恋は突然訪れる。
あなたも君にも誰にでも。
マソの屋敷である。
大広間の一番奥に座してマソは側女と戯れていた。
ふぇいはまだ地獄突の嗅がせたクロロホルムによって寝ている。
その側で秋山左京太夫と草摩モモが胡座をかいて座っていた。
地獄突は少し遅れてくるからとマソには断っている。
が、しかし──
「たっちゃん♡」
「南♡」
そう言い合いながらマソと側女は先ほどからキャッキャッうふふを繰り返していた。
「あ、あの〜〜マソさん…」
モモがもう耐えられない様子である。
「なんでしょう?」
涼しい顔で笑みを向けるが、興味もなさそうな生返事である。
「さっきから何やってんすかそれ」
「何って…タッチごっこですよ。知りません?あだち充原作の漫画」
そう言ってマソはタッチのハードカバーの6巻を見せた。
「いやそりゃ知ってますけど…」
「昔、恋人達の間で流行ったのですよこれ。ちょっと懐かしくてねぇ。ははは。」
「……」
器量のよい側女二人がマソの首に手をかけたり、肩を抱いたりしてべったりくっついている。
酒池肉林とまではいかないが、ちょっとしたハーレム気分なのだろう。
モモと秋山は思った。
こいつまじ殴りてぇーーー!と。
特に秋山は涙まで流していた。悔しさで握りしめた拳から血が噴き出してきそうである。
秋山がもしセイントだったら、今の小宇宙(コスモ)は、銀河まで届くだろう。
泣くな秋山、泣くな十円つのだじろう。
人生苦ありゃ死もあるさ。
モモはそんな秋山を見て哀れに思ったのか、懐からあるものを出して秋山の口につっこんだ。
「もがぁっ!」
狼狽する秋山だったが、口につめこまれたものが判明すると、見る間におだやかな顔になっていく。
さきほどまでの強烈な怒気が、急激に身体から抜けていった。
「秋山さん、イライラした時にはチュッパチャプスさ!」
モモは精神安定剤の変わりにチュッパチャプスを常備していた。
これがあれば、大概のイライラは解消される。沸点が高くいつもイライラしているような人間にはチュッパチャプスがお奨めなのだとモモは自負していた。
「う〜〜んむ…」
ふぇいが寝返りをうって呻く。
そろそろクロロホルムがきれてきたのだろう。
束帯の切れ間から覗く足が妙に…。いや、コレ以上は言うまい。
それを見てマソは立ち上がってふぇいに近づいていく。
「ん、んん〜〜?」
ふぇいは目をこすりながら身を起こした。
朦朧した意識の中で、優しくしっとりしたテノールで声をかけられた。
「ふぇいさん…ふぇいさん…」
「むぅ?」

「大丈夫ですか、ふぇいさん」
「ほえぇ?ここはどこ?あんた誰ぇ?」
頭をくるくる動かしながらふぇいはあたりを見回す。
目の前には見た事もない爽やかなイケメン。
辺りを見ると何やらどこぞの屋敷の広間のようだが…。
「おきたかい、ふぇい姉さん」
モモがふぇいに声をかける。
「突さんも怪しいのぉ〜。クロロホルムを嗅がせるとは」
秋山も続けて声をかけた。
「はっ!」ふぇいは、ようやく意識がハッキリしてきた。
そうだ、あの時、爆乳女侍に貧乳呼ばわりされてぶち切れたんだっけ。
それで後ろからハンカチか何かで顔を覆われて…。
状況が把握できたふぇいだったが、思い出すと静かな怒りが沸き出して来た。
そりゃ知人とは言えクロロホルムなんざ嗅がされたら誰でもキレる。
「あの変態糞オヤジぃ〜〜!!花も恥じらう乙女になんちゅう事を〜」
「乙女?」
「乙女?」
モモと秋山は思わず突っ込んでしまった。
あわてて口を抑えたが、ふぇいにきづかれないはずがない。
「なんか言った?おふたりさん♡」
ふぇいはニッコリ笑うと、式符を出して術を唱えようとしている。
剛鬼を召喚する気らしい。
肩を怒らせて憤怒しているふぇいに、マソは優しく語りかけるようになだめる。
「まぁまぁ…ふぇいさん。そんなに眉間に皺をよせたらせっかくの美人が台無しですよ(笑」
「……ところであなた誰?さっきからあたしの名前を普通に呼んでるけど」
「ははは。これはこれは。2度も振った男をお忘れですか?マソですよ。タッチャマソ」
「ええっつ!!??」↑(注:ふぇい)
【続く】
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