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戦国女傑物語【伍の八】 むらむすめ ~恋する乙女の裏事情~

夕餉(ゆうげ)の支度をしていた、むらむすめの手が一瞬止まった。

「え?」

居間から声をかけてきたのは、こざっぱりとした衣服を身に付けた男である。
一瞬誰かはわからなかったが、よく見ると蓬髪を整え髭を剃った“居候のおじいさん”である。
痩せて蓬髪に隠れてはいたが、養生の甲斐もあり猿頬の如くそげ落ちていた頬などもしっかり肉が戻ってきていた。鬢に白いものが混じって年嵩は多少いってはいるが、四十手前の苦みばしったなかなかの美男であった。

むらむすめは、あんぐりと口を開けていた。こんな風に。

(゚Д゚;)あんぐり

その様子を見て、男はたまらず吹き出した。

「あっはっはは。驚かせてすまん。ワシだワシ」

「あ…おじさん…ですよね?」

「そうそう。そのおじさんだ」

屈託なく大笑いするその顔はまるでそこらの童だ。むらむすめは、つられ笑いをしそうになったが、同時に腹だたしくもなった。
おじいさんだと思っていたから、あわれにも思い介抱して居候までさせていたのだが、さすがに男盛りの不定の者としたならどうであったろう。介抱まではしただろうが居候までは許さなかったはずだ。
しかも寝るとこは当然別としても、寝食をともにしているのだから年頃の娘としては、近隣へのはばかりがある。

色々考えるうちに、むらむすめは顔が赤くなってきていた。

「おや、どうした?顔が真っ赤でまるで茹でたタコだぞ」

そう言って涙を流さんばかりに大笑いをしている男に、人の気も知らないで!と怒鳴りつけてやりたかった。
しかし、悔しいのと驚いたのと恥ずかしいという感情がいっぺんに押し寄せて巧く言葉が出て来ない。

いまいましいこの男をどうにかしてやりたかったが、あまりに楽しそうに笑っているのでしようもない。

「…ぷっ、クスクスッ」

さすがにむらむすめも呆れて笑い出した。
最初は両手で口を抑えて控えめに笑っていたが、ツボに入ったのか遂に腰を折って涙を流しながら大笑いをしている。

思えば、この男を不審に思っていた最近は空気が重かった。
こんなに腹の底から笑えるのはひさかたぶりのような気がした。

ようやく笑いがおさまると、男は正座をして身なりをキュッとひきしめておごそかに挨拶をした。


「さて…。むらむすめ殿。この度の手厚い看病また衣食の礼遇、深く感謝申し上げる」


そう言って男は深々と頭を下げた。

「な、なんですかっ。急にあらたまって…。嫌ですよもぅ」

むらむすめはあわててかぶりを降り、また顔を赤らめた。

「いや、そなたは素性もわからぬ拙者を、介抱してくれただけでなく、番所にも届けず、あまつさえ衣食住ともに面倒をみてくれた。まったく誰にでも出来ることではない。生涯忘れぬ」

「おじさん…」

「むらさんには迷惑千万であったろうが、定住の地が無い拙者にとってはなかなか楽しい日々であったよ。しかし明日にはもう立とうと思うのだ」

男は照れくさそうに、はにかんだ笑みを見せる。
むらむすめは何故かはわからないが、胸が締めつけられるようなせつなさがこみ上げてきた。


「おじさん…。いっちゃうんですか」

瞼からこぼれおちそうな雫を必死にこらえた。

<薄情者!恩知らず!>

そう罵倒してやりたかった。いくらなんでも急すぎる。
こらえた涙はこんな恩知らずに涙なんか絶対流してやるものかと意地をはったのであった。

それを感じたのか、男は少し声を落として諭すように語る。

「うむ…。むらさんの毒舌の叱咤も聞けないと思うとさみしいものだが、これ以上厄介になるわけにもいかんのでな」

「わたしは迷惑だなんて思ってませんよ…」

「いや、ワシにしてはちと長居しすぎたぐらいだ。死人が一つのところに長居するとロクなことはないのだよ」

「死人って…!?」

「ワシはすでに死人なのだよ。そして冥府にもゆけず現世を彷徨っている死骸だ」


そう言った男の顔は泣きたくなるほど、哀しく優しかった。
むらむすめは、その顔を見るとたまらず小さな嗚咽をもらした。

先ほどの大笑いによって感情が過敏となっているのかもしれない。
もしかして馬鹿になってしまったのだろうか。
感情の抑制がきかず、後から後からせつなさと哀しみがこみ上げて来る。
別に親兄弟でもない赤の他人に対してどうしてここまで感情をなぶられるのか自分でも不思議であった。

男は手をむらむすめの頭に優しくのせて、よしよしとなでた。
そして最後だからと身の上話をぽつりぽつりと語り始めた。

本名は日置弾正 正次(へきだんじょう まさつぐ)と名を明かした。
若き頃は、六角佐々木氏とともに多賀党と戦い、そののち土御門天皇に仕えたこともあると言う。
武芸は特に弓を好み、諸国を修行して廻るうちに、様々な技を修得しその道を開く。日置流の粗でありいわゆる古流弓術の開祖とも言える武神であった。

しかしここで大いなる矛盾がある。
日置弾正 正次は室町時代中期の人とあるが、実際は生没年不詳とあるし、戦国時代の時系列とまるで噛み合ない過去の人である。戦国時代は諸説あるが室町時代末期の始まりであったはずだ。
となると日置弾正 正次その人であろうはずがない。むらむすめにしても日置弾正の名ぐらいは聞いたことがある。しかしそれは寺子屋で教わった物語の中での話であった。また人をからかってるのかと訝しんだが、男の目はいつものちゃかした風なものは見られない。限りなく真剣であった。

重ねて男は言う。まぎれもなく自分は日置弾正 正次、本人であると。
面妖なことではあるが、それについては日置と名乗るこの男の語りを聞いてみることにした。


日置弾正 正次が、まだ20代半ば 諸国を放浪していた頃、野には田夫野人、山出しの浪人などで溢れていた。
野党なども跋扈し、人気のない街道で旅の親子連れが襲われることなどしばしばである。

世は荒れていた。食い詰めもののごろつきが仕官を求めて、京に上るもよほどのツテと高名、もしくは財がなければ積まれた石垣の隙間に食い込むことなどできようもない。
武芸者などは芸者と呼ばれ、兵法諸国遍歴の浪人なぞは明日の米にありつくのにもがいていた時代である。

日置は、多少の福力の持ち主で立ち寄った城下などで、弓や矢を自作してて実入りを稼いだ。これがいい評判になり、また既に弓の名手としてそこそこ名を挙げていたので、客として寺院や大名からも客賓のごとく扱われ、路銀には不自由しなかったという。

あるとき、泊めてもらった武家屋敷で武蔵国に質の良い山錦木(別名マユミ:弓の材料)があると聞いた。
日置は一も二もなく武蔵国へ出向いた。
良き弓を作れることも弓術者のたしなみであると日置は考えていた。

武蔵国に入ると、山錦木の群生する山林の場所をほうぼう聞き回って歩きやっとその山を探し当てた。

しかし、そこは2年ほど前から住みついた数名の山賊が塒にしている山で、里のものは恐ろしがって近づかない。
山賊はたまに里へ降りてきて里の若い娘を一人だけさらってゆく。
数ヶ月たつと娘は里に返され、また違う娘をさらってゆく。

いずれも16~18頃の年頃の娘で、返された娘が言うには、特に乱暴はされず飯炊きや風呂を若し洗濯などをさせられた。
もちろん、閨の相手もさせられることもあったが、娘が嫌がると絶対手出しはしてこなかった。
頭領らしき男は秀麗でほれぼれするような、水も滴る美男とさらわれた娘は口々に言う。
そのうち、この頭領の情の深さに娘のほうが惚れ込むようになり、夫婦のように仲睦まじくなる。
手下の男たちも粗野ではなく、教養があり、里の男たちなど霞むほどにいい男達であったらしい。

一人だけ仮面をつけてまったくしゃべらない不気味なものが一人いたと言うが、特に娘達に関ることもなかった。
この仮面の男が見張り番として山の門番となっているらしかった。

里に返された娘は、娘から女になって帰ってくるが、親のほうはたまったものではない。
山賊の頭領を忘れられず、山へこっそり帰っていくが、門番の男に通してもらえず泣く泣く戻って来る有様である。
村の男にしても思いを寄せていた娘や許嫁が、横から山賊なんぞにかっさわれたら面白いはずがない。
許嫁であった17歳の娘を祝言直前にかっさらわれた若者がいたが、山へ追っかけて行き何が何でも娘を取り返そうと試みた。しかし、門番の仮面男に返り討ちに逢いほうほうのていで逃げ帰った。
数ヶ月して戻ってきた娘の心はもう若者ではなく、頭領に抜き取られており、祝言をあげるどころではなく若者は首を吊った。


これを里の長より聞いた日置は、どうしたものかと考えた。
自分は山錦木を手に入れたいだけなのである。

長は「なんとかならんものですかのう」と憂いていた。


女をさらう山賊。それなら別に不思議なこともない。しかしさらっておいて身体だけではなく心まで奪ってから、また戻す理由がわからない。

だがそれ以外は、特に悪さもせず、強奪もしないという。ただ山に入ってくるものには容赦もせず攻撃するそうである。頑なに山への侵入者を拒み続けてもう2年ほどになるというが、その間に山へさらわれた娘は20名近かった。
中には未通女(おぼこ)のまま帰ってきたものもいる。しかし半数以上は女にされて帰ってくる。

これでは里の男共の立場はない。しかも人の手によって女にされ、いまだ思いを通じている女なぞ嫁にしたがる男はいない。このままでは里はダメになってしまうと長は嘆いている。


色狂いか。それとも─。


どっちにしろ、山賊の理由などはどうでもいい。しかしほうってもおけんなぁ…。
山の木は本来は里のものである。山錦木を切り出すにしても里のものの協力は必須である。

日置は意を決してその山賊の頭領とどうにかして話をしてみようと思った。
山賊とは言うが、話を聞いていると隠のものに近いものを感じる。
膳は急げと早速支度をして山へ入る支度を整えた。




「あの…この話長くなりますよね?」

つらつらと過去に身を置いて語っていた日置だが、むらむすめの切り裂くようなつっこみで現実に引き戻された。

「あ…、う、うむ…ごほん。多少、、はな…」

「それなら先に夕飯にしませんか。それにこれを書いている筆者も無い頭を絞って書いているので、そろそろ疲れてきてるようで…」

「あ、、ああそうだな。ではこの続きはまた明日ということにしとくかの。ったく…いいところで。だらしのない筆者じゃな」

そう言って日置とむらむすめは、うなずきながら席を立った。

【続く】

SDFWEF
↑筆者 はいはい、どーもすみませんでした

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非公開コメント

No title

>藤井さん
む!あれ俺も読んだっけ
ゴルゴの中でかなり好きなストーリーw
しかし衛生を狙撃するのに弓の修行とか発想がすげぇ

No title

武射系日置流!
ゴルゴが衛星撃ったのもこれw
プロフィール

凸

Author:凸
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生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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