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戦国女傑物語【伍の九】 むらむすめ ~これいつまで続くのかしら~

「さて…どこまで話したかな」

「山に入る手前ですよ」

ぴしゃりとむらむすめが即答する。

ふたりは夕餉を片付け、居間で茶を飲んでいる。
日置は頭を掻きながら、伏し目がちにむらむすめの顔色を伺った。

<まだ機嫌が直っておらんな>

女の拗ね方にも、可愛いものと疎ましいものがある。
目の前のそれは前者のものではあるが、自分とて足早に出て行きたいと願っているわけではない。

だが、このまま自分がここにいても、大きな厄災ががふりかかってくる。
それは、この肥沃な土地そのものにも濁悪な気をふり撒くだろう。
死人の宿命はそうしたものなのだ。

日置はこの雑賀の郷を気に入っていた。出来ることなら…。
そう思うことも確かにあったが、自分にはやらなければならぬことがある。

あの場所にもう一度帰らなければ自分は死人のままである。
もう一度人生を取り戻すためにやらねばならない。


「おじ…いえ、日置様。それで続きは如何いたしたのですか」

むらむすめはいい加減痺れがきれたと言わんばかりに頬を膨らまして、日置をせかす。
さすがにおじさんという呼称は遠慮したのか、呼び名が変わっている。
変身した憎らしい“おじさん”に対しての精一杯の抵抗だった。


「う~~ん、一回話の腰折られるとめんどくさいもんじゃな…」

剃り残した顎の無精髭をなでながら、日置はものぐさそうに苦笑した。
実際、拍子が外れるとなかなかもとの流れに戻すのは難儀である。


「いいえ。こうなったら全て話してもらうまで出て行かせません。勝手に居ついて勝手に出て行くなんて、犬や猫でも恩義は感じいるもの。ましてや武士の格好をしたいい大人のすることですか」

「うへぇ…まぁ…。それは、その…誠にあいすまん…」

「さ、お話くださいませ。じっくりと」

「う、うむ」

まるで、母親に怒られている子供のようである。歳は親子ほども離れているだろうに、武神と呼ばれる男も女人の業には勝てぬらしい。

むらむすめの剣幕に押されて、日置は仕方なくまた瞼を閉じて語りはじめた。


山賊の住む山へ向かうには、里を縦に流れる川沿いに行くのがいいと言われた。
川沿いのあぜ道には、なずなや踊り子草、ほとけのざなどが今を盛りと咲いている。

弥生(3月)のうららかな日差しと相まって、若い心身はどこまでものびて行けそうな気がする。

日置は若年ながら既に弓の名人と謳われているが、天才は総じて早熟である。
大器晩成とも世には言うが、晩生を待つような悠長な時代ではなかった。
名人ほど努力し研鑽する。来る日も来る日も365日そのことばかり考えている。
あるレベルを超えると、技ではなくそこに精神のありようを考えるようになる。
己自身が学んできた道に、理論という理屈をつけたいのである。

この時、日置は26歳。この時代では決して若いとは言えないが、日置もまたこの頃、己の道に精神のありようを求めていた。

山賊の首領、聞いたところによるとなかなかの人物かもしれない。
女人に対しての扱いといい、無体な強奪もしないという。少なくとも野党にありがちな卑しい人物ではあるまい。
武辺の士であるならば話も通じよう。

そう考えながら歩いて行くと存外楽しくなってきている。
緩い春の光が、川面より反射して目に刺さるのも心地よかった。

半刻ほど歩んで行くと川は左に別れ、山林への道が一本まっすぐにのびている。
更に進むと、鳥居のようなものが見えてきた。
長い棒を縛ってありПの形でかこってあるだけのものだった。ここが山の入口だろう。

「ふむ。いよいよだな」

囲いをくぐって山へ入っていくと、中はさすがに陽が木々に遮られて暗い。隙間からこぼれてくる光が救いだった。
道は里のものが作ったのであろう。人が歩ける道がしっかりできていた。
切り出した材木を引きずりながら、山車に積み込む男達。山菜などを篭いっぱいに摘んでいく娘達。
その情景が浮かんでくるようだった。
ここらは戦乱の火が及んでいないのが、木々の成長をみるとわかる。京を脅かした永祚の風でも吹き飛ばされぬような立派な巨木が多い。

何故、山賊達はこの山への侵入を拒むのか。森々と冷えた空気が不気味に身に纏わりついてくる。
日置は人が足を踏み入れてはいけない人外の領域に入って行くような感じがした。

緩やかな傾斜を登って歩むと右に小さな祠(ほこら)がある。祠の中には、何やら石彫りの像があり地蔵のようだった。菩薩地蔵のように見える。右手に錫杖を持ち印相をとっている。

日置が、どれと覗き込んだ瞬間、声が響いた。

「いね」

しゃがれた老人の声色で、音の無い森を包むように不気味に響く。
声は後ろから聞こえたような気もするが、地蔵の口から聞こえたような気もする。

「でたか」

日置はそう言ってスラリと太刀を抜いた。弓の名人とは言え、日置は武芸全般は達人並みに達者である。
弓と矢は背中に背負っていたが、近接ともなると役に立たない。


声の主は繰り返した。


「いね。大人しくいねば無事に帰そう。いぬなら命はない」


辺りをぐるりと見渡したがいない。声は今度は頭の上から聞こえてくる。
日置は気をはって声に答えた。


「そんなわけにもいかぬのだ。ちとお主らの頭にあわせてもらいたい」

「頭はどこの馬の骨ともわからぬものには会わん」

「馬の骨にも都合はある。力づくでも会わせてもらう」

「愚かな。では死ね」

最後の声は細くはっきりとした声となった。

祠を背にした刹那、ひゅんっと右の肩口から何かが飛んできた。
瞬時に腰をかがめて半身でかわしたが、焦げたような風が鼻をつく。
飛んできたのは暗器の類いであろう。

すると祠の裏手から、鬼面をつけた黒装束のものが現れた。
なりは小柄だが身に纏っている気は尋常ではない。

「草のものか」

日置の問いに鬼面は答えず、懐剣を両の手に持って構えた。
両者が距離を置いて睨み合う。

日置は八双から中段に構えて相手の出方を待った。
お互いが円を描きながら摺り足でじりっと歩みよっていく。

鬼面が動いた。引いた右足で地を蹴って土を飛ばした。

「むぅ」

日置がひるんだ一瞬に懐の間合いに鬼面が動く。
懐剣を交互にくり出しながら蹴りまで放ってきた。

たまらず後方に回転してそれを避ける。回転しながら右手の太刀でなぎながら、追撃を防いでいた。
左手を少し斬られたが深手ではない。

「できるなぁ」

体制を立て直しながらにやりと笑った。
常人なら腹をかっさばかれている攻撃だろう。さらに蹴りで追いうちとはまったくえげつない。
しかも回転しながらの連続の蹴りをしながら息一つ乱れてはいない。

しかし日置も、もともと戦人(いくさびと)である。命のやりとりの闘いには慣れていた。
武芸者の死合いの目的は殺す事ではない。死合った結果で死ぬのはあくまで結果である。
負けを認めた相手に対して追い込んで殺すのはただの殺戮である。
武芸者はあくまで技の錬磨による成果をその死合いで試す。
しかし戦人は敵を殺すのが仕事だ。敵は殺す。ただ殺す。それが仕事であり唯一の目的である。

日置はそんな戦人の目に戻っていた。
鬼面も日置の放つ威容に気圧されていた。目の前にいるのは人ではなく獣である。


「貴様…。何者」 声が少し震えている。

「まず、そっちが名乗るべきだろう」

こうなると、死線をくぐり抜けてきた経験が戦闘にも反映する。
生きようと思ってふるう剣と、既に死んでいるものの剣は根本的に違う。

青眼から八相へさっきとは逆に構えながら、今度は日置が先に動いた。

「きぇえぇええええいい!!」

短くするどい気合いとともに稲妻のような素早さで、遠目の間合いから剣を振り下ろした。
まるで居合いのような鋭さだった。

ガキィイン!という金属音が辺りに響き渡り、嫋嫋と余韻が森中に染みいっていく。

鬼面は十字に結んでそれを受けていたが、両手から懐剣が離れ地に落ちた。
両膝をつき呻き声をあげて面を両手で押さえた。

「う、ううぅぅ…」

すると面が、中央からまっぷたつに割れ、鬼面のものの素顔が現れた。

「はっ!女!?」

まだ20歳も出ていないだろうあどけない顔だ。
きれながの目は多少きつくは見えるが、顔立ちはなんとも美しい美少女である。


「おのれ…!」と毒づきながら、日置を睨みつけながら、尚も戦意は失っていない。額を押さえながら落ちている懐剣を拾い構え直した。額の傷もかすった程度のものだったが、日置は元々命をとろうとは思ってはいなかった。故の見切りの斬撃である。

「まだ負けてない」

日置は驚くとともに、この気の強さを感心しもした。
女人でありながら草につとめるものはこういうものなのかと。しかも美しい少女である。
目は涼やかで、顔立ちにはどことなく品が備わっている。

もう戦う気はなかった。というよりも女の顔に傷をつけてしまった慚愧の念が生じてきた。

「いや、もう勝負はついた。おさめられい」

「なにを!」

構えながら攻撃をくり出してくる。が、先ほどのようなキレがない。
日置の唐竹割りの斬撃により、足がおぼつかずよたよたしている。

鬼面の少女は蹴りを出そうとしたが、腰がくだけてバランスをくずし地に伏せてしまった。
少女は土を噛むようにして泣いていた。
声を押し殺して泣いていた。

負けたことが相当悔しいのであろう。容姿骨柄ともに大した気概の娘である。
しかし、ここまで悔しがる事もなかろうて。負けたのはそこらの雑兵ではなく日置弾上だぞまったく。

そう言いたくもなったが、さすがに自分で言うといやらしい。
ぐっとこらえて、泣いている娘に語りかけた。

「あ~。その、だな…。ワシは日置といってな。多少弓を使うので弓の材料が欲しくてここまで来ただけでな」

娘は顔を上げて日置を睨んだ。顔のあちこちに土がついて、なんとも愛嬌のある顔になっている。
もとが美しいだけに尚更可笑しかった。


「ただちょっとお主の頭領と少し話がしたいだけ…」

と言い終わる前にたまらず、声を上げて大笑いした。腹の底からつきぬけるような大笑いである。
娘はそれを見てきょとんとしていたが、目を吊り上げて怒った。

「何が可笑しい!おのれ、なぶるか」

「だ、だってお主のその顔、まるで土竜だぞ。はっはっはっはっ」

「えっ!」

娘は手で顔をなぞると土がついた顔をそで口で拭いた。

しかし汚れは全体に広がっただけだった。切れ長の目を丸くして「どうだこれでとれたか?」を聞いて来る。

その様子が何とも滑稽で愛らしい。ますます笑いがとまらない。
娘はさらにどうだこれで落ちたか、これでもかと聞いてくる。

そのうち娘も釣られて大笑いをしはじめた。
二人の笑い声はしばらく続いてお互い顔を見合わせながら意味もなく笑った。

娘の笑う顔はとてつもなく愛らしく、見ているだけで日置の胸に暖かいものが流れ込んでくるようだった。

娘の名は沙羅と言った。


【続く】




つかなげーよ。いつまで続くんだこれ。








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No title

>かずは
【嫋嫋】音が鳴りやんでも、なお、かすかに残る響き。また、その音が細く長く続く様子。詩や文章の言外の趣や、事が終わったあとの情緒あふれる風情にもたとえる。

ということである。

ながいし、、、読めない漢字がいっぱいおっぱい(笑)

女弱女弱ってなんだぁぁぁ?

No title

>藤井さん
メーテルみたいな人なんですよ!

No title

むらむすめ氏は実体が無いと聞きました!
プロフィール

凸

Author:凸
カテゴリー:おっさん
生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
血液型:B

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