公人が一緒の卓で食事をするのは、この当時の主従関係において、はなはだけじめが無いことではあるが、みさをのように長年仕えてきた者はすでに家族である。
しかも、独りで食す飯は味気ない。このひとときは、杞憂の多い藤井にとっては唯一救いの時間でもあった。

言葉を交わすわけでもなく、ただ淡々と食し、終わったら茶を飲む。
それだけで、わずかばかりの精神の安寧を得ることが出来た。

本日は非番であるが、昼から所用あって登城しなければならない。
飯を食ったあと、庭の茄子に水をたっぷりと撒いて登城の準備をした。

みさをはいつものように、ほっかむりをして掃除や洗濯に取りかかっている。
凸子はまだ寝ているようだ。

あのままでは、本当に野豚のようにぶくぶくと太ってしまうだろう。

もともと、肉付きがよかったのだが、最近はとみにひどい。
昔はよくからかって、お前はまん丸に太っているのうと言うと

「太ってません!わたしはぽっちゃり系です!」とか言って笑わせてくれたものだが…

あの朗らかな娘がいまや…。

藤井は凸子の寝所を通り過ぎながら、また溜息をついた。
一度、そっと部屋を覗いたことがあるが、天下の傾奇者、織田信長公と前田慶次のポスターがべたべたと貼ってあり、マソ達一門の傾奇者達と中指を出して映っている写真が壁一杯に席巻していた。

「だめだこりゃ」

藤井はその時、娘に絶望した。
おそらく今は何を言っても無駄である。

みさをは藤井を送り出して、昼過ぎに凸子を起こして部屋を掃除しようと思った。

しかし──

藤井はその夜帰ってこなかった。

翌朝、柳橋の土手に水死体があがった。
それは藤井の変わり果てた姿であった。

一刀のもとに肩より斬り下げられている。

下手人は同僚の地獄突であると噂された。

藤井はああ見えてもジネン流の使い手で達人である。
それを一撃で絶命させるとは考えにくい。
地獄突はお世辞にも剣の上手と言うわけではなく、そこいらの町道場の見習いぐらいの腕しか無い。

「いくら強い奴でも寝ているときと、用をたしているときはどうにもなるまいよ」

日頃から地獄突はこう言って憚らなかった。

それは、己の未熟な剣技に対しての屁理屈だと周囲は笑っていたが、普段からどこか狂気じみた言動があり、うす気味悪がって誰も相手にしなかったが、藤井だけは違った。

ちょっと前に、馬小屋の隅で激しい口論をしている二人を別の同僚が見ている。
藤井は、まずもめ事を起こすような人となりではないし、人望もそれなりあった。

しかし地獄突は普段から上司ですら手に負えない振舞いで、一度厳重注意にて扶持を減らされたことがある。
要するに鼻つまみ者であった。

そんな地獄突に藤井は分け隔てなく話しかけ、時には酒も誘ってよく飲んだ。
地獄突もそんな藤井にだけは気を許していた風に見えた。

しかし地獄突に藤井を斬れる腕があるとは考えにくい。
そもそも、殺した理由も不明である。

宮仕えの武士同士の諍いで刀を抜くなど、如何に体面と意地の塊である侍と云えど、割に合うものではない。
下手をすればお家取り潰しにもなりかねないのだ。
刀を抜くということはそれほどの大事である。ましてや私闘など考えられない。

証拠は藤井の亡骸の周りに落ちていた、特殊な根付けが決め手となる。
男根の根付けだ。そそりたった黒いかりんとうに見える。黒人のビッグディックを象ったものかも知れない。
以前、御法度ものの根付けだと地獄突が自慢していて、同僚もそれを確認している。
決定的であった。

みさをは泣いた。亡骸を確認するとおおい被さるようにして泣いた。
声が枯れるまで泣いた。

凸子もその場にいたのだが、凸子は表情を崩さず冷静にみさおの泣きじゃくる姿を無言で眺めていた。
役人もその冷ややかな様子をみて、なんという薄情な娘だと眉をひそませる。

葬式を用意しなくてはならない。
泣き疲れたみさをに凸子は言った。


「つかさ、葬式やる金とかあんの?」

「お嬢様…。旦那様がこんなお亡くなりをしたのに…お金のことなんざ」

「かんけーねーよ。金だよ金!あのおっさん、へそくりとかどこかに隠してんじゃね?」

「お嬢様…!」


パシィッ!!


乾いた音が空に響いた。

みさをは凸子の頬を張って涙をぽろぽろ流していた。

凸子は驚いて頬を抑えながら、涙をにじませた。

「ぶ、ぶったね!オヤジにもぶたれたことないのに!!」

「…何度でもぶちますケロ。お嬢さんは人としての心も無くしてしまったねか!」


そう言うと二人は抱き合って声を上げて号泣した。
ごめんなさいと何度も何度も言いながら。

しばらくして、地獄突が捕まった。
地獄突はしきりに無罪を訴えるが聞き入れられるものではなかった。
地獄突は泣きながら、あの根付けはゲイの三浦からもらったものなんだ、ちょっと前に盗まれたんだと言い続けたが、無駄だった。

死罪。地獄突は首を跳ねられ三日ほど町堺の橋の袂に晒された。
その目はこの世のすべてを呪っているかのような怨嗟がこもっているようだった。

晒し首の前でたたずんでいるひとりの男がいる。
凸子の傾奇仲間のマソである。

「へへっすまんね突さん。ま、運が悪かったと思って藤井さんと二人であの世で一杯やってくれ」

そう言って、地獄突の首にヒョウタンにつまった酒をかけた。

凸子と遊ぶたびに家に怒鳴り込んでくる藤井にマソは辟易していた。

そして「ただのごろつきのくせに傾いてるとは笑止なり」と決定的な雑言を浴びたのである。

さすがにトサカにきて腹に据えかねたマソは、藤井を斬るために達人を雇った。
自分では藤井は斬れない。しかし、斬られやすい状況にもっていくことはできる。

そこで色々と画策した。まず中のいい同僚同士の喧嘩に見せかけること。
酒が好きなマソを酔い潰して斬ること。

マソは夕方、下城した藤井を待ち構えて、今までのことを詫びたいのでと、茶屋に誘った。
藤井はそれならと、機嫌もよくしたたかに酔った。
茶屋を出る頃にはベロキャンである。足下もおぼつかないぐらい酩酊状態で上も下もわからない。

人気のない町外れまできて、雇った暗殺の達人のご登場。
一刀に斬り下げて、突から盗んだ根付けとともに土手に放置したってわけ。

そして仲良く、藤井と突は地獄行き。

凸子のせいで地獄行き。
特に地獄突はいいとばっちりである。


そして、みさをと凸子は葬式をなんとかつつがなく済ませて、二人で仲良く暮らしましたとさ。
この世は無常。アブラカタブラ。
めでたしめでたし。



   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ミ
  /   ,――――-ミ
 /  /  /   \ |
 |  /   ,(・) (・) |
  (6       つ  |
  |      ___  |   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  |      /__/ /  < なわけねぇだろ!
/|         /\   \__________

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テーマ : 雑記
ジャンル : ゲーム

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No title

>藤井さん
次はコスタリカ出身の藤井ちゃんでいきますか!

>三浦
三浦、結婚してくれ!
あ、違ったw

>凸子
というか元からグレてるだろw

>みさおっち
これからも凸子をよろしくw

No title

ケロケロ
貧乳じゃないけろ!
あ 貧農かw
うぷぷぷ

凸子ちゃんと一緒にグレてやるぅぅぅ

No title

父上ぇぇぇぇぇ><*

凸にぃにぃぃぃ><*

悲しいのでみさをっちにぱふぱふおねだりしよう;;

・・・あれ?・・・あれ?

・・・挟まらなかった><*

うわぁぁぁぁぁん。・゚(ノд`)・゚。

もぅグレてやるぅぅ

No title

俺もとばっちり受けてる気がするのは、気のせいだろう

因みにその、そそり立つ俺のオベリスク、おおっとミス
そそり立つ黒いかりんとう、マソからもらった!

No title

とつこぉぉぉぉぉぉおおお
東北貧農出みさをはワラタw

しかしいきなり死んでる件w
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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