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信On 鍛冶屋物語【冬の終わりに 参】

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娘は部屋に入ると丁寧に指を揃えて平伏した。

「雫(しずく)と申しますぅ」

どこかの武家育ちであるのか挙措(きょそ)に、妙な優雅さが見てとれる。
育ちは関東ではなさそうだった
髪は長く背中に垂らし、眉が黒々して尋常な顔立ちである。

娘は脇に太刀を携えている。
音もなく摺るように前に進むと、忠明の前に無言で太刀を置いた。

「ふむ」

忠明はひとつ唸って刀をとり、鞘を払うと懐紙をくわえて、刀身を障子にかざして見る。
じっくりと鑑た。

斬が見たところ、姿はやや反りが浅く見栄えがあまりよくないように思える。
だが、色は冴えて明るく、武骨で地味ではあるが刀身にあふれてくる気品は圧倒的なものがある。

これが長曽禰虎徹の佩刀(はいとう)、「虎徹」だった。

忠明は、虎徹を鞘におさめ、柄を先にして斬のもとに押しやった。
斬は虎徹を鞘から抜き放って、忠明にならってじっくり鑑ている。

斬は常々、刀剣は殺戮の道具であると思っている。だから嫌いだ。だが、反面、芸術品としての一面も併せ持つことは理解していた。
芸術品であると同時に、厳しく実用品でもある。

そのどちらも有する刀剣の完成系が目の前にあった。
ほれぼれするような出来だった。

「これが虎徹ですか」

「作刀にむらがあるのが、虎徹の欠点だがこれはいい。まさしく逸品だな」

「虎徹は贋作が多いと聞きますから」

斬は、虎徹を鞘におさめて目の前にゆっくりと置いた。
娘は表情を変えずに静かに座している。


「順番が逆になってしまったが、まず紹介しておこう。この娘は長曽禰一族のものだ」

「長曽禰一族!?」

「元々、近江に縁のある酒井様の本家と長曽禰一族とは関ヶ原以来昵懇の間での。この贋作造りを頼まれた時に、現在、長曽禰には祖に追従する後継者がおらぬ。このままでは、長曽禰の名が世から消えてしまう。唯一、天分のある者がひとり一族にいるのだが、まだ若く経験も浅い。それでワシのところにしばらく後学のために置いてくれないかと、切に頼まれたのだ」

「それで虎徹がここに…。しかし女子に刀鍛冶など」

「それよ。祖虎徹は縁者にその秘術を相伝しておらぬ。悉く天分がなかったようだ。虎徹の晩年の杞憂はまさにそこであったろうな」

「この娘にはそれがあると?」

やや困惑した顔で斬が問うと、忠明は一言「ある」と力強く言った。

雫と名乗った娘は、無言で斬を見つめていた。
射抜くような強い眼だった。

まだ十五〜十七に見える。幼いが意志の固さが表情に現れていた。
見られているだけで窮屈な気持ちになってくる。

<なんなんだこの娘は>

この当時の男には例外なく、女卑という意識がある。
どの分野の職人でも、女が職人をやることなど考えられなかった。
あまつさえ、年端もゆかぬ若い娘が刀工などとは戯言にも程があると思った。

「雫よ。これはワシの弟子だった北斗斬という刀工だ」

忠明は、憤懣やるかたなしと言った斬の気をそぐように娘に声をかけた。

娘は再び平伏しながら、ゆっくりと顔をあげて挨拶をする。

「不調法者ですが、よろしゅうお願いいたしますぅ」

近江弁の抑揚でのろのろとしゃべる。

斬はますます馬鹿にされている気分になってきた。
こんな小娘に軽く見られるぐらい、自分の業に自信がないのも苛つきの原因だった。
斬は軽く会釈しただけで、無言で娘を見つめていた。

娘はニコリともしない。何とも可愛げのない女である。
そう言えば、面差しがどことなく前の女房に似ている。
女房も滅多に笑わない女だった。
思い出すと苦いものが込み上げてくる。

要するに気に入らないのである。
こんな小娘が、同じ土俵に立って仕事をするのかと思うとぞっとしない。

忠明は腐る斬の顔をみて困ったように頭を掻いた。

「斬よ。何か言いたそうな顔だが、小事はまず置いておけ。とにかく今は藩の大事だ」

「はぁ…。しかし、贋作がそれとどう関係あるのです?」

「…喧嘩じゃよ」

「喧嘩?」

「酒井様の刀剣道楽は家中でも評判であった。ご自身も確かな見識を持っておられるし、古今東西の名刀を収集しておられる。先頃の試刀会が取り行われた折りに、酒井様が側近のものと刀剣談義に興じていたところ、水を指して来たのが例の村上秀実殿だ。そこで、では天下の名刀と言えばという話になり、それならば虎徹だろうと酒井様は答えた」

「ははぁ、それで…」

「察しのとおり、これに村上殿が、虎徹は100本あったところで、そのどれもが贋作ばかりでまず本物はない。本物を見た事もないのに、どうして虎徹の技倆を語る事ができようと挑発をされてな」

「酒井様はなんと?」

「他ならぬ村上殿に言われては、収まりも着くまい。烈火の如く怒ってならば、次の試刀会までに真の虎徹を見せてやると言い放ってな。その代わりに、家卒全員の前で土下座をして謝罪してもらうぞといきまいたらしい」

「なんとも…」

「まったく、売り言葉に買い言葉での。村上殿はここぞとばかりに、ではそれが適わなかった時には、先の政務報告は我らが先にやらして頂きますぞと交換条件を出して来たのだ」

「なんと!?」

「政務報告は先と後では後のほうが印象は圧倒的に不利になる。村上殿は酒井様のいささか軽卒なふしを見抜いて、揺さぶりをかけてきたのだ」

「藩の政務を刀の真偽如きで…。しかし、では、ここにある虎徹を村上様にお見せすればよいのでは」

「さればよ。この虎徹は、長曽禰にたった一本残っていて奉納されし宝物でな。酒井様が先の事情を話して是非にと所望された折、長曽禰の長が雫に持たせたのだ。しかし…」

忠明は言葉をきって、雫に向かって云った。


「見せてやりなさい」


雫は、こくんと頷くと後ろを向いて着物の帯をほどき始めた。

「なっ…」

斬の動揺など歯牙にもかけずに、するすると帯をほどくと、着物をずらして白い背中をあらわにした。

すると肩甲骨から腰のあたりにまで斜めにうっすら刀疵が見える。
白く小さな背中に痛々しく、這ったような傷が生なましく張りついている。
傷は浅く塞がってはいるが、最近のものだ。

「こりゃぁ…」

斬の思わず洩らした声で、雫の身体がぴくっと動いた。

雫の肩は小さく震えていた。


【続く】

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No title

>林檎ちゃん
俺もiOS6だけどまだ5にしてないからフォントは変化はないねえ
つーか、いまさら旧タイプの下取りが違法だとか言い出しやがってますよ!
今日予約しに行ったのにw

No title

おれも恥骨突ってキャラ作って待ってる(*^^*)
ところでiOS6でWebブラウズするとページのフォントが全て明朝体になっていて非常に見にくいのですが、凸さんのブログを明朝体で見るとなんか新鮮というか、雰囲気が出て案外いいですね★

No title

>藤井さん
やめてよww

No title

凸さん復帰してないの!
地獄☆突ってキャラを作って甲府でまんこって叫ぶ

No title

>源
だが断る!お前はやはり汚れキャラw

>アキヤマン
日本刀は重いから振り回すだけでも疲れそうだ。
やはりマシンガンでダダダと撃つのがいいぜw

No title

なんかおれこんな描写のストーリーに出てもいいと思うんだ。

フハッ!

虎徹は刀剣マニア垂涎の的で一振がン千万の値段が付くそーな。
もしこの世の中がゾンビが闊歩する世界になったら某刀剣博物館から日本刀を調達して武装するだろうなぁ~と妄想する日々。
上野の国立博物館でみた国宝の大般若長光は美しくかったのぉ~
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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