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さや 【壱】

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大三元兼之介が首飾りの生産に勤しんでいると、ふいに背後から肩を叩かれた。

振り向くと髭面の男が笑顔を溜めて笑っている。
馴染みの顔だ。

「やぁ。突さんか」

兼之介はそう言うと手を休めて、ゆっくりと伸びをした。


「精がでるなぁ。どうだい?もう昼時だし飯でも食いに行かないか」

「いいね」


二人は近くにある小料理屋の暖簾をくぐった。

一番奥の平座敷にあがると、お茶を運んできた小娘に定食を注文する。
娘は元気よく答えながら厨房に料理を伝えると、あいよっ!と威勢のいい返事が返ってくる。

突と呼ばれた四十絡みの男は、湯のみを両手で持ちながらふぅふぅと冷してお茶を啜った。

「どうだい最近」

そう言いながら、突が目を丸くしておどけた様子で首を前にだす。
まるで亀のような様が妙に可笑しいので、兼之介は思わず吹き出した。


「どうもこうも、相変わらずさ。そっちは?」

「こっちもさ。貧乏暇無し」

突が肩をすくめながら顔をしかめて口をへの字に曲げた。

いちいち面白いので、兼之介は突の顔をまともに見ていられない。
しかし、突は別にふざけているわけでもなく、このような質なのであった。

お互い注文した、鰯の定食が来ると醤油をかけて食べ始めた。
あとは味噌汁とタクワンが付いてきた。

安くて美味い。この店は武田民御用達の名店である。

二人とも飯を無言で食べる。男は食事中に無駄なおしゃべりは厳禁だ。
何か話があれば、食事が終わってからである。

飯を食い終わると、茶のお代わりを頼んだ。

シーシーと楊枝を口で回しながら、突は兼之介の顔をじっと見た。

「じつは折り入っての頼みなんだが…」

神妙な顔をして頭をぼりぼりと掻きながら、一文字に口を結ぶと、またしても眉間に皺をよせ、目をくるくると回している。
口をとがらせて、仏頂面を決め込んだ狸のようだった。
まるで福笑いであるかのように、表情が変化していくので堪らない。

縁のない人が見ればからかっているのかと思えるだろうが、兼之介はつきあいの長さから突が大真面目だということは理解していた。

理解はしていたが、やはり可笑しいものは可笑しいのである。


「なんだね頼みというのは」

笑いを堪えながら、兼之介は突の顔を避けるように下を向いて冷めたお茶を啜った。

「うむ…。三元さんは、ほれ、寺子屋で童どもに手習いなどを教えておるだろう」

「ああ、うん」

「それでな、そこの生徒に、さやという名の娘がおるだろう」

「さや?ああ、いるよ。それが?」

「ちょっと込み入った話なのだが…望月千代女殿を存じておるかね」

「ああ、親方様の命を受けて「甲斐信濃二国巫女頭領」を任された方だろう」

「うむ。その千代女殿が是非にさやを信濃に欲しいと言われておってな…」

「え?まさか…さやを歩き巫女に!?」


戦国時代、上忍の家柄 「甲賀望月氏」の甲賀望月氏の本家に当たる信濃豪族の望月氏当主・望月盛時に嫁入りした望月千代女が、武田信玄の命にて甲斐・信濃の巫女の統帥「甲斐信濃二国巫女頭領」を任され、「女間諜」の養成を行うため、信州小県郡禰津村の古御館に「甲斐信濃巫女道」の修練道場を開いた。

戦で、孤児や捨て子となった少女達数百人を集め、呪術や祈祷から忍術、護身術の他、相手が男性だった時の為に色香(性技等)で男を惑わし情報収集する方法などを教え、諸国を往来できるよう巫女としての修行も積ませた。

それが歩き巫女と言われるクノイチ集団であった。

一人前となった巫女達は全国各地に送りこまれ、彼女達から知り得た情報を集め武田信玄に伝えたと言われており、武田家の情報収集に大きな役割を果したという。


「いや…しかし、さやは…」

兼之介は先ほどのんびりした心持ちは消し飛んで、思わず腕を組んで唸った。


「さやは14歳であるが…あの子には普通の暮らしをさせてやりたいと…」

「気持ちはわかる。わかるが、千代女殿が言うにはあれほどの器量と質を備えた者はそうはいない、是非にと申されておるのだよ」

「どこで、さやを知ったのだろう?」

「先だっての奉納ということだ」

「あっ…」


一ヶ月ほど前、甲府にて「武田神社古武道武技奉納」が取り行われた。
男と女が別れて体技などを競うものだが、女の部でさやは二番手となったのだ。

大人の手練に紛れての二番手となり、見物人からは拍手喝采を浴びた。

さやは、十ニ歳ながら背は高く大人の女性とも見劣りしない立派な体格だった。
父は日本視察に来ていた農学者のオランダ人である。在住中に一人の娘を見初めて夫婦になり、さやが生まれた。

さやが七つの時に、戦で家を焼かれて両親はその時に亡くなっている。

髪は亜麻色で目は青く鼻が高い。そんな、さやを当然のごとく周囲は異人の子と忌み嫌い蔑んだ。

親戚の計らいで米問屋へ奉公に出されたが、体のいい追っ払いだった。
部落民的排他主義は、どこにでもつきまとう。

しかし、さやは泣き言を言わずに一生懸命働いた。

父に教えてもらっていた、読み書き、算術なども達者にこなし、一度覚えた事は決して忘れない。
それでいて屈託のない明るさで人に接していく。

奉公連中も、はじめは敬遠して嫌がらせをしていたが、さやの優しい性根と利発な機転に感心しはじめた。
手紙を代筆したり、番頭の勘定の数字間違いを教えたりと、その才気を発揮していった。

十歳になると、背もすくっと伸びて明るさに加えて。清楚な華やかさを纏うようになった。
さらに、主人に頼み込んで近くの剣術指南の道場に通えるようになった。

さやは、戦で命を落とした人々を守れるぐらいの力が欲しかったのだ。
せめて一人でもいい。自らの手で守れるぐらいの力が。

さやはめきめきと腕を上げた。身体能力にも、異能の片鱗を見せ、道場の同年代の男でさやに叶うものはいなくなっていた。
当然、ここでも女にいいようにやられては男としては立つ瀬が無い。
子どもと言っても、通ってきているのは武家の子ばかりである。
男の面目というものがまるつぶれであった。

男子は徒党を組んで、帰り道のさやを襲った。
手に持った木刀で、交互に殴りかかっていった。

さやの腕ならば、3人程度の剣など見切るに容易い。
しかし、さやは迫ってくる男子を動かずに見据えた。

先頭の男子が打ち込もうとすると、はっとその剣を止める。

さやは、はらはらと涙を流して泣いていたのである。

道場の稽古ではどんなにきつく、先輩からいじめを受けても気丈に笑顔を見せていたさやが泣いている。

男子達は驚いた。



「なぜ泣く。怖いのか」

「いいえ」

「ではなぜだ」

「あたしがあなたたちに、そこまで辛い恥をかかせていたのに今気がつきました」

「……」

「どうか気の済むまで打ち据えてください。この思い上がった性根が消えるまで…」


そう言って、涙を拭いてにっこり笑うさやの顔は、恐るべき威容で包まれていた。
果たしてこれが十歳ごときの女童が言える言葉であろうか。
男子達は、ことごとくその迫力にのまれ、言葉を失った。

如何に自分達が卑怯でみっともない事をしていたかを悟り、ともどもに自戒して泣いていた。
さやと一緒にわんわんと泣いた。今までのわだかまった想いを洗い流すように。

それから、さやは同年代の筆頭となった。
誰も文句もなく、男子達はさやに教えを請うまでになっていた。



さやが寺子屋にきたのは、簪(かんざし)職人だった兼之介が四年前に寺子屋を開いた時である。

簪(かんざし)の飾りの美しさに魅了され、半ば押し掛けて名人と呼ばれる甚五郎の弟子となり、いっぱしの簪職人となっていたが、やはり戦乱による焼き討ちで、妻と子供を失った。

戦の飛び火が小さな村を幾つもつぶし、田畑や森は焼かれて荒れ野になっていく。

名人もなくなった兼之介は落胆して周りを見ると、親を失った孤児が飢えて泣いていた。
両親の亡骸とともに、踞って死んでいく子供を見たときは、地面を叩いて叫んだ。

そして子供達を守ろうと決心したのである。

幸い父が蘭学者だったため、幼少から様々な知識を教え込まれていた。
寺子屋を作って子供達に生きる術を学ばせよう。


そして最初に入ってきたのが、さやであった。

初めに見たときは、その容姿に驚きもあったが、実に利発で賢く明るい。
可愛らしい転がるような声も心地よい。
聞けば、道場では筆頭も務めていると聞く。

兼之介は、さやに読み書きだけではなく、蘭学の科学、医術、農業、歴史などの初歩も教えた。
論理的な考察も学ばせて、それらを綿が水を吸い込むように吸収していく。

兼之介はさやの天賦の才に驚嘆した。
同時に強烈な不安にかられた。

さやのこの才が世にどのように顕現していくのか。

優れた人材は戦において力となる。
ある時期が来たら、さやには何か大きな転機がくるような気がしていた。

さやがいれば、どこでも人は寄ってくる。
子供達は、寺子屋にさやがいるというので、こぞって押しかけて入門をした。
たちまち寺子屋はさやを中心にいっぱいになった。

まさしく、さやは子供達のリーダであり姉のように母のように慈母深い女神のごとくあった。

そして4年が過ぎ、見目麗しく成長したさやを間諜にすべく千代女が欲しがっている。
宿命と言ってしまえばそれまでだが…。


「何とか断れないのだろうかなぁ」

兼之介が独り言のように呟くと、突も腕を組んで唸った。

「特務機関とは言え、あそこで訓練される娘達はみな華なら莟…。しかもすべて美しきものたちだ。聞けばさやという娘も大層な器量と聞く。せんないことだが…」

「うん…。確かにあれは天才だ。女子でなけれは天下を狙えた器かもしれんが」

「歩き巫女は、役割もそれぞれだが、それだけの器量であると武官の籠絡も任ぜられるだろうなぁ」

「……むぅ」


兼之介が手元にある湯呑みに目を落とすと、皮肉なことに茶柱がひとつぷかりと浮かんで立っていた。


【続】

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凸

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