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信On 鍛冶屋物語【冬の終わりに 弐】

kiou798

「ときに、お品ちゃんの具合はどうだね」

タバコ盆に火を落としながら、斬の師匠である忠明が聞いた。

白い顎髭を蓄え、髪は真っ白な白髪を後ろで結わいている。
細面の顔には火で炙られた皺が幾重にも重なって、実際の年寄り老いて見える。
小柄だが、数えきれないほどの鉄を鍛えてきた腕は、老いても尚頑強に見える。

刀工名人と言うと、気性は荒く偏屈というのは定説だが、忠明はもの静かで仕事以外のときはいつもニコニコしていた。
こうやって座っていると好々爺の学者に見える。

斬は頭を下げながら、遠慮がちに忠明と目を合わせた。

「へぇ…。最近は少し良いようで、たまに起き上がって縁で陽を浴びたりはしています」

「そうかい。そりゃよかった」

借金をほうぼう頼み込んだが、まるで疫病神のごとく追い払われて、仕方なく師匠の元を訪ねた。
斬はここに来るのが一番心苦しい。

しかし、お品の治療費、炭屋などへの借金でどうにも首が回らない。
二日前の米びつの底が見えたわびしさは、何にも例えようがなかった。

斬は出された茶にも手をつけず神妙な顔をして正座している。

お品が床に伏せってから、忠明のもとに度々金の無心に訪れていたが、既にもう3回目である。
最初の無心は下請けの手間賃の前借りだった。仕事さえすれば何とかはなる。
しかし、最近は数打ちの注文は減る一方で斬に仕事は回ってこなかった。
一方的な借金となり、額もちょっと数を叩いて返せる程度ではなくなっていた。

それでも。
それでも誰かに頼るしか他はない。

親戚もなく、天涯孤独の兄妹である。唯一、身よりのように面倒を見てくれるのは忠明しかいなかった。
忠明もそんな事情をよくわかっており、返済の催促などはしなかった。

忠明は斬をじろりと見て、茶を啜った。

「大殺界だな、斬よ」

「は?」

「やることなすこと、へこみ倒す運気のことさ。占いの世界じゃぁこいつはどうにもならないとある」

「……」


六星占術では言う大殺界とは、何を始めるにも何をやるにもよくないとされる運気のことである。小殺界や中殺界と異なり、3年継続するという。

斬に占いの素養はなかったが、意味はなんとなくわかっていた。


「ま、ヤケにはならないことだ。明けない夜はないと言うしな」

「へぇ…。あんがとさんです」

「でな…。無心の話なんだが、ま、なんとかしよう。それで…ワシからもお前さんにひとつ相談があるんだ」

「は、そりゃもう師匠の頼みなら」

斬は大袈裟に平伏して即諾した。
無心の都合が出来た事で幾分か胸が軽くなったせいもある。


「で、仕事ってぇのは、いくつ叩けばいいんですか」

「いや数打ちじゃない。贋作だよ」

「贋作?それは…」

「虎徹さ。虎鉄の贋作を打つんだよ」

「えっ!」


斬は目を丸くして声をあげた。


虎鉄は現代の鍛冶・研ぎ師が口を揃えて絶賛する名刀である。

長曽禰虎徹の作刀にはあえて「古鉄」と切銘したものもある。
質の高い古鉄を用いて鍛えに心血を注いで生まれる、粘りと硬さ。
それこそが、虎徹を名刀たらしめる所以であった。

斬が驚くのも無理はない。

師匠の忠明のような名人が打つのならまだしも、四方詰めの経験などほとんどない斬には、虎徹ほどの贋作など鍛える自信はなかった。


忠明は、斬の反応を予見していたように一つ咳をして間をとった。

「落ち着け。実はこの注文は筆頭家老である酒井様からの内密の注文なのだ」

「ご家老から!」

「故に信用できる者にしか頼めぬ」

「でも、なんで俺なんかに…。俺より腕のいいものなら、師匠の弟子達だっていくらでも…」

「まぁ聞いてくれ」

忠明は沈痛な面持ちで斬を見ている。
哀しい目だった。

なんでこんな目をするのか。
斬にも、これがただ事ではないことが予測できる。


「我が生実藩は、森川公逝去のあと、藩の実権を廻って2つの派閥が争っている事はお前も存じておるだろう」

「はい。家老の酒井様と年寄の村上様ですね」

「ワシは酒井様より長年のご寵愛を賜り、いっぱしの刀工として名をあげる事ができた。酒井様は刀というものをよく知っていらっしゃる方だ。ワシが今日あるのは酒井様のお目掛と言っても過言ではない」

「……」

「現在、藩にはあらゆる問題が積算しておる。特に財政問題だ。村上派は、藩内の財政逼迫をタテに改革案を押して来ておる」

寛永4年に譜代の森川重政は、上総国・相模国・下総国内においてそれぞれ1万石を与えられて大名となり生実藩を立藩した。重俊はその後、老中にまで栄進したが、昨年の寛永9年1月25日、徳川秀忠に殉死した。
跡目には、長男の森川重政が家督を次ぐ事になったが、年貢負担をめぐっての争論が起きるなど藩が混乱した。

逼迫した財政を立て直すには、大規模な農地改正の改革が必須と推してくる村上派と、まずは知行の見直しと治水工事などに伴う流用金の調べを徹底的に見直しをしようとする酒井派が、敢然と対立していた。

村上派が、強攻に改革案を勧めたい訳は、農地改正に伴い流用金の流れをうやむやにしてしまうことだと噂された。一部では、勘定方を抱き込んでの不正流用を仕組み、工事などに流用される金の一部の上澄みを翳めているとのことである。
事実であれば、藩をあげての大騒動になる。
しかも、家督を引き継いだ矢先のことだし、対立する派閥としても藩の体面を考えると公に問いただす時期ではない。身内の恥を面に晒すようなものだ。このような噂が公に広まりでもしたら、それこそこんな小さな藩など即座に廃されてしまうだろう。

村上派は、それをいいことに極端な改正案を持って来て不正を覆い隠そうというのである。
要は金の流れを隠すにはそれ以上の金を注ぎ込む事業を設ければ良い。
長期的かつ大規模な工事をするには、藩はもう借金をしなければならない。
近隣の藩からの莫大な借り入れによる勘定操作など、改正が行われればどうにでもごまかしはきく。

「まったく許しがたいことだ。武士の風上にも置けん」

師匠の柔和な顔が、皺ととともに鬼のようにつり上がる。

斬は、じっと話を聞いていたがいまいち要領を得ない。
酒井に恩義があるのは十分に理解したが、それが虎徹の贋作とどんな因果があるのか皆目見えて来なかった。


忠明はしゃべり疲れたようで、一息つくと、茶釜から湯をすくって啜った。

「さて…」

真っすぐに斬を見ながら、ぱんぱんと手を慣らして「入っておいで」と戸の向こうに声をかけた。

引き戸がすーっと開いて、若い娘が頭を下げてかしずいている。
顔をあげると、目に強い光を持つ印象的な顔立ちの娘だった。


【続く】




うわー;真面目に書くとめんどくせーな。
内容はごった煮のフィクションなので突っ込まないように。
よろしくお願いします。



↑うたたね用

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No title

>林檎さん
見かけたら声かけて(´∀`)

No title

>林檎ちゃん
タツヲは毎日いるだろうからめずらしくないけど、斬君はたまぁーにいるくらいだからねえw
対話すると、カニカニ^^と返してくれますw

No title

こないだ・・・
あ、また見かけたというミーハー話ですが
生の斬さんや龍尾さんを見まして感激して
うわぁ本物〜って1人でテンション上がってましたw

No title

>藤井さん
最近わかったんだが、適当にネタにしてるとそれぞれみんな俺の書いてるそのまんまのキャラに思えてきたw
ふぇいはもちろんのこと、源があのままのキャラなんだと読んでる人がイメージしてくれると嬉しいw
というかあいつはリアルでヤリチンマシーンなんだけど。
もちろん藤井さんもイメージどおりだぜ!

No title

実在の刀工だった!
真紅では最近、淫乱ふぇいふぇいなる者が不審な動きをしているそうですぞ!
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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