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信On 鍛冶屋物語【冬の終わりに 壱】

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北斗の斬が表通りを歩いていると、「おい」と声をかけて来たものがいる。
炭屋『吉兆』の親爺 吉兵衛だった。

斬は、力なく笑って「どうも」と会釈をした。

「北斗さん、いい加減溜まってる"ツケ"を支払ってくれませんかね。言いたかないけどね、このままじゃァ鍛冶炭をおさめるどころか、つきあい自体を憚らせて頂くことなりますよ」

「はぁ…」

「あたしだって、あんたのところとは長いつきあいだしね。そんなこたァぁしたくはありませんよ。でもね…あたしだって商売だ。婿養子だし肩身の狭い身なんです。帳簿を見るたび女房が何かとうるさいんですよ」

「あいすみません…。十日ほど待ってもらえれば、何とか半金ぐらいは工面できるかと」

「きっと頼みましたよ。でないとあたしが女房に絞め殺されちまうから」

吉兵衛は首を締める仕草をして、そそくさと川津町のほうに歩いていった。


斬は、刀工の鍛冶屋だった。

鍛冶町にある組屋敷を住まいとし、両親とも既に5年前に他界している。
いまは歳の離れた妹と二人暮らしをしている。

組屋敷とは軽輩が組頭統率のもとに一カ所に住む棟割長屋である。
実態は、住人のほとんどが内職で食いつなぐ貧乏長屋だった。

一軒あたりに必ず2〜30坪の空地がつき、そこで野菜などを作って生活の足しにしていた。
ここを奉公に出ていた頃の親方のツテで借りている。
斬は年季明けが住むと、空地に鍛冶場を設けて仕事場としていた。

貧乏ながらも二十八のとき見合いで所帯を持ったことがある。
しかし、女房は一年ほど前に物狂いで川に身投げをして死んだ。
静かで控えめな女であったが、いきなり夜に飛び出していき翌朝木場の川岸に死体で流れ着いていた。

以来、斬はずっと独り身だった。

斬は刀工になどなりたくはなかった。

生前、親が刀工名人の忠明という者と懇意にしており、強制的に奉公を命じられた。
物心ついた頃から鍛冶場に出入りしていたから、親からは刀造りがよっぽど好きに見えていたのだろう。

十五年奉公した。いっぱしの職人になり、腕を認められてからも、刀造りは嫌だった。
刀はどうつきつめても人を斬るための殺人の道具だ。

心を磨く。魂を磨くなどと侍は建前に言うが、磨くだけなら刀じゃなくてもいいんじゃぁないかとさえ思っている。だが、自分には他に取り柄がないのもわかっていた。
食べるためだけに造る。
親方はそんな斬の性根を見据えていたのか、何年経っても四方詰めの鍛刀法はまかせなかった。


独立してからの斬への注文は、甲伏せ(こうぶせ)の数打ちが基本だった。
仕事は大概は親方の受けで仕事をもらっている。

甲伏せとは、皮鋼(かわがね)を柏餅状に曲げ、その中に心金(しんがね)をいれて包み、火中で熱して鍛着させる方法である。最も簡単な鍛刀の法といえた。

いわば量産型の二流刀だ。楽に日銭を稼ぐ手段であり、有名な刀工ですらその誰もが数打ちを造ったという。
しかし、長光などの名の聞こえた甲伏せならまだしも、斬は世間では名も通らない刀工だった。
手間も安く足下を見られる。材料を買うにもぎりぎりの採算で回しているので、生活はお世辞にも楽ではなかった。最近は、注文もなかなか取れず、炭屋への支払いも滞っていた。


悪い事はかぶさるように降り掛る。
妹のお品が、先月から胸の患いで床に伏せるようになった。

半年前から隣町の大工の若頭との縁談が進んでいた先のことだった。
お品と相手の男は年季奉公が開けたら、一緒になろうと約束を交わしていた。

しかし、お品が胸患いと聞きつけると、相手の親は労咳持ちの娘などとんでもないと、一方的に縁談を断ってきた。
斬は、声を荒げて必ず治るからと説得したが、頑として聞きつけなかった。
若頭の男は姿を見せることなく、縁談はご破算になった。

床に伏せるお品にそのことを告げると、お品は布団の中で静かに泣いた。
布団の端を掴んで、顔を伏せて声を殺して泣いていた。

兄としてどう声をかけてやればいいのかわからなかった。

自分が情けなかった。
やりきれなかった。
たった一人の妹の幸せすら風のように攫っていく運命が憎かった。

ささやかでいい。
平穏で当たり前の日常を望んでいただけのことなのに。

斬は鍛冶場にいても、ただ座ったままで考え込むことが多くなっていった。
傍らの打ち卸した数打ちの一振りが、鈍く光って嗤っているように見えた。


【月曜に続く】

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No title

>アキヤマン
近所にそんなもんあるとはうらやましいな
ところでご自身のロンギヌスは(ry

この前近所の備前長船刀剣博物館にいったが展示物のロンギヌスの槍や刃にアスカを透かし彫りしてあった短刀はなかなかの逸品だったのぉ~

No title

>かずは
真面目に書いたら肩が凝るわ
斬のカニちゃん元気かのうw

>林檎ちゃん
すげえw俺ならくれ!いますぐ!とてんぱっちゃうよw

No title

親戚が備前長船要らないか?と言ってきたときはヒイタっすw

No title

カニさん・・・苦労人だったのね;;
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Author:凸
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生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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