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戦国女傑物語【伍の七】 むらむすめ ~源の爪痕~

「こんな素晴らしい蕎麦屋で働いてる気分はどうだね」

その同心姿の男は、煮売り屋「大三元」に入ってくるなりそう言った。
雀荘と間違われるがこの当時に雀荘などは当然ない。

刻はもう夜の四つだった。
店の主人は、睦月の冷えた気を店の中に連れてきたのが迷惑そうである。



「旦那、冷えますんで戸はすぐ閉めておくんなせえ。それにうちは煮売り屋でさあ」


旦那と呼ばれた男は、店内をぐるりと見渡してから腰掛についた。現在のカウンター席である。
20人ほどで満席になる店だが、客は2名ほどしかいない。

一人は縁台でへべれけに酔って潰れている。うつぶして空になった銚子を転がしていた。

もう一人は、同心の3つほど離れた奥の席で無言で酒を飲んでいた。
同心を気にするふうもなく、ただ静かに銚子をかたむている。
歳は30そこそこに見えるが、固い表情である。纏っている雰囲気は明らかに堅気ではない。


「へっ、大繁盛だな。それにしても漬物とメザシ以外食えるものあったかね」

「板前は、この時間になると帰っちまうんで。最近、遅い所帯を持っちまったから」

「寒いな…」

「旦那は夜中にしかこないから」

同心は何かの合図のように目配せをしながら両肘をついて両手を顔の前で合わせた。


「今日は冷えるな」

明らかに催促の合図である。

もう一度「今夜は…」と同心が言いかけて、主人は

「ああ、まったく冷えるよ」と言葉をさえぎって、碗に入った燗酒をドンッと同心に前に置いた。この手のやりとりにはうんざりしているらしい。二人は顔なじみのようだった。

同心は満足そうに一口燗酒を啜ると、生き返ったようにほっとため息をつく。

「こんな日は、焼酎の燗が一番さ。はぁ」

こわばった顔から笑みがこぼれ、本来なら人なっつこく見えるだろう丸っこい目尻が緩む。

同心はカウンター奥の男を、チラッと見ながらもう一杯啜ると、誰かに語るように話し始めた。

「俺はな。もめごとが嫌いなんだ。ここらに住んでる奴なら誰でも知ってるよなぁ」

「ああ。しってまさぁね」

俺はここで育ったしここが好きなんだ。ここは俺の居場所なんだ。やさぐれどもが方々から住みついて俺の居場所を荒らすなんざ金輪際我慢ができねえんだ」

主人はもう相づちをうつのはやめて、同心の勝手な語りにまかせて洗いものを始めた。
これももうお決まりの儀式らしい。

「俺はな、う~ん、うまく言えねぇが…やっぱりここが好きなんだ」

同心は奥で飲んでいる男のほうを向いて相づちを求めた。

「なぁ、あんた。そうは思わねぇか」

男は、同心の問いには答えず正面を向いたままだった。

同心は首をかしげて男をみた。
明らかに不審の色が浮かんでいるが、それ以上声はかけずにあきらめたように席を立った。

「邪魔したな」

そう言って同心はカウンターに勘定を置いて店を出て行った。
戸を開けたときの冷気がつきささるほど痛い。

主人は、片付けをしながら奥の男にすみませんねと謝って、おかれた銭をカウンターから拾いあげた。

「古い知り合いでさぁ」

「そうだろうと思った」

舐めるように猪口を口につけて男が言った。別に無愛想というわけではないらしい。
相手が同心ということで警戒していたようだ。


甲府の町は、最近事件やもめごとが多い。あまつさえ、甲府で先々大きな闇市が開かれるらしいと、人々の間ではまことしやかな噂が出ている。

さすがに奉行所も手をこまねいてはいられない。与力や同心クラスの役職者達まで総動員しての警戒体制を強いていた。夜半にうろうろ動き回っていると、怪しきものとして捕らえられる輩もいる。
町中がぴりぴりと張り詰めた不穏な空気で満ちていた。

「最近物騒でやんすから。ほれ、そこの先の家でもちょいと前に押込みがありましてねぇ。若夫婦が殺されて下手人は逃亡ってぇひでぇ話でして」

「金目当ての押込みかい」

「らしいんですがねえ。でもねえ、あの若夫婦だって裕福ってわけじゃあなかったそうで。ようやく亭主の年季奉公が明けて手間賃があがったと喜んでいたそうで」

「ひでぇ野郎もいたもんだな」

「ええ。それに嫁ってぇのが身重だったそうで」

「子どもも死んだのかい」

「らしいですねえ。」

「許せんな…。まさに外道だ」

「ほんとにねえ…。下手人の手配書が向こうの壁に貼ってあるでやんしょ。人間とは思えねえ人相でして」


「ほう。どれ…」


男は席を立って手配書の前に立った。

源
三代目源十朗(真紅:武田所属) 押込み強盗の咎にて見つけ次第市中引き回しの後に死刑




「これは人類ですらねーな」

「そのとおりでさぁ」


男はしばらくして店を出た。
外に出ると身体の芯から冷えこんでくる。

浪人の風体をしていた男は、少し歩くと顎に手をやると顔に貼り付いている皮を剥ぎ取った。
皮の下には、なんと源十朗のボスの石川五右衛門の顔がそこにある。

一味は既に雑賀郷の蔵から盗み出した宝具の競売目的に、甲府に潜入していたのだった。


「源の奴はいい外道になれそうだ。もっとも…」

そう言いながら夜の闇にまぎれながら走り出した。
そして少し口元を緩ませながらつぶやいた。


「長生きできんだろうがな」


そのつぶやきは漆黒に融けるように不気味な余韻を残していた。


【続く】

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No title

>藤井さん
あんたが怖いわ!

>御堂筋さん
矢作俊彦のシナリオのパクリですけどやっぱうまく書けないっす!
最後のネタはお約束です

No title

すごくシリアスなシナリオなのに・・・。
写真だけピンポイントのオチw

No title

源さんこわい;w;

No title

>源
地獄少女「この恨み、藤井に流します」

No title

ちょwwww

どんどん外道化してんじゃねーかwwww
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凸

Author:凸
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生息地:都内在住
生業:印刷・ウェブ制作全般
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