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信オン 三浦を訪ねて三千里⑨




凸と美代が出たのは陽も高くのぼった正午前だった。
さすがに昨晩の疲労が祟り、凸がなかなか起きなかったのである。


「おじさん、何回起こしても起きなかったのん」

赤みをおびた頬をぷぅと膨らませて凸をなじる。

「疲れてどうにも瞼が開かねえからしょうがねぇな。う〜、ちっとまだ酒が残ってやがる」

「おじさんは不良なのん」

「優良だったらな、今頃こんなとこにお前みてぇなガキといねぇよ」

「ふーんだ。べぇ〜」

たわいもない会話で言い合うが、お互いそれを楽しんでいた。

凸も最初の頃は、やれ厄介なものを押しつけられたと愚痴をこぼしていたが、このひと月ですっかり美代がいることに慣れてしまった。

おまけに美代はなかなかにさかしいところがある。
屈託なく人見知りをしない気性で、宿にいる間も何かしら手伝いをしたりするものだから、大人によく可愛がられた。
ある旅籠では、見目の器量も見込まれて是非うちの養女にくれと頼み込まれたこともある。
いく先々でそんな調子であるから美代を連れている凸に対しても待遇が悪いはずはない。
今までにない快適な旅ができている。

人心掌握。
人の心を掴む才能が美代にはあった。本人が意識してやっているのではなく、あくまでも自然体だ。


もしかして…俺はすっげぇ金の卵が手のうちにあるんじゃなかろうか。
そんなことを考えたりもする。

三浦に渡すのも惜しい気がしてきた。
それに三浦の顔なんざ知らねえんだし、適当にごまかして、いっそ、このまま…。

「うぉっ!何考えてんだ俺は」

顔を左右にブルブル降って、湧いてくる邪念を振り払う。

三浦に会わせて引き渡す。
そして俺は三浦からツケを払ってもらう。
それで終いだこの旅は。

「おじさ〜〜〜ん、はやく来るのん〜」

先を歩く美代が手を振って凸を呼ぶ。
その様子を目を細めながら、目前にそびえる山をのぞんで歩を早める。

霜月も終わり冬の到来に急ぐ山並が、荘厳な銀色に化粧されるのも近い。
これを超えれば美濃の関所だ。

寂寞たる山林を超えて向かうは尾張の城下。
いざや急がんいざやいざ。



さて、あれから斬と三浦はどうしたろう。

時を一日戻してみる。


斬は今までの楽しい気分がいっぺんに吹っ飛んでいた。

目の前にいるこの男。自分の過去を知り、横流しの首謀者でもある男。
三浦カズ。かっての武田家で使者まで勤めた男。

昔のやさ男の面影はもうない。
悪相が顔の皺に刻み込まれている。

三浦の噂は斬も聞いていた。
それほど、今の三浦は地位と名声を築いている。
尾張の回船問屋MIURA。MIURAには取り扱わない商品はない。
武器は不動産はおろか人までも売買の対象だ。

ここまでのし上がるには、相当悪辣なことをしてきたに違いなかった。


「あの…。なんですか、いい話って…」

斬が見を乗り出してぼそぼそと声を出す。

三浦はその様子が滑稽だったらしく、ぷっと吹き出して笑った。

「あっはっはは。おいおい、そう構えなさんな。何も後ろ暗いことを頼むわけじゃないさ」

「というと?」

三浦は口に手をあてて、顔を斜に構えた。これは何かしら相談事を持ちかける時の癖である。

「知ってますよ斬さん。俺も結構な立身をしたが、あんたも大層な職人なったもんだ。噂はここまで耳に入るよ。あの4人の鉄匠に劣らない天才だとね」

「いえ…俺なんかまだまだ…」

「謙遜するこたねえさ。こぅビシっと胸をはんなよ。天下に轟く国友鉄砲鍛冶の名人様なんだから」

「いえ…ですから俺はまだまだそんな偉いもんじゃぁ…。それより、話ってなんですか?私もうそろそろ行かないと…」


斬は早くこの場を離れたかった。三浦のことを毛嫌いしているわけでもないのだが、顔を見ていると、どうしてもあの一度きりの過ちが、斬の良心を責め立ている。

三浦はそれを制して強引に斬を引き止めた。
さすがに軟化しない斬の態度に多少いらついているようにも見える。

「まぁちょい待ちなってばよ。おっと、さっきも言ったように悪い話じゃねえよ。これはある意味人助けだしな」

「人助け?」

「おおよ。人助けさ。それも斬さんもまったく知らない顔じゃない」

「えっ…誰だろう。昔の私設か一門にいた人ですか?」

「ああ、そうさ。かずはちゃんだよ。不動のかずは」

「不動…さん…。あ、ああ〜確か凸さんの妹とかで…」

「それそれ。その、かずはに1丁、鉄砲を造ってやってくれないかね」

「すみませんが…個人的な依頼で国友鉄砲は造れませんよ。材料まで厳重に管理されてるし、そもそも納入先は決まっていますし」


斬は勘弁してくれとばかりに、首を横にふる。

三浦は顔もあげずに、斬の猪口に酒を注ぎ足した。

「本物なら、だろ?」

「本物?」

「俺が言ってるのは模造品。レプリカさ。それを造って欲しいんだよ」

「何のためにですか?」

「先日、京でかずはちゃんに会った時に、旅に出るときに護身用に鉄砲があればなと言っていたんでね。ほら、何かと物騒だし女の一人旅ってさ」

「それだけ、ですか?」

「それだけも何もそれしかねぇさ。もちろん弾もでなくてもいい。外観だけ国友鉄砲ならね」

「しかし、それなら他の鍛冶屋に頼めばいいでしょう。国友じゃなくても護身用にはなりますし」

三浦はぼりぼりと横つらを掻きながら、う〜んと呻く。

「ま、確かにそりゃ道理だ。が、かずはちゃんはどうしても国友とまったく同じじゃなきゃ嫌だと抜かす。俺だって同じことを言ったよ。でも、聞き入れてくれなくてさ」

「そもそもなんで三浦さんが、不動さんに鉄砲を用意してあげるんですか?あっ、まさか…」

「いやいや勘ぐらないでくれ。前に安請け合いをしちまったもんだからさ。ほら俺の店ってなんでも手に入るって看板出してるだろ?で、用意できなきゃ貫目が下がるというか何というか、ね。それにあれはそんじょそこらの鍛冶屋が造っても出来映えがね。やはり素人目にもわかっちまうから」

「はぁ…」

斬は呆れたようにため息をついた。

「何でも手に入るとは言え、国友鉄砲だけはさすがに禁忌の品さ。いくら金を積んでも手に入らねえ。そりゃよくわかっちゃいるが、レプリカなら何とかしてやると担架を斬った以上、後にはひけネェンだ。な?頼むよ斬さん」

「……レプリカを…しかしそれでも…」

「もちろん金ははずむぜ。…でも、断るってんなら、こっちもそれなりに考えがあるが」


さっきまでとは打って変わった険しい表情で、声色も太く短いものになった。
豹変した三浦の胆力に斬は気圧され、うつむいて無言になってしまった。

三浦はくっくっと笑いながらぽんぽんと斬の肩を叩く。

「はは…。冗談だよ冗談!まぁでも頼むよ斬さん。あんたと俺の仲じゃないか。それに人助けってことでさ」


断ったらどうなるか。どう言い繕ってもレプリカは偽物である。
肉が入ってない青椒肉絲は青椒肉絲じゃない。

同じように弾がでない鉄砲など鉄砲ではない。
ただの鉄の筒である。

もちろん本物などは造って渡すことは不可能である。
レプリカなら…あるいは。

頭に浮かんでくるのは嫁の顔と、まだ見ぬ子どもの顔だった。
壊したくないもの、守るべきもの。

それが今の斬にとって、国友鍛冶の誇りと同じように比重を占めている。


「わかり…ました。一か月もらいましょう。それでいいですか?」

「おお、ありがたい!それでこそ斬さんだ。それじゃしっかりと頼んだぜ。お〜〜い!!ねーちゃん、こっちの酒と料理の追加だ追加!」


三浦は依頼成功に目を輝かせて注文を頼んでいる。

斬は目の前に注がれた酒を一気に飲み干した。
急激にまわる酔いに暗澹たる暗闇を見たような気がしていた。



当の不動かずはは、そんな大事になっているとは露知らず。
甲府の屋敷の縁側で寝転んでお菓子をほおばっている。

「ふがし、うめぇー」


そう言いながら暢気に怠惰な生活を満喫していた。



【続くの反対はちゅじゅく】
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テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

信オン 三浦を訪ねて三千里⑧



斬と三浦が尾張で対峙している頃、凸は街道宿場の居酒屋にいた。


「……」

男女は4−4のあわせて8名。

それぞれ挨拶はすませて席に着いている。

開始から30分。本来なら盛り上がってる頃合いなのだが、何とも楽しめない凸である。
原因は隣に座っている女だ。

一言で言えば、マイク・タイソンに似ている。
体もごつい。多分、現役の男性ボクサーとガチでやってもいい勝負をするのではなかろうか。

見ろよあのごつい腕。まるで鋼だ。血管が浮き出していて浅黒く、まるで土方のおっさんのようだ。
こいつは絶対、神がやらかした産物である。まちがえちゃった、てへ(・ω<)」とか絶対言うよまじで。

「なによぅ、もうおじさんたら!じっと見つめてぇ」

タイソンと名付けた女がほほを赤らめながら、俺をどつく。

「ぐあっ!!」

奴にしては軽くこづいたつもりだろうが、鎖骨にヒビが入ったかもしれない。
これは、やばひ;。


「い、いや何かスポーツとかやってるのかなとね…」

しびれた肩を押さえながら聞きたくないけど聞いてみる。
大人は空気を読むものだ。タイソンと言えど女である。
それなりに接するのが大人だ。

「あたしってぇ、見た目通り虚弱体質なのよねぇ。スポーツより家で音楽聞いたり読書とかしてるのぉ」

「はは…。そうかぁ、インドア派なんだな(どう見てもオメーは亀田よりつぇえだろ)」

「最近はねぇ、タッチャマソのマソ・ラップがお気に入りなのぉ」

いや聞いてねーし。
てか、藤井さんは顔を見せないし、他の女たちはまともなのになんで俺だけこんな…。
野郎、また騙しやがったな。

はっ!!まさか…。
凸は夢中になってしゃべりまくっているタイソンの胸をチラ見した。
あくまで気づかれないように。

これは…Fカップ?まさかこれが…。Fカップちゃん?
おいおい、これは犯則だろぅ;ほとんど岩石のような筋肉で盛り上がっているぞ。
これは、おっぱいというより頑健なプロテクターだ。

聞いてもいないのに、タイソンは勝手にしゃべりまくっている。
自分の世界に酔っているようだ。

「でね、デビュー前からのファンだけど別に発狂してないよ。もともと「結婚したい」「子供が欲しい」ってよく言ってたし、マソに振り回されるのは馴れてるし」

タイソンは、穴の空いた風船のようにマソのことをしゃべり続けている。

「ちょっとぉ、おじさん!聞いてる?」

また叩かれた。今度は頭をはたかれて脳震盪を起こしそうになっている。
すげぇ威力だ。まるでK-1初代チャンピオンのブランコ・シカティックのような岩の拳だ。このまま横にいたら確実にどこかの骨を折られるだろう。

「ちゃんと聞いててよねもう!でさぁ…あんな奴だけど好きなんだからしょうがないのよ。型に嵌らないのがマソだしね。プライベートは彼女が支えればいい。私達はマソの晒し=魂を支えるから。その魂は私から子供へ、子供から孫へと受け継がれていくし、そうやっていつかマソのDNAと混ざり合うから。それがあたしとマソとのEternalだし。まっ、おじさんにはわからないよね〜こんなん」

凸はしゃべりまくるタイソンに顔も向けずにグラスを抱えて軽くうなずいた。

いったい何を言ってるんだこいつは…。
マソがどうのこうの言っていたが、わけわかんねー。何がEternalだよ、エタノールでも飲んでおけ。
そう思ったが、口には出さずに笑顔をつくる。

これが、地獄流処世術の壱【笑って応えず】である。

どっちにしても、藤井さんに嵌められたようだ。
またやられたな。
そう言えば昔「犯られた刑事」ってビデオがあったっけな。タイトルに笑ったよな。

そんなどうでもいいことが脳裏に浮かんでくる。
なんかもう他の奴らはカップルが決まったらしいし、俺たちだけ超絶浮いてるし。
天網恢々粗にして漏らさずとはよく言ったもの。

童女をほっぽって、邪な性根を起こした罰だな。


「すまん、ちょっとトイレ…」

「いってらん〜!桜子ちょっとよっぱらってるしぃ〜」

タイソンが手を振っている。
桜子とか…。肩を震わせて転げ回るほど笑いたいが、恐怖心のほうが勝っている。


トイレから戻ってくると、他の3人組は自分たちの世界に入ってイチャイチャしていた。

タイソン、桜子が凸にしなだれてかかってきた。

「ううん〜、桜子まじで酔っぱらっちゃったみたい〜。お・じ・さ・ん♡」

凸はまるで獰猛な肉食獣に睨まれた小動物の気分を理解した。
これは犯られる!脂汗がどっと吹き出してきた。
なんと恐ろしい。

凸は思った。

俺は……

これでもそこそこ腕は立つ。

修羅場もいくつかぬけてきた。そういうものだけに働く勘がある。その勘が言ってる。

このままだと

俺はここで死ぬ。

さてと。
凸はすっくと立ち上がって数回、深呼吸をした。

逃げるか。

そう思った瞬間、凸はタイソンを振り切って一気に居酒屋の玄関口にダッシュを決めていた。



夜もとっぷり暮れた頃、凸は宿屋に戻ってきた。
満身創痍だった。途中までタイソンが追いかけてきたのだ。
タイソン・ゲイのごとく恐るべき脚力で追いかけられ生きた心地がしなかった。
2時間ほど追い回されたあげく、ようやくあきらめて帰っていった。

今までにこれほど恐怖を感じた夜はなかった。

あんどんに灯を入れると、きちんと布団がひいてあり、美代が寝ている。

「疲れた…」

吐き出した言葉が重い。

凸は美代の寝顔を見ながら、すごくすまない気持ちになっていた。
いきがかり上、尾張までの連れの旅路となったわけだが、それが猫や犬でも情はわく。

ましてや、年端もゆかぬ童ならば当然である。
それをほっておいて、何をしてるんだ俺も三浦も。

「三浦の野郎…不憫なことをしやがるなぁ」

ちょっと涙が出た。

寝顔を見ながらそうこぼすと、美代が灯りをきらって薄目をあけた。

凸に気がついた美代は、恥ずかしそうにかけ布団を少し上に引っ張った。

「おじさん…泣いてるのん?」

凸はあわてて、顔をそむけて涙を拭いた。


「なっ、泣いてなんかいるか馬鹿野郎。殺すぞ!」

「まだ眠い…」

「わりいな起こしちまった。飯は食ったのか?」

「うん。お魚と味噌汁」

「そうか。ちゃんと留守番していたようだな。偉いぞ」

そう言って頭をなでた。

美代はくすぐったそうに、布団にもぐりながら顔を半分だした。


「宿のおばちゃんのお手伝いしたのん」

「ほぅ、えれぇな。じゃまた寝ろ」

「おじさん」

「なんだ」

「おじさんはなんで働かないのん?」

「ぐっ…;い、今は休業中だ。お前の父ちゃんへの取り立てでな」

「お父ちゃんは悪い人なのん?」

「俺にとっては悪いな。うん…悪い。てかあいつは烈風武田の偽りの救世主と呼ばれていた男だしな」

「アミバ?」

「うむ。奴は三浦だがな。さ、また寝ろ」

「うん…」



美代はまたすぅすぅと寝息を立て始めていた。
子供の寝顔は邪気がなくどこまでも清らかに見える。

美代の寝顔を見ていると、何とも言えない優しい心持ちになっていく自分がいる。
癒されていく心か、それとも魂魄の浄化か。

この寝顔を親である三浦が見てやれないとは…。
他人事ながら何とも情けない。


明日はしっかりと買い物をしよう。
あと藤井さんは絶対探し出して〆よう。
今日のお詫びに美代に何か買ってやろう。

灯りを落として美代の横に敷かれた布団に入ると、酒の酔いも手伝って泥のように昏睡していった。
しかし、凸は尾張に入る前に一番肝心なことを忘れている。

それに気がついたとき、大いなる試練が凸と美代に襲いかかるだろう。
それはまた次回の講釈にて。


一方、姿を見せなかった藤井はと言うと、泡を吹いて膣痙攣を起こした女にはさまって救急車で病院に運ばれていた。

藤井さんは、医者に事情を聞かれて「トゲイボ付きコンドームがまずかった;」と反省していたと言う。

ま、めでたしめでたし。


【次回もサービスしちゃうわよ〜ん】



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ジャンル : 日記

信オン 三浦を訪ねて三千里⑦



場所は変わって尾張の城下。

居酒屋で鮒味噌を肴に徳利を傾けている者がある。
簾をかけて土間に長椅子を置いて机台を並べただけの店だが、思いのほか繁盛していた。

2名ほどの若い女給は、客の注文取りにせわしなく動き回り、威勢良く調理場に注文を申し付けていた。

その男は入口にある小さな机にややうつ伏せに気味にして、ちびりちびりと猪口を啜っている。
風体はこざっぱりした町人に見えるが、背中は広く迫力のある体躯であることがわかる。

歳は鬢に銀色のものがいくらか見えるが、まだ若い。三十を少し出たくらいであろうか。
袖からのぞかせる太い腕は逞しく、傷や火傷の後が刻まれている。
男が 日常で火を使う力仕事をこなしてきた歴史を物語っていた。

男は北斗斬という鉄砲鍛冶だった。
元は紀伊の里で、刀、槍などを製造する打物鍛冶であったが、鉄砲の魅力に惹かれ、希代に轟く国友鉄砲の産地、近江国坂田郡に移り住んだ。

そこで琵琶湖の東北隅にある国友村の鉄匠の家にひと月あまりも通い詰め、半ば強引に見習い弟子となった。
もちろん、斬の有していた技術も認められたに違いない。外部の弟子などはありえないと、村の上位階級である足利将軍より鉄砲製作を命じられた子孫の長老たちは猛反対をした。

斬は組合のもと評議にかけられ、身元の調べ、試し打ちなどのテストを受けた。
独り者の斬が村で暮らすだけでも大騒ぎとなる。
このように徹底した外部隔絶体制のもと、国友村の製造技術は守られていた。
鉄砲の製造技術は秘中の秘であり、なまなかなことでは外部の者を受け入れることはなかった。

4人の鉄匠のひとり、国友鉄算が特に推挙して斬を弟子に取りたいと頭を下げたことも大きい。
鉄算は冷酷に見え計算高く、普段は腹の内を見せない不気味な男であるが、この件に関しては周囲も不審がるほどに強く申し出ていた。
あるいは斬が若く美麗な男であるのも要因かもしれなかった。
この時代で師と弟子の修道関係はそう珍しいことではない。
鉄山は、子を成さず某時もことのほか淡白であったのかもしれない。

国友村は、故信長公が秀吉に命じて支配させた直下の地である。
天下を統べる手前であった信長は刀剣に興味なく、近代兵器である鉄砲の威力に目を向け、それを秀吉が引き継いだ。

戦のありようも、既に近代化の波が押し寄せ、刀剣槍などによる白兵戦から、大砲や遠距離射撃で敵を殲滅しうる手段を考えねばならない時期に来ている。

しかし、鉄砲の製造にはあらゆる技術が必須であった。
その錬磨された技術が結晶となって造られたものが国友鉄砲である。
種子島などとは比較にならぬ精度を誇り、軽さ、耐久性なども飛躍的に向上している。

銃身の鋳造法、筒の底を塞ぐネジの製作、照準、射角、射程、爆発力の砲術知識など数え上げればキリがない。
その一つ一つの製法が奇跡のように繋ぎあわされて、完成したのが国友鉄砲である。
まさに殺傷能力を秘めた究極の芸術品とも言える。

皮肉なことに、この美しき芸術品が今までの戦の仕様を一変させることは間違いなかった。

国友村の鉄鍛冶たちは、町人と言えどそこらの役人が持つ権限より、はるかに大きな権限を持っていた。
現代風に言えば、VIP待遇の契約専門技術者である。
当然、羽振りは良く威勢もいい。


この地は太閤より石田三成が任され、その家老である島左近は常々に国友州は石田の宝じゃと言いはばからない。特に鉄匠たちの接触には細心の気を配っている。
家来たちはそこまでせんでもと思うのだが、左近は人材の扱いを軽く見ることは出来ない。特に国友村の職人集団はプライドが高く、ややもすると傲岸である。己の知識・技術が世を統べると考えている節がある。
そんな連中とうまく付き合うには、柔軟なスタンスと彼らに対するリスペクトを忘れてはならない。
口だけで褒めてちぎるのは誰でもできる。

さすがに領民とは言え、足利時代からの職人集団だ。当然、その気骨も太く偏屈な者が多い。
へそを曲げられて、逆に豊臣の仇にでもなられたら身も蓋もない。

しかし、左近のような家老、しかも天下に轟く猛将に尊厳を払って対応されると、いかに偏屈な職人たちでも心を開かずにはいられない。
彼らは人の嘘を見抜く。左近は誠実に対応することによって、職人たちから盤石な信頼を勝ち得ていた。




「うむ。旨い」

鮒味噌に箸をつけながら、斬は飲み込むようにつぶやいた。

斬は尾張城下に鉄砲三千を納めた帰りであった。
既に鉄算のもとを離れ、家を持って独立している。

最近は商談などのとりまとめも任されるほどになっている。
春に嫁をとり、子供も生まれる。まさに順風満帆の帆風を受けて人生が開けていた。

子供のことを考えると、自然に目尻が下がる。
ニタニタしながら、酒を飲んでいると入口の暖簾があがり、ドカドカと店の中を進むと、店の中をジロジロと眺め回した。

誰かを探している素振りだったが、店の喧噪にまぎれて気にもならない。
斬は徳利に残った酒を猪口につぎ、押し込むようにぐいっと喉に流し込んだ。

すると、どんっと音がして対面に先ほど入ってきた男が座った。

「あん?」


斬は、なんだと訝しんで男を見ると、見る見るうちに顔が青ざめてくる。

男は二カッと笑った。


「北斗さん、暫くだね」

「あ、あんた…」


座った男は、机の上に両肘をついて手を組んだ。

「三浦さん…」


そう。この男が凸と美代が探している三浦カズ本人である。
三浦はにこりともせず、女給に酒と肴を注文した。


「2年…いや3年ぶりかねぇ」

「……」

蛇のように絡みつく視線が斬には痛い。

三浦と斬とは、三浦が近江の浅井に逗留している頃に出会った。。

三浦は当時、武田の寄り合いの組員として働き武田に忠心を尽くしていたのだが、織田との外交を機に織田への出奔を考えているのだと言った。巨大に膨れ上がった武田には、もはや国勢の真剣に想うものは少なく、獅子身中の虫の巣窟だと嘆いていたのだ。
国に両親と嫁を残してきた三浦は、このままでは国に帰れないと、侍をやめて尾張で商何か商売をするつもりだと斬に漏らしていた。
尾張はこれから関東の商売の要になるからということであるらしかった。

そこで商売をするにあたって、斬に国友の銃を数丁流してくれないかと頼んできた。
三浦は、これからは武器のバイヤーで儲ける時代だと熱く語っていた。
国友の製造台数は半端じゃなく組合の監査によって厳重管理されている。
数丁どころか1丁でも数が違えば大事である。
もちろん斬は断った。
そんなことをしたら、絶対ばれた上に鉄砲鍛冶として生きては行けない。とても無理だと。

しかし三浦はあきらめない。報酬ははずむから、一回限りだからと土下座せんばかりに嘆願した。


悪いことに斬はまだ習いの身分で、給金も雀の涙であった。

そこへ国元から母親が急逝したと便りが届き、何とか葬式代だけでも工面はできないかと縁戚のものが頼んできたのだ。しかし、当時の斬にはそこまでの余裕はない。

散々、迷ったあげく、斬は都合3丁を三浦に与えた。
斬がどうやってごまかしたのか、それはわからない。

しかし、それを元に三浦は尾張に名の聞こえた有力者に取り入った。めったに手に入らない国友銃を手に入れた有力者は気分をよくして、弾丸の販売ルートの利権を一部与え三浦はめきめきとその商才の頭角を現していった。

数年後には店を表通りに構え、表向きは回船問屋として、裏では戦の武器を大量に仕入れて売りさばく死の商人として超速の成りあがりを実現したのである。

斬はその時に三浦からもらった金で、無事に立派な母の葬式をあげることが出来た。
それは見習いの斬が手間賃としてもらえる2年分の金に匹敵した。

が、いつまでも慚愧の念は胸にこびりついていた。
己の犯した過ちは、国友の衆を、誇りを汚したのだといつまでたっても拭えない想いがある。

しかし、時が経ちすでにもう十数年前のことだ。
若気の至りで許してもらいたい。

斬は三浦の顔をじっと見ると、唇を噛んだ。

「三浦さん、その節は…お世話に」

小声でぼそぼそと挨拶をした。

「いやいやこちらこそ。お互い様さ。今があるのは斬さんのおかげと言ってもいい」

「いえ…そんな」


斬は三浦の目に何かふくむものを見た。
これは獲物を見つけた時の、絶対的強者の目である。
三浦は斬が納入の責任者であること知っている。
どこかでその情報を掴んで、斬に接触してきたに違いなかった。

「実はいい話があるんだが」

そう言ってにやりと笑う三浦の目には底知れない邪悪が浮かんでいた。


【続くにょん】

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信オン 三浦を訪ねて三千里⑥




山を超える手前で、宿場町に入る。
関所前の街道が交差する地点なので、なかなかに賑わっていた。

凸と美代は、そこで一晩休んでから山越えをすることにした。
なにせ幼子連れであるから、体力的にも休養は必要である。

足は遅くなるが、今更どうしようもない。
それに冬に入る山を越えるには、色々と準備も必要だった。

宿場に入ったとたん、めざとい宿屋の呼び込みに捕まり、めんどくさいのでそのまま宿を決めた。
見た目は古いが、ここなら安そうなので手持ちの路銀で何とかなる。

二階の部屋に案内され荷物を置いて、障子ばりの戸を開けると、行き交う人々の流れが見える。
それを面白そうに美代は眺めてはしゃいでいた。

「美代、俺はちょいと買い物がある。飯食っておとなしく待っとけな」

そう言って凸は、部屋を出て行った。

美代はそれには答えず、外を眺めて喜んでいる。

しばらくすると、さすがに飽きたのか、ごろんと仰向けになって目をこする。
朝早かったので、眠いのだろう。

やわらかい陽差しが心地いいらしく、そのまま身体を丸めて寝息をたてはじめた。
その寝顔は愛らしく安らかであった。


凸は町の片隅までくると、お目当ての雑貨屋がないことに辟易した。

「ここまで来たら、もう店はないな。なんだよ、コンビニもねぇじゃねえか」

悪態をつきながら、引っ返すかと頭を掻くと、左にある茶屋から男女のカップルが賑やかしく出てきた。
この茶屋は女も買えるちょんの間宿だ。
男は白梅の小袖をつけて、金糸に刺繍された袴をはいてなかなかに傾いている。
その男の首にぶらさがるように、若い娘がべったりとくっついていた。
いかにも、頭も股も緩そうだったが、匂い立つような色気がある。

はん、真っ昼間から大層な身分だぜとちょいと見ただけで通りすぎようとしたが、カップルの男から声をかけられた。

「あれ、もしかして凸さん?」

「え?」

驚いて男を見ると、なんと知人の藤井駿河守である。
烈風時代の今川の重鎮、黒幕とも言われていた男が、見る影もなくチャラ男になっている。

「なんだよ藤井さん、その格好」

「いやぁ…。まぁ時代の趨勢と言うかなんと言うか…でも、決まってるっしょ?ポール・スミスの特注なんだ」


そう言って照れ隠しに笑っている。
木曽川では、戦場の今川焼きと言われた面影は微塵もない。

「超絶だせぇ」


凸はけんもほろろに言い放つ。

すると女が険を歪めて食って掛かってきた。

「ふざけたこと言うんじゃないよ!いかすよ!」

どうやら、この女は藤井の情女(イロ)らしい。愛しい男の悪口を言われたと思い激昂しているのか。
というか、マネーの虎のなんでかんでんの社長みてぇ。


「おい、この人は昔の馴染みだ。粗相をするともうSEXしてやらんぞ!」

藤井に嗜められて女はしおらしくなって、泣きべそをかきながら謝った。

「ごめんなさい;もうしないから、もうしないから」

「わかればいいんだ。あとでたっぷりご褒美をやるからな」

女は歓喜しながら藤井に折れんばかりに抱きついた。

アホらしい。

まったく、藤井さんともあろうものが、一体全体このていたらくは何なんだ。
硬派でならした藤井さん。
変態だったが、びしっと一本筋が通っていて面倒見が良かった藤井さん。
ちんちんしゅっしゅっとか、いつも小学生みたいなことを叫んでいたが、晒した奴を見つけると脅して引退まで追い込んだ藤井さん。

そんな藤井さんは俺の憧れだった。

だが、ここにいる藤井さんはもう昔の藤井さんじゃない。
まるで調子にのった海老蔵だ。カイエンを買えなかったハンカチだ。
がっかりだぜ。

「…おりゃ行くよ。んじゃ元気でな」

凸はきびすを返してもと来た道を歩き出した。

「ちょっ、ちょっと待ってよ凸さん。久々に会ったんだしちょいとそこらで軽く飲ろうよ」

「ちと、待たしてるものがいるんでね。悪いがまたの機会だね」

「おっ?これかい?」

藤井は小指を出してにたりと笑う。

「まあ…そんなとこ」

「女ができたか凸さん。いやぁよかったよかった」

その物言いに凸はカチンときた。


「なめてくれるなよ、女ぐらいいるよ。あんた、世の中で自分だけが女がいるとか勘違いしてねえかい?」

「おいおい…。やけに絡むねぇ。あ、でもそっかー、女いるのか」

藤井は残念そうに、女を引き寄せて腰のあたりをさすっている。
女はやん!とか言いながら腰をうねらせて身をよじった。

糞が!うらやましい…。

「女がいるんじゃしょうがないな。他を探すか…」

「え?何?どーいうこと」

「んー。実は今日、馴染みの居酒屋のネーチャンたちの慰労会なんだけど、男がたりないんだよねえ。予定してた人数が揃わなくてまいっちゃってんだよ。俺、幹事なんでさ」

「へぇ。合コンみたいなもんかね」

「まぁそうだねえ。みんな彼氏いないし。ちなみに店の名は【バララララ・バインバイン】」

「…胸は?」

「は?胸?」

「胸だよ。おっぱい」

「でかいかってこと?」

「ああそうだよ!巨乳かって聞いてんだよ!!!その娘たちは巨乳なのか!!」

凸は興奮して藤井の胸ぐらを掴んで雄叫びのような声をあげた。
藤井にくっついている女がその剣幕を見て怯えている。

「く、くるちぃ;ま…ぁ、みんな大きいんじゃないかな。その中でもなかでもKカップとかいるし」

「Kだとぉ!!!なんということだ…神よ!」

「凸さん、落ち着いて!」



凸は、はっと我にかえって手を離した。


「す、すまん藤井さん。Kと聞いて年甲斐もなく…」

「ふぅ;びっくりした。でも、どうせ出る気はないんでしょ。女が待ってるんだろうし」

「い、いや…あれは、彼女つうか、まぁ大したもんじゃないからいいのさ」

「ふぅん…。まあいいや。じゃ、行くかい?」

「いく!いっちゃう!」

「のってきたねえ。そうこなくっちゃ。まだちょいと間がある。5時から店はあいてるから先にあがっててくれ。番頭の小僧に藤井の連れだといやわかるから」

「がってんしょーちのすけ><」

藤井は女ともう1ラウンド消化してからくるらしい。
タフな男だ。

美代のことが頭に浮かんだが、

「そんな遅くならなけりゃ問題ないだろ」

納得させるように言い訳をする。

後ろめたい気持ちも多少あるが、そもそも俺がお守りをする義理もないわけで。
そんな思いを振り払うと、時間までどこかで一杯ひっかけるかと算段した。

凸の頭の中はすでに下記のAAマンセーである。

cvsdbseb e


もちろん

当初の予定などすっかり忘れていたのは言うまでもない。


【絶対続くんだもん】




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か・わ・し・まwww

本日はSSお休み。
ベルギー戦を朝5時起きで見てたんで、このネタは外せないw

かわしま は ふしぎなおどり を おどった!!!  


しかし るかく には きかなかった!

ザッケローニ の しんらいが 10さがった!


xcvgthmjuyae

   ∩___∩
   | ノ      ヽ/⌒)
  /⌒) (゚)   (゚) | .|
 / /   ( _●_)  ミ/
.(  ヽ  |∪|  /
 \    ヽノ /
  /      /



朝っぱらから大笑いさせんなよ川島w

しかしよく逆転して勝ったな。眠いけど5時起きの価値はあった

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信オン 三浦を訪ねて三千里⑤




橋を超えてからは、かなり歩を進めることができた。
尾張の関所は、前方に見える山を越えればすぐだと茶店の親父が教えてくれた。

ドタバタしていた旅はようやく落ち着きを見せた。
もう余計なトラブルはご免だ。

たかが三浦に会うのに、なんでこんな苦労をせにゃならんのか。
理不尽である。

一服いれよう。

凸は軒端のちょうどよさげな石に腰掛けて煙草を取り出す。
最近は一日一箱も吸わなくなった。

火をつけて白煙を吐き出す。
まぁのんびり行こうか。
ちと色々ありすぎて疲れた。

尾張に着いたら、まずは宿を取って三浦を探そう。

しかし…


凸は横にちょこんと座っている、美代と言う先ほどの娘を一瞥してため息をつく。

「はぁ…」

美代は凸を見ながら、まるい目をくりくり動かしながらニコニコしている。

なんだこの状況は…。
なんで俺はガキ連れで尾張に向かう羽目になったんだろう。


この美代は三浦の子どもだと言う。

じゃ、お袋は誰だと聞くと

「いないのん」

美代はそう言ってうつむいた。
美代の姉だと思っていた娘は佳代と言って、戦災前に美代の家の近所に住んでいたものだった。

佳代が仔細を話してくれて、あらかたの事情は理解できた。
住んでいた一帯は先の合戦で焼き払われ、大人は皆殺しにされたという。

村のはずれの豪に隠れ、生き残ったこども達を集めて寺の和尚がしばらく面倒を見ていたが、その和尚も病で倒れてそこにあの山賊たちが住み着き悪さをするようになった。


美代の家は地主だったが、入婿の三浦が美代が生まれた翌年に戦に出ると言って家を出てしまった。
家のものは必死にとめたが三浦の決意は変わらない。

若い女房は悲しみのあまりに床に伏せってそのまま亡くなった。

ある時、三浦から便りが届いた。三浦は合戦の武功により武田に士官したという。
もう少し手柄を立ててから故郷に錦を飾ると記してあった。
女房が亡くなったことを返信で知らせると、それ以降、三浦からの文は途絶えた。

祖父たちに育てられた美代は両親の顔は知らない。
ただ、祖母から父の話だけはよく聞かされて知っていたのである。

数年後、三浦が尾張で卸問屋をしていたという知らせを、村にくる行商人から知ることができた。
祖父祖母は何とか帰ってきて欲しいとの文を行商人に託すが、返信はなく時は過ぎた。

凸はさすがに怒った。

「ゲイ疑惑は晴れたが…腐れ外道だったか。外道はドブネズミに劣る」

三浦の真意はわからない。
娘に対する慚愧の念か、会わせる顔がないのか。

とにかく、三浦にはこれでツケ以外に色々貸しができたことになる。
ノシをつけて返してもらわねば。

途中の旅籠でこぎれいな古着を買い、風呂に入らせて身ぎれいにさせたり、飯を食わせたり。
なんで俺がこんな慈善事業をせなならん。

美代は着いていくと言ってきかなかった。

「うち、お父ちゃんに会いたいのん」

そう言って泣きじゃくる童女の姿は、ビームサーベルよりも強烈である。
佐渡先生や佳代は、無言で俺を見つめている。


「おい…やめてくれよ。なんで俺が…なぁ?」

「凸さん…。さすがにこれは連れて行かんと。ねぇ?

「えぇ〜〜っ;つか、なんで、あんた半笑いなん?」

「い、いや…笑ってませんけど。楽しそうだなぁと思って」

「やめてくれ;」


追い打ちをかけるように、佳代があのすがるような目で懇願してくる。

「お侍さま。何とぞ、美代の願いを聞いてあげてくださいませ。お礼は…お望みとあれば…あげます…」

佳代は顔を横にして顔を赤らめる。

「お礼…って。お、俺は別に…」

そう言いながら、佳代の胸の谷間をチラ見する。
ほんとに男はしょうがない生き物だが、股間は何よりも正直だ。

佳代は豊かな胸の谷間から、取り出したものを凸の手に握らせた。

「これを…」

佳代が渡したものは、数枚の紙切れである。

ガバスであった。


「……またこれかい!!」


そう言って地面に叩き付けた。

「わかったよ…」

凸は二人を見ながら観念したというポーズで両手を上げた。

「人は人のために何かをやらなきゃならん。不運にも俺にもその巡り合わせが来たらしい…」

佐渡先生が凸の肩を叩いて笑う。

「そのとーり。情けは人のためならず。ですしね」

「ありがとうございます!よかったね美代!ほら、お礼を言うんだよ」

美代は満面の笑顔で、凸にすり寄って抱きついた。


「ありがとう!おっちゃん

「おっちゃん言うな!!」



で……この状況である。


美代は凸の苦悩も知らず、草を織って遊んでいる。
髪も奇麗に梳かして縛ってもらい、年齢相応の身なりになっていた。

「おじちゃん!」

「なんだ」

ふてくされた顔で凸は答えた。


「おじちゃんって、悪い人なのん?」

「まぁ…少なくともいい人じゃねぇわ。お前たちを見捨てようとしてたし」

「おじちゃんはお侍?」

「昔はな。今は格好だけで、ただの飲み屋のマスターだ」

「お父ちゃんとお友達?」

「友達っていうよりターゲットだな。ツケ払えば客になるが」

「うち、早くお父ちゃんに会いたいのん」

「知らねえよ…。ったく、人の気も知らねえで」

凸はうんざりしながら答える。
ガキはこれだからうっとおしい。

屈託のない笑顔で質問をしてくる美代は、冬の曇天も暖かく感じさせた。

凸は、首を振っていかんいかんと戒める。

考えてみればこいつは人質みたいなもんだ。
三浦がツケを払い渋りやがったら、こいつを売っぱらうぞと脅してやる。

幼くてもこれだけの器量だ。有名どころの店に高値で売れる。
交渉次第では当分遊んでくらせるかもしれない。

そんな邪念も頭をよぎる。
さすがにそこまでやったら、いくらなんでもけじめってもんがないから、最終手段ではあるがな

「さて…行くか」

腰をあげてまた歩き出す。今度は一人ではなく二人だ。

美代は、凸の横に並んでひょこひょことついてくる。
しかたないので、少し歩を緩めて歩いている。

なんで俺がこうまで気をつかわにゃならんのだ、糞ぅ。

しかし…三浦の野郎は飲んでるとき、一切身の上は語らなかったなぁ。
浮いた噂がないのも、死んだ女房への義理立てだったのか。

よくよく考えてみると、結構長いつきあいなのに三浦のことはほとんど知らなかった。

ま…尾張に着きゃわかるか。


「美代」

「なぁに?」

「この話、続くと思うか?」

「もちろんなのん」


どうやら長くなりそうだ。

【ということでまた明日】

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信オン 三浦を訪ねて三千里④



リーダー格のやせぎすが、無言で突っ立っている凸の様子に業を煮やして怒鳴り散らす。

「おぅ!なんとか言ったらどうなんだ!!おい!」

すると、小太りの男が目を丸くして身をすくめた。

「ごめん兄貴;え〜と…何か、何か…」

「おめぇじゃねえよ、この馬鹿!」

やせぎすが呆れてペチンと小太りの頭をはたく。

小太りはちと足りないらしい。


凸は3人を見据えながら、背後の女と子どもをチラと見た。

その様子に爬虫類顔がいよいよしびれを切らして刀を構えた。

「このおっさん、俺たちを舐めてやがるぜ。構わねえからぶっ殺そうぜ」

やせぎすもそれにうなずいて刀を抜いた。

「おぅ、おっさん。冥土の土産に教えてやる。かっては、あのタッチャマソが筆頭だった鯖最強最悪の一門「ギニュー特戦隊」の四天王だった者よ。光栄に思い死んでいきな」

タッチャ…マソ。マソの仲間だったのかこいつら。
それにしてもセンスがだせえ。
特戦隊というよりダチョウ倶楽部のがしっくりくるんじゃないのか。

とにかく勘違いで知人の知人と下手にもめるのもよろしくない。

とりあえず…

「あ〜、ちと待った」

凸はようやく声を出して、向けられた凶刃を制した。
やせぎすと爬虫類の動きがぴたりと止まる。

「あ?なんでぇ」

「今更謝ったって勘弁はしねぇぞコラ」

「いや、っていうか…殺してねーし」


そう言って、子どもを抱きかかえている女に顔を向けた。

ひしと子どもを抱きかかえて泣いていた女の顔に驚きの色が見える。
「うっ…」と呻いて子どもがぴくりと動いた。

「美代っ!おお…」

女が肩を震わせてさらに強く子どもを抱きしめた。

見ると括り付けられていた岩の前には、斬られた縄とまっぷたつに割られた蛇の頭と死骸がある。
斬ったのは縄とこどもに這っていた蝮であった。

3人の山賊は、きょとんとしてその様子を見ていたが、ようやく事情を飲み込んで顔を見合わせている。
子どもは不意の斬撃によって驚きのあまり気を失っていただけであった。

「さて…誤解も解けたようなので、行かせてもらうよ。先を急ぐ身なんでね」

そう言って橋へ向かって歩き出した。

「待ってください!」

踞っている女の横を通り過ぎようとすると、女が不意に追いすがってくる。

「私達を助けてください!」

「あ〜ん?」

凸は足を掴まれてつんのめりそうになった。

「あの山賊は私達のような戦災孤児を集めて囮にして旅人を襲っているんです。もう…嫌なんですこんなこと…」

女はやはり身なりは祖末だが、よく見るとまだ若く二十歳を出ていない風だった。

「この子もまだ10歳なのにこんな非道なことを手伝わされて…。お願いですお侍様。あの山賊から私達をお助けください」


目に涙をためて必死に懇願してくる娘を見て、凸は思った。

乳でけーな。Fカップ…はあるな。

それはともかく、面倒ごとはもうごめんである。
けんもほろろに、その願いをはねつけた。

「えー、やだよ。俺、正義の味方じゃねーしよー」

「お願いします;お願いします…どうかどうか」

顔もあげずにすがりついてくる女を見て、何ともいたたまれない気持ちにはなる。
しかしここはあえて心を鬼にして言わねばなるまい。

「お前らなぁ…。そうやって北斗の拳のリンみたいに人に頼ってんじゃねーよ。あれだろお前ら、平和なときだとピンポンダッシュとか平気でやるだろ。虫がよすぎんだよ、困ったときだけ大人に頼るとかやめてよね!」

「うちらピンポンダッシュなんかしません…。そもそもこの世界に玄関にピンポンついてる家なんてありません;」

「いいから、手を離せ。おりゃ、これ以上他人事に首を突っ込むのはごめんなんだよ」

「あんな外道を見て見ぬ振りですか、あまりにもひどい;」

「ひでーじゃねーんだよ、生きてくために皆必死なんだろ。だったら非道も糞もねー。今は悪魔が微笑む時代だ」

「そんな…むごすぎます;」


娘はよよよと泣き崩れ、掴んでいた手を離した。

妹と思われる娘は相変わらず真っ黒な顔で目だけは大きく無言で凸を睨みつけている。

やだなぁ…。なんでこう面倒ごとが降り掛かるのやら。

「とにかく、そんなんは電人ザボーガーか、僧兵をデリバリーしてもらってくれ。俺には関係ねぇし」

すると、妹がいきなり泣きべそをかきながらぐずりだして泣きわめく。

「僧兵半端ないってー。転生中のケガ人めっちゃレスキルするもん。藤井さんだってできひんやんあんなん;」

なんで関西弁で大迫ネタなのかは置いといて、面白いので凸はちょっとこの童女が気に入った。
予定がなければ持って帰って磨きたい。そしてネコ耳つけさせてにゃぁと泣かせたい。



……冗談である。

断じて俺はロリコンじゃねえし、猫耳萌えでもない。


「ま、生きていくためにはきれいごとは通じねえのよ。とにかく山賊のおじさんの手伝いでもしながら生きてくんだな。ガキの時分は我慢しろ」


「……;;」

姉妹はようやく諦めたのか、黙ってうなだれてしまった。
ちょっと可哀想に思ったが、だめだ、ここで気を向けては。

もちろん凸にもいっぺんの良心がないわけでもないが、捨てられて泣いてる子猫をいちいち育てるわけにもいかない。サムライフラメンコみたいに、がむしゃら愚鈍に正義を貫くポリシーもないのだ。

気の毒にとは思うが、人には持って生まれた宿命がある。
これはどうしようもないことである。
それを打破したいなら、自らが宿命を打破する力を持たねばならない。

力なき正義は無力であり正義無き力は暴力。
しかし、正義だけでは飯は食えない世紀末。

いつの世も蹂躙されるのは弱きもの…か。

助けてはやりたいが、3人相手は分が悪い。
非情のようだが、こんなことをやっていてはきりがない。
踞る姉妹に背を向けて、凸は重い足取りで橋へ向かおうとした。

「おい、待ちなよおっさん」

「ん?」

今まで様子を見ていた、やせぎすが背後から声をかけた。

「わりぃな。ガキを殺っていようといまいと結果は同じなんだよ。このまま黙って行かせると思ったかい」

「……おいおい。俺はあんたらが何をしようと構わねえし、ここの所行を言いふらそうとも思わんよ。殺されるのは弱いからだしな。山賊も生きていくための仕事だろうし。もめ事が嫌なだけなんだ」

「そうさ仕事さ。なら、俺たちがおめぇさんを殺っちまうのも仕事ってことになるよなぁ」

下卑た笑いでもっともな正論を吐く。

「なるほど。確かにそりゃそうだ」

さすがリーダーだ。他の二人に比べてちっとは頭が回る。凸は納得がいったように笑った。

爬虫類が舌を出しながらじりっと詰め寄ってきた。
快楽殺人者の目だ。こいつのは仕事じゃなく、ただ人を斬りたいだけの変態だ。

「おっさんよぉ。じっとしてりゃ一瞬で終わらしてやるぜ。下手に手向かいすると死ぬほど痛い思いをすることになるがな…」

…どうせ殺すつもりだろうにこいつは馬鹿だな。
ため息まじりに煽り文句を返す。

「お前、顔も悪いが頭も悪いな。言ってることが超絶矛盾してんだろ」

「おっさんに言われたくねぇよ、それに俺は図工は5だよ」


そう言い返すと、爬虫類が斬り掛かってきた。

「けひゃあっ!」

袈裟斬りに左斜めから降ってくるするどい斬撃をひょいとかわす。

「あぶねぇな」

凸は素っ頓狂な声を出して身構えた。

「へぇ、よくかわしたもんだ。だてに侍の身なりはしてねぇか」

「侍といっても俺は武芸のような脳筋じゃねーんだ」

「どうでもいいよ。とにかく死ねや」

「やだ!生きる!!」


ひょいひょいと繰り出される鋭い斬撃をかわして逃げ回る凸。
刀も抜かずに反撃をしようともしない。
そのうち爬虫類が疲れを見せ始めてきた。

「はぁはぁはぁ…。ちょこまかと虫のように;おっさんのわりに素早いじゃねえか…」

「なぁ、もうやめようぜ。また別の獲物を待ちゃいいだろう。俺、金なんざ持ってねえしよ」

「ふざけやがって、てめぇ…一体…」


凸の静止にも関わらず、爬虫類が凝りもせず斬り掛かってくる。


すると突然、断末魔の悲鳴が聞こえた。

「ぎょえっ!!」

「ぶべっべえ!」


少し離れて戦いを見ていたやせぎすと、小太りが血を吹き出して倒れている。

「ぬっ!?」

爬虫類が足を止めて、二人のもとにかけよった。

「お、おいどうした!何が…」

二人は完全に絶命している。一撃のもとに斬りさげられていた。

「おいっ!何があった!?兄貴、竜兵!」


やっぱダチョウ倶楽部じゃねえか…。

まぁいいや。

凸は悲しみに震える爬虫類の背後から、抜いた刀で背中を心の臓まで貫いた。

「ぐぼっ!!」

爬虫類は胸に生えた刀を見ながら、ゆっくりと振り向く。

「て、てめぇ…き、きたねぇ。卑怯だ…ぞ」

「はっ!それこそお前らに言われたくねーよ。いいからとっとと死ね」

刀を引き抜いて、さらに肩口から斬り下げた。
爬虫類の苦悶に満ちた顔が地面に落ちた。

「正しい社会の構図だぜ」

へっと鼻をかきながら、刀を鞘に収めた。

凸は勝てる私闘しかやらない男である。
100%勝てるものしかやらなかったので生き残ってこれた。
卑怯だろうが外道だろうが、どんな手を使ってもとにかく生きる。
戦国において死んだら負けだからだ。
勝つためなら、毒も使うし女も使う。落とし穴だって使っちゃう。
この世は勝てば官軍負ければ地獄なのだから。

3人では100%の勝ち目はない。しかも個々の力量は未知数。
だからあえて戦いをしなかった。
勝負は何が起こるかわからないものだ。
楽観視をすると足下をすくわれる。

それを長い戦国生活で嫌という程味わってきたのだ。

「しかし、マソの奴に今度会ったら文句を言っておくか。こんなんを野放しにしやがって」

ぶつぶつ言いながら、てぬぐいで手についた血を拭き取り辺りを伺った。
姉妹はおびえて震えている。

それにしても一体誰が…。


周りの木々がざわっと揺れた。

「むう?」

気配があらゆる方向に動いている。
しかし、先ほどのような殺気は感じられない。

何やら懐かしい気配だ。
不意に背後に気配を感じて柄に手をかけると、肩をぽんと叩かれた。

振り向くと柔和な顔をした薬師風の男が、笑顔を向けていた。

「佐渡さん!」

「どうも。お久しぶりです。美しき魔闘家 鈴木です」

「どう見ても佐渡先生です。ありがとうございました」

武田古参の知人の佐渡先生であった。だいぶ前に、青年海外協力隊で国際支援のためにカルカッタに旅立ったと聞いたが。

「任期が終わったので戻ってきたんですよ」

「懐かしいなぁ。で、さっきの奴らは佐渡さんが?」

「ここいらでたちの悪い山賊が旅人を襲っているということで、美濃の自治体から退治を頼まれていたんです」

「なるほどそれでー」

「凸さんなら、ささっとやっつけるかと思って見てたんですが、時間もないので先に片付けようかと。もしかして余計なことをしちゃいましたか?」

「いやいや。もう歳なんで助かったよ。若い頃みたいに無茶はできんし」

「まだまだいけるでしょ。あっちのほうも」

「はは。もう水涸れ状態よ」


佐渡先生は、おびえている姉妹に近づいて、優しく声をかけた。

「もう大丈夫だよ。心配ない」

そう言って二人の頭をなでた。

「佐渡さん、その娘っ子たちはどうなる?」

「この子たちが捕われていた寺にはまだ十数名ほど孤児がいますしねえ。まぁ自治体にかけあって保護施設に収容してもらいますかね」

そう言って佐渡先生は、妹の汚れた顔を手ぬぐいでゴシゴシと拭いてあげた。

「ほうら、やっぱりお姉さんと同じで器量がいい」

佐渡さんが褒めると、姉妹は顔を赤らめながら、少し落ち着いたようだった。
特に妹のほうは、確かに奇麗な顔立ちとしている。眉は細くキリっとした少年のような顔立ちだった。
こりゃ相当な美人になるなぁ。姉のほうはとにかくボインボインで藤井さん好みか。

と、そんなことを考えている場合じゃない。
先を急がんと。

凸は一息つくと、腰を伸ばして軽く屈伸をした。

「じゃあ、佐渡さん、俺は行くよ。三浦に会いにいかなきゃならんのでね。後はよろしく頼む」

「三浦さんか。懐かしいなぁ。確か今は尾張で問屋をしていると聞きましたねえ」

「羽振りもいいだろうに…。あの野郎、ガバスでいちいち支払うとか。どんだけファミ通が好きだったんだ」

「ははは。ともあれ三浦さんにもよろしくお伝えください。ではお元気でいつかまた」

「ああ、じゃあ…」

佐渡先生は寺の様子と子どもを確認してから、自治管理事務局へ向かうと言った。

あの姉妹も逞しく生きてゆくことだろう。
そう。心身ともにタフでなければ死ぬだけだ。

手を上げて背を向けると、さきほどの罵倒まじりの声とは違う可愛い声が凸を呼び止めた。
なんだよもう。いい加減に…。

うんざりしていい加減にしろよと言いかけたが、先ほどの生意気なガキの面影はなく、小さな童女が可愛らしい目でこちらを見つめている。

「おじちゃん、尾張の三浦って人に会いにいくのん?」

「さっきとはえらい違う口利きだなぁ…。ああ、そうだ三浦に会いにいくんだ。それが?」

「……それ、うちのお父ちゃんなのん」

え?


え??

一瞬、耳を疑った。


佐渡先生と凸は顔を見合わせ大いに叫んだ。


な、なんだってーー!?


その叫びは冬の乾いた空に高く登っていった。


【たぶん続くんじゃないかな】

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信オン 三浦を訪ねて三千里③



ひとつの山を越えたところで平坦な道に出た。
そこで休めるとこを見つけて昼食にした。

ここまで魔獣には遭遇していないのは、アントキが教えてくれたルートによるものである。
もう魔獣の棲息地は抜けたようだった。

老木のイチョウの下で握り飯をほうばりながら、舌鼓を打つ。
塩味が程よく効いていて美味い。
周りには色づいた葉や銀杏が落ちていていて、独特の香りが漂っている。
快晴の空の雲に幾多の友人の顔が浮かぶ。

あるものは結婚やら引越しやらで引退し、海外へと出張したり、けじめをつけて辞めていったり、不幸にも亡くなったり。いまだに残っているものは数えるほどしかいない。
しかし、一時でもあの高揚感を共有できた戦友の思い出は消えることがない。
雲のひとつひとつが消えていった戦友の顔に見える。

あの時は対立し、いがみあい、なんて嫌な奴だと思った者でも時が経てば、なぜか懐かしく思えたり。
意外とリアルで会ったらいい酒が飲めたかもしれないと思えてくる。

それだけ歳をとったのだと思うと、複雑な感情が沸いてくるが、それもまたオンラインの醍醐味だろう。
少なくとも、あの共有した時間は仮想であろうとも現実に消費したかけがえのない時間であり財産なのだ。

ネットの世界は世界と繋がっている。しかし、濃密な時間を共有できる仲間というのはおのずと限られてくる。
そこで出会ってリアルまで発展した関係は、考えてみれば奇跡だ。

その奇跡を大事にできるかどうか。それはリアルでも仮想空間でも同じに思える。
ネットにリアルを求めるのを良しとしない人種にとっては、キモイの一択で片付けられてしまうのだろうが、われわれは気にしない。出会いの形など今更どうでもいい。

俺たちは仮想の人生を電脳という無限の監獄で過ごすトガビトだ。
だがそれがいい。そこにこそある真実もまたリアルなり。

あれ…いいのか?それでいいのかタルタロス。
よくわかんねーけど、ま、いっか。

古臭い価値観や常識など弊履のように投げ捨てるのも一興。
藤井さんもそう言ってたづら。


「ふぅ。食ったな」

最後の握り飯を食べ終わると、竹筒に入った水を流し込む。


遠方に見える山脈は、その頭に少し雪をかぶっていた。

「はぁ…。まだ遠いなぁ…先は長いのう」

ため息とまじりに、前方の山脈へと歩き出す。

拓けた道の傾斜は緩やかで、以前に人が通っていたと思われる名残がある。
あたりの木々の彩り豊かな紅葉に目を奪われる。


「へぇ、まるで花鳥山脈みたいだな。こりゃすげぇ」

しばらく歩いていくと、道は広がりぽつぽつと行き交う人も増えてきて民家も見える。
この旅に凸が徒歩(かち)にこだわって馬を借りなかったのは、さしてたいした理由はない。
ただなんとなく、ぶらりと歩いてみたくなったからだ。
普段の早馬では気づかないものを拾っていこうかと、柄にもなく酔狂を試みたのである。


極彩色の景色にみとれながら歩いていくと小さな河が目の前をさえぎっていた。
河には頼りない木々で寄せ集められた橋がかかっている。

「ふむ」

橋の袂に来ると、大きな岩がありなにやらその岩にくくりつけてある。
人だ。それも子どもである。

見れば、蓬髪で真っ黒なボロボロの絣を着ている。
乞食のような身なりだが、目だけはぎらぎらと光ってこちらを睨んでいた。

「なんだこのガキ…」


気にいらない目つきだ。ガキがこんな目つきをするのは感心せんなと憤る。

凸はむっとして子どもを睨みかえした。
あちこちに打撲と見られる傷がある。

おおかた何か悪さでもして、懲らしめのために括られているんだろう。


「おいガキ。そのざまはどうしたよ」

凸の問いに答えず、その子どもは相変わらずぎらぎらとした目でただ睨むだけである。

「ち、生意気なガキだなー。近頃のガキはほんと可愛げのねぇこと…」

とにかく早く尾張に行かないと、また面倒ごとに巻き込まれそうだ。
こんなこ汚ねぇガキにかまってる暇はねぇ。

関わらずに橋を渡ろうとした瞬間に、子どもが口を開いた。


「縄をとけ!」

高い声でそう叫んだ。妙に澄んだ声である。

「あ?」

凸は岩の前まで引き返して、子どもの前に立った。
耳に手をあてながら、とぼけて聞き直した。

「あー?なんですかー??」

子どもは凸の顔を睨みながら、繰り返し叫ぶ。


「この、つんぼ!早く縄をとけ!じじい」

凸のこめかみにぴくぴくと青筋が浮かぶ。


「おい…糞ガキ。てめ、人様にものを頼む前に礼節ってもんがあるだろ?親に教わらなかったのか」

「親なんざいないよ馬鹿!」

「えらい口の悪いガキだな。泣かすぞこの!」


恫喝ともとれる大人気ない態度でガンをとばす。
しかし子どもは恐れも見せずに睨み返してくる。


「いいから縄をとけ!この禿!」

「おい…。おい、どこがそう見える。俺は確かにおっさんだが、爺さんじゃねぇし禿げてもいねぇよ!ふさふさだよ!」

「うるさい!早く縄をほどけこのチンカス!!」


凸は血管が切れそうになった。
こんな年端もゆかぬ子どもにチンカス呼ばわりされて黙っているほど人間はできてはいない。

「いい加減しろよ…。ケツの穴にダイナマイトねじこんで、すまきにして河にたたっこむぞ!糞ガキが!!」

「できるもんならやってみやがれ!その前にじじいのチンコを噛み千切ってやる」

「くっ…このガキ、まじで…」


人間、怒りが頂点に達すると臨界点を突破して冷静になると言う。
怒って暴言や殴るとかの行動は臨界点の一歩手前である。
怒りの飽和状態になると、人はもっとも残酷になれるのだ。

凸は血の気が引いて妙に冷静になった。

ふっ…。こんなガキ相手に何を熱くなっているんだ俺。
大人になれ大人に。

凸は子どもの前に立って刀を抜いた。

「おいガキ…。そんなに言うなら縄をといてやるよ。ただしな…」

刀を頭の上に持ち上げて、ぎろりと睨む。

「その体ごとまっぷたつにな!」

言うが早いか、そのまま、無造作に刀を振り下ろす。


ザシュッ!!

「ぎゃぁっ!!」

子どもは短い悲鳴を出して、ぐったりと岩からはがれるように前のめりに突っ伏した。


刹那、後ろからけたたましい悲鳴がした。

「む?」

「美代!」

そう叫びながら子どもにかけよってきたのは若い女である。

「美代!美代!なんで…こんな;わぁぁぁああ!」

子どもを抱きかかえ、半狂乱で泣き喚いている。

名前からすると、このガキは女だったのか。
黒く汚れていたし、あの口ききではわからないのも無理はない。

女の剣幕にぽかんとしながら様子を見ていたが、なにやら背後から凶悪な殺気を感じた。

見るといかにも悪人面の山賊風情の三人組が、ニヤニヤしながら立っている。
ははーん。さきほどから誰かに見られている気配はあったのだが、こいつらか。

リーダーと思われる真ん中の長身でやせぎすな男が、下品な笑いを浮かべながら前に出てきた。

「あ~あ…。おっさんよぉ。いくら乞食でもガキを殺っちゃうのはアウトだろう」


それをうけるように、左のでっぷりとした小男は、もごもごと口を動かしながら、うんうんと頷いた。

右の男は、普通の体躯だが、口に爪楊枝を挟んで口元を歪ませている。爬虫類面で一番凶悪そうな面構えだ。
その爬虫類がぺっと楊枝地面に吐いた。

「しかし、つかえねぇガキだな。ちったぁいい餌になるかもと思ったが、糞の役にもたちゃしねぇ」

なるほどな。子どもを餌にして旅人を襲うって寸法か。
縄を解いて油断しているところを後ろからばっさり、ね。
古典的すぎて逆に新鮮だ。

あのガキはこの山賊どもに無理やりやらされていたのだろう。
ガキが、もし素直で可愛げがあったら、油断してやられていたのかもしれん。

リーダーのやせぎすが、片手に持った刀を肩に乗せてトントンと上下させている。

「おっさんよぉ。このガキは俺らの身内でな。ちょいと悪さをしたんで懲らしてただけなんだ。それを、おめぇさん、殺っちまうとかあんまりじゃねえか、なぁ。この落とし前は一体どうつけてくれるんだい?」


凸は悪人の常套句のような口上を聞きながら思った。



(´・ω・`) 帰りた~いん。



【続く…ような気がする】


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信オン 三浦を訪ねて三千里②




「おっぱーい!!」

叫んだ瞬間に目が覚めた。

凸は、ぼぅっと天井の梁を見つめながら、ここかどこかと思念をめぐらせるまでしばらくかかった。

「う…」

こめかみを抑えながら、少し呻く。

ようやく思考がはっきりしてきた。布団に寝ている。
あたりを見回すと、囲炉裏を挟んだ正面に小さな出窓があり、そこから眩しい陽光が差し込んでいる。

チチチ…ピピピ…と鳥の囀りが聞こえてくる。

確か森で幻術をくらって…意識がなくなって…。

「どこだここは…」

起き上がって体を伸ばしてみると、不思議なほどに体が軽い。
濡れていた鎧も脱がされて、こざっぱりした作務衣に着替えてさせられている。

戸の向こうからは、トントンとなにやら音がしていた。

凸はようやく合点がいった。


ははーん。これはお決まりの展開だ。

おそらく倒れていた俺を、巨乳美女がここまで運んで介抱してくれたに違いない。
そして戸の向こうで朝餉を作っているんだろう。

ほのかに味噌のいい匂いが漂ってきている。
腹もほどよく減っていた。

ふむ。
これは激熱展開じゃね?
しかも7でテンパイ、キリン柄とか鉄板な状況だろう。
享楽の激熱は糞ほどもあてにならねーが、サミーのはそこそこ信頼感が高い。

これはキテル!悪いことの後にはいいこともあるさ。
天、我を見捨てずだ。

勝手な解釈と妄想を膨らませて思わず小躍りをする。

うひょひょひょひょー!ぶんぼぶんぼぶぶんぼぶんぼ!
ひーっひっひっひっ~!

凸は意味不明な奇声をあげながらエジプシャン踊りをした。
はたからみればキチガイで通報されるレベル。
テンションが高まると、意味不明な行動を取ってしまうのはおやじの性か。
な、わけはない。

戸に近づき、そ~~っと勝手口を覗いてみる。

台所に立っている、巨乳美人(推測)をその視界にとらえた瞬間…


「げぇっ;」

なんと台所にたっていたのは6尺をゆうに超える大男であった。

凸の声に気がついた男は、振り向きもせず挨拶をした。

「おっ、起きましたか。おはようございます」

汁の味を確かめて満足そうに笑ったかに見えた。


凸と男は囲炉裏の前に対峙して座していた。
二人の前には、朝餉が出されている。

山菜の漬しと川魚、そして飯に味噌汁。

小さな草庵だったが、よく見ると拵えも立派で簡素ながらも品が漂っている。
この男、ただものじゃねえ。

凸は警戒心を解かずに、静かに男を見つめていた。

その様子に気がついたのが、男が目じりを下げて口を開く。


「いやぁ、危ないとこでしたね。あのまま魔獣の餌になるとこでしたよ。とりあえず私が退治できるレベルでよかった」

にこやかに笑いながら男は言う。

体躯は迫力だが、端正な顔立ちと水のように静かな風情を纏っている。
着ているものからすると僧のようだが…。

まさか、この男…衆道の気はねぇだろうなあ。坊主はホモ多いしな。
俺はホモとムカデは大嫌いなんだ。

そんなことはさすがに口にはだせず、まずは介抱してもらった礼を告げた。

「いやぁ…助けてくれて感謝いたす。不覚ながらまだまだ未熟ゆえ…」

凸はぺこりと頭を下げ警戒心を緩める。

男は、いやいやと手を振りながら朝餉をすすめた。


「しかし、なぜあんな森におられたのですかね。地獄突さん」

汁を啜っていた凸の手が止まる。


「…なんで、あんた俺の名を…」


男は一転、かしこまった表情になり、軽く頭を下げた。

「これは申し遅れました。拙僧、徳川義宣の友人のアントキと申します。以後お見知りおきを」

徳川義宣…?ああ、自称可愛い侍のよっしーか。

「…あっ!あんたが、よっしーの連れのアントンさん?」

「はい、常日頃から徳川殿より話は伺っておりました故」

「よく俺がわかったね。顔も知らんだろうに…」

「鎧の後ろに書いてありましたよ。じごくとつって」

「げっ;それって、かずはが両替前で書きやがったんだなー。人の後ろでコソコソなにをしてるのかと思ったらあのガキャァ!」

「はは…。おかげで労せず凸さんとわかりましたよ。それに…」

「それに?」

「刀の柄にぶら下がっていた根付。あれは僧兵のフィギュアでしょう?」

「ああ、あれは…確かに」

「僧兵好きな人に悪人はいませんから」

「いや、まぁ…」

凸は頭を掻きながら照れ隠しに笑ってみせた。
つられてアントキとも笑った。

凸は旅の目的を告げ、三浦がいる尾張へいくところだと説明した。
アントキによれば、ここから南西に二山ほど超えたところに尾張の関所があると言う。

あの森には、様々な高レベルの魔獣が生息しており、幻術で人を誘い込んで餌にするのだと言う。
下手すると今頃俺は奴らの糞になってたわけだ…。

運がいいというか、なんと言うか。
ともあれ助かったことを天に感謝した。

そもそも、三浦があれほどツケをためなければこんな苦労をすることもなかったのである。
俺がホモならケツを掘ってすまきにして駿河湾に沈めるレベルだ。糞っ!覚えてろよ。

そんな苦々しい思いとは裏腹に笑顔を浮かべて朝餉を啜る。


朝餉が済むと、二人は外に出て陽の光を一身に浴びた。
陽は暖かくなんとも清清しい。

のどかな山河の風景が目の前に広がっていた。
遠方の紅葉しきった山々の色彩が目に痛いほど鮮明で美しい。
まるで桃源郷のようである。


「ところで、ここはどこっすかね?」

凸がそう聞くと、

「ここは、尾張と美濃の境にある郷です。といっても、人外以外はそうそう入り込めませんから、人は私しかいませんが」

「なんでこんなところに一人で?」

「話せば長くなりますが…時間がまだよろければ茶でも飲みながら如何です?」

「伺いましょう」


男の名の正式名称はアントキノイノキ。僧兵である。

当時─といっても、数年前までは僧兵は徒党にとってアウェー扱いされる存在であった。
問題となっていたのが、効率狩りの徒党枠の皆無、極楽改だけのボス要員、ネタ特化としてのいじられ職、さらに開発から虐めとも取れるような、斜め上修正等…。

かくいう私も僧兵でね…。

僧兵を自虐ネタとした秀逸なAAも流行った。

炭山だけが友達さ!汚れちまった僧衣の上に 今日も消し炭の降りかかる

僧兵は不遇特化として最高に不名誉な地位を磐石にしていた。

そこで立ち上がったのが、全国の僧兵たちであった。

「僧兵を舐めるな!僧兵に徒党枠を!」

王立僧兵騎士団、モンク・カンパニーインダストリアル、僧ふぇいふぇい(株)、僧兵地位向上委員会…
各地で様々な僧兵だけの団結した私設、一門が乱立した。

世論は僧兵連合を支持し、ネラー達まで味方につけた。

僧兵に光を。僧兵こそ攻防一体のマルチスキル特化であると、人々が口にするようになる。
これにより、開発陣も僧兵の強化に本腰を入れざる得なくなり、現在の僧兵の立ち位置が創りあげられたのである。


「そうやって僧兵は完全に生まれ変わったのです。しかし…」

アントキは表情を曇らせながら続けた。


人がいるところ問題は起こるべくして起こる。

この世には二人と同じ人間はいない。同じ考えを持っていても、その根幹はまったく違う意識で構成されている。
つまり、目的と意識が完全にシンクロしている組織集団などありえないのだ。

当然、そこから綻びが出てくる。対人間関係に疲れ果てていた僧兵たちは、一気に上がった特化ステータスにより一時は歓喜し、共に抱き合い喜び合った。

だが、僧兵に限らず1オンリー特化だけの集団にはおのずと制限もあり、限界も出てくる。
東西だけのお祭り集団ならいざ知らず、僧兵だけで日常を生き抜くには、さすがに無理があった。

特に1st僧兵だけを集めた組織は数ヶ月で瓦解した。

北条の風魔衆によると、貧に慣れたものは贅に弱いと言う。
貧乏から急に贅沢な暮らしをあてがわれると、人はもう暮らしの水準を落としたくなくなる。
贅に楽しみ、貧に慣れるバランスがなければ、山禍の集団の絆は強くならない。

目的は同じくしても、個々の絆が希薄では集団として息は短い。

一時は20を超えていた僧兵組織は、見る間に消滅し跡形もなくなったという。

「かくいう私もある僧兵一門の筆頭をしていまして…。しかし同じ理由で強化パッチがあてられた後、数ヶ月で瓦解してしまいました。そこで、ほとほと嫌になったのですよ。特化に振り回されるこの生活も人々もね」

アントキは、静かに茶を啜りながら目を伏せた。

「結局、人というものは勝手です。その時々の優遇特化をもてはやし、特化を転々と変えて要領よく生きる人も多い。しかし、私はそんな器用な生き方はできません。僧兵は気高く崇高な特化です。気軽に変えていい特化じゃない…」


凸は話を聞きながら、タツヲなんかに聞かせたら、同士よ!とか言って抱きつきかねないだろうなと思った。

「それで世捨て人になってこんなとこに潜んでるってわけか」

「まぁ、ひどい掃滅の仕方をしましたからねぇ。私を恨んでる人も少なからずいたでしょう。正直そのほとぼりを冷ます意味もありました。徳川さんとは定期的に連絡を取り合っていますけど」

「ふぅん。でも、僧兵ラッシュも落ち着いてきたみたいだし、もう戻ってもよさげだろうがね」

「まぁ…そのうちにとは思ってますよ。頭も冷えて僧兵とは何かとずいぶん悩みましたしね」

「そりゃいい。戻ったら是非、俺の店に来てくんな。たらふく飲ませてやるよ。もちろん奢りだ」

「ははは。そのときを楽しみにしています」

それから半刻ほど雑談をして凸は発つことにした。

アントキに幾度も礼を言いながら、草庵をあとにする。
笑顔で手をふるアントキの顔には、スレに爽やかな風が吹いたように清清しいものが感じられた。

道すがら、昼飯にとアントキが作ってくれた握り飯とタクワンを腰下げにぶら下げて、さてこれをいつ食おうかと思案する。

凸は快晴の天を見上げてしみじみとつぶやいた。


「しっかし…なんだかんだで、みんないろいろ背負っているんだなぁ。うわべだけで判断するには、この世界は情報が脆弱すぎるよな」


とかなんとか、わかったような口ぶりで口笛を吹く。

「しかし…あのおっぱいはなんだったんだろう…もしや藤井さんの」


などと、どうでもいいことを考えなら歩みをすすめる凸であった。
三浦への道はまだ遠く険しい。



【③につづく…だろう】

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信オン 三浦を訪ねて三千里①



師走も近づいたある昼下がりのこと。
地獄凸は身を縮こまらせて美濃の街道を歩いていた。
最近になって急激に冷え込んできた。この調子だと冬将軍のお出ましは例年より早そうである。

すると前方から馬を飛ばしてくる者がある。

おや?と思って馬上の主を確かめると、織田の古参、藤川みさおだった。
お互い目があった瞬間に嫌な予感がした。

「あら凸さん、妙なところで」

みさおは、どうどうと馬をなだめて落ち着かせる。
凸は罰が悪そうにみさおを見上げた。

「おや、みさおさん。こんな時間にそんなに急いでどこへ行くんだい」

地獄凸はいかにも興味もなさげな風で聞いた。

「合戦ですよ、合戦。武田と織田は今や敵同士ですからね」

「はは〜ん、合戦か。そういやとんとご無沙汰になっちまったので興味もねえな」

「国から俸禄をもらっている身として、合戦に出るのは義務ですよ。そこらの犬や猫でも恩ぐらいは感じますがね」


うへ、こりゃ薮蛇だったな。地獄凸は身をすくめて舌を出す。


「おっぱいぶるーんぶるん!ちきしょうめー!!」

凍り付くほど寒いネタでごまかそうとしたが、みさおは表情を変えない。
冷ややかに馬上から睥睨している。

「犬猫の畜生とかけたギャグのつもりでしょうけど、まったく面白くありませんねー。ださっ!」

「相変わらず、きっついな。そんなんだから会議で揉めるんじゃねえの?」

「…大きなお世話ですね」

「しかし、小さな親切」

したり顔で地獄凸がおどけてみせた。

「口の減らない…。凸さんて屁理屈だけはガリクソンなみねぇ」

「ガリクソンとか…。せめてダルビッシュぐらいにしといてくれよ。それに俺じゃなきゃわからねえよそれ」

「と・に・か・く!せめて1度くらいは合戦に参加しなさいな」

「やだよ〜〜ん!あっちょんぶりけー」

「子供ですか!」

「大人だ俺は」


そんなやりとりがしばらく続き、ふぅとため息をつきながら、みさおは合戦場に向かっていった。

「合戦ねぇ…。今の合戦って確か、全鯖対抗になってたよな。単鯖ですら一枚岩にならねぇのに、まとまるんかねぇ…」

合戦の仕様も大きく様変わりをしたが、今の仕様で遊べてる人たちを凸は正直うらやましく思えた。

ついていけないのである。装備もスキルもモチベーションも。

あの頃は若かった。
…いや若くねーけど、少なくとも覇気はあったな。


まぁしょうがない。
10年経てば、いろいろ変わる。

かずはの体重も増え、俺の白髪も増え、藤井さんの痔も悪化する。
みのもんたは降板し、いいともも終わる。花丸マーケットも終わるというが、薬丸は聞いてないぞと発狂したと言う。じたばたするなよ少年隊。

すべて時代の趨勢なのだ。
そんな黄昏を背負いつつ人は生きていくのだ。
人はさみしい生き物だな。
子どもの頃の夕焼け思い出今何処。


そんな慕情に浸って歩いていると、道脇の木の横からうめき声が聞こえた。

「はて?」

そう思って、木の陰を確かめると、小さな尼僧兵が呻いている。

「おおい、尼さんよ、大丈夫かね?」

凸はそう声をかけて、顔を覗き込むと、これまた知り合いのむらむすめである。

「やっ!むらさんじゃないか。どうした、産気づいたのか!?」

「うう;と、とつ…さん。ただのさし込みです…。セクハラですよ、不愉快です…」

途切れ途切れに、声を出すのも辛そうだ。痛みで額に脂汗が浮いている。

「ふぅむ…。とにかくまず正露丸と水を飲むんだ」


竹筒に入った水と腰下げから取り出し、丸薬を一気に飲ませる。
苦悶に満ちた青い表情が、一瞬和らぐ。むらむすめは木に背を預けて、時折息を大きく吐いた。

しばらくすると、痛みも収まったようだった。


「助かりました。一時はどうなることやらと…」

そう言って、赤みが差し込んだ顔に安堵の色が浮かぶ。

「何事もなくて何よりだ。しかし、今日はよく人と会う日だぜ」

「あら、誰かお知り合いと行き会ったのですか」

「うむ。みさおさんと先ほどまでね」

「みさお…さん。確か、凸さんの頭をビール瓶で引っぱたいたと言う伝説のあの人ですか?」

「ああ、相変わらず合戦の鬼だったよ」

「うらやましい。うちも合戦は最初の頃だけで…。なかなか参陣する時間もないのですが」

「徹夜でわくわくしながら、徒党を組んでいた頃を思い出すな。まるで昨日のことのようだが」

「ずいぶん時は経ってしまいましたからねえ」

その言葉が琴線に触れたのか、目がやけに霞む。

あれ?なんで涙が…。

その様子を見て、むらむすめは目を丸くして驚いている。

「凸さんって普通の人間だったんですね!」

「なんだと思ってたんだよ」

「おっさんって生き物…とか」

「それ、人の年齢別カテゴリーだから。生命体のカテゴリーじゃねえよ!」

「冗談ですよー。ふふふ^^」

「ふふふじゃねーよ、まったく」

「それはともかく、助けて頂いたお礼にこれをあげます」


むらむすめは、そう言って根付けを差し出した。

小さい人形のようだったが、よく見るとどこかで見たことがあるような…。

「こ、これは…超レアもののタツヲ僧兵フィギュア!なぜあんたがこれを…」

そのフィギュアは片手に尺丈、もう一方には炭を握っていた。

「僧兵ってのは悲しいまでに炭だな…」

「宿命ですねえ。僧兵は炭によって生きるにあらず。ですよ!」

「限定品ですよ。真紅では伝説の一品です」


むらむすめは、得意そうに鼻を小さく鳴らしている。


「ご利益は…雨乞いとかにしか使えねーな。あいつ雨男だし」

「うちは晴れ女です。旅行のときもいつも快晴ですねえ」

「ほぅ。確かにむらさんは天に愛されておるわ」


凸はタツヲのフィギュアを無造作に刀の柄にひもで括り付けた。

すると、にわかに雲がわき出して風が強くなってきた。
凸はやれやれといった風で、空を見上げた。

大粒の雨だまったく…。

「ですよねえ…。雨男タツヲはフィギュアになってもその効力は絶大だ」

「因果なものですね。さて、わたしはこれにて失礼します。またどこかで」

「ああ、道中気をつけて…」


むらむすめが雨を払うように近江の関所へ向かっていった。

「さて俺も行くかね」

寒いうえに冷たい。あたりは見る間に暗くなり、まだ夕刻には時間があるというのに、宵の刻の気分である。

凸の道中の目的は、武田の戦友、三浦カズに会うことである。
三浦に会ってたまっている飲み代を催促に行くところであった。

雨はいきおいを増して、さらに強くなってきた。
どこかで雨をしのぐしかない。

「くそーっ、三浦の野郎。あいつのおかげでえらいダルシムな状況に;」

毒づいてみたが、今更しょうがない。
何せ、三浦は電話もでねえ、メールも通じねえ。FBもやってない。
オラの村には電気がねえ。

しかたがないので直接取り立てに行くしかなかった。

凸は甲府で、立ち飲み屋をやっている。
その常連が三浦だった。

三浦はゲイだという噂がある男で、女にはもてるのになぜか浮いた噂が皆無だった。
身持ちが固いのか、性技に自信がないのか…。
そして飲み代を手形だと言って大量のガバスで支払っていく。とんでもない奴だった。

性豪であるタッチャマソにしてみれば、据え膳を食わない三浦にはもったいないとわめき散らすことだろう。
なにせ、マソは正義の味方ならぬ「性技の味方」と異名を取るほどの女好きである。
本願寺時代は鉄腕ア○ルの称号を得ていた強者でもあった。

「何にせよ、ぜってぇツケは払わせる。アベノミクスをなめるなよ」

などと意味不明なことを言いながら、呪詛をつぶやく。

視界も危ういほどの土砂降りの中、道を外れて森へ入った。
まぁこれで少しは雨よけにはなる。

森は暗く、闇の底に溜まる瘴気が感じられる。

ここいらは確かえらく強い魔物が棲息しているとこだったような…。
そういや、前にツカさんが立ちションしていて教われたとか言ってたっけ。

どっちにしろ…魔物の溜まり場に人が踏み込んでいくってぇのは…

「やべぇーぞぉ…」

言い聞かせるように声に出した。

とにかく、どこか休めるところがないかと探す。
木々の葉に落ちる雨音が、妙に静かで気味が悪い。

あたりに霧が出てきた。
不思議なことにやけに香りがよく、暖かく感じられる。

食い物の映像が不意に浮かんできた。
腹減った。ラーメンくいてぇな。
とめどもなくイメージが浮かんでは消え、飛散していく。

ふらふらしてきた。寒気がする。目眩がする。
思考が錯綜していく。


「やっべ…こりゃぁ」

明らかに何者かの幻術だった。
おそらく魔物が獲物を狩るときに使う術だろう。

身体が重い。そして眠い。

やべぇ、やべぇぞ。こいつはやべぇ。やべぇのはわかってんだよダッチ。
とにかく、この幻術から抜け出さないと…。

じゃないと、食われて死んじゃうのん。
うち、田舎に住んでるのん?

なんて言ってる場合じゃねー;
なんとかしないと、激やばす。
人生ってとんでもねー。

霞んでいく意識の中で凸は、霧の中でうごめく二つの丸い物体を確かに見ていた。

それは、Gカップはあるだろうと推測されるおっぱいであった。



【②に続く…はず】


では良き週末を。

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誰のためでもいいじゃないか



更新も滞ってきたなぁ。誰のために更新するのか。
人はどこからきてどこへ。

ところでウルトラマンのNG集のフィルムが見つかったようでテレビの特集でちょっと観た。
怪獣をジャイアントスイングしていてふらついてぶっ倒れるのには笑ったのん。
あれはガキの頃ほんと疑問だったんだよなぁ。よくふらつかないなぁって。
男女合体のヒーローって考えてみればエロいよね。今ならエースとか人気でたろうなぁと思うのだが。


さてと藤井さんネタも枯渇してきた。
じゃ、藤井さんから直接ネタを仕入れよう。困ったときの藤井さんだ。
カテゴリー「藤井」。なんかかっこいい。

電話をかけてみる。

「やぁ藤井さん」

「凸さぁーん!おひさし。ひひっひひひっ」

藤井さんは相変わらずのテンションだ。
寒くなって来たので弱ってるのかと思ったが、心配はなさそうである。

「藤井さん、いい知らせと悪い知らせがある」

「へぇ。じゃ悪い報せから聞かせて」

「俺インポテンツになった」

「わろすwwwwwwwwwww」

「冗談だ。実は大晦日に藤井さんちに襲撃をかけようかと」

「やめて!来ないでw」

「じゃ、いい報せを聞きたいかい?」

「聞かせて」

「タツヲが死んだ」

「もういいってそのパターン;」

「もちろん冗談なわけだが。実はヤマダ電気が安売りしすぎて赤字になったらしい。これはマジ」

「吹いたwww」

藤井さんはそれから、近況をつらつらと話してくれた。
散歩がてらにカルガモ一家にパンくずを与えているらしい。

「凸さん、ツカさんとか元気?」

「元気だな。この前麻雀で国士あがったし」

「相変わらずツキが太いなぁ。チンポも太いけど」

「あんた見たんかい!」

「みんなで温泉行ったじゃない」

「あっ、そうかなるほど」

なにがなるほどなのか、考えてみればよくわからん。
しかし、よくよう考えてみるとツカさんのチンポのことなぞどうでもいいので軽く流して調子を合わせる。


「マソやみさおんも元気かなぁ」と藤井さん。

「元気じゃないの。最近とんと会ってないけど」

藤井さんは笑いながら、ひと呼吸おいて続けた。

「ま、殺しても死ぬような奴らじゃないからねw」

「それ、あいつらもあんたに言われたくねえだろうw」

「それもそうかwあひゃあひゃひゃ」



それから10分ほどしゃべって電話を切った。

ネタができたかと言われれば、もちろん何もあるわけはなし。


しかたないから「のんのん日和」の、こまちゃんの台詞で締めることにするか。

nhfgmt,mdt


では良き週末をなのん。
にゃんぱすー。

テーマ : 日記というか、雑記というか…
ジャンル : 日記

ちかれたのん



いやぁ、またまた間が空いてしまって申し訳ない。
このブログを楽しみにしてくれる読者の方々には、大変申し訳なく。

あ?楽しみにしてないので早く糞ブログごと消してくれと?
ほぅ…いい読経、じゃねえ、
度胸じゃないか。
俺泣いちゃうよ?いいの?

まさか死んだのでは?とニヤリと思ったそこのあなた。
残念でした!俺はちょっとしぶといぞ。ざまぁー。
俺は死ぬまで生きる。タフボーイだからな。ふふふ。

と、つまらん戯言は置いといてだ。

忙しいのん。まじですのん。実は本当に急がしかったんのん。

今回は、職場の作業環境が一新されたことに伴い、新しいマシンやアプリの導入でてんやわんやでブログを書く暇もなく。

ADOBEのCSクラウドで最新のCS6を使っているが、
とにかく便利でマシンも最新なので作業効率が格段に向上した。これは非常に嬉しい。
まるで原付からスポーツカーに乗り換えたぐらいのレスポンスの良さである。
凸うれちぃ。インターフェースの使い勝手は、体感上あまり変化はないが、とにかく速い。
マシンのパフォーマンスも最新だから当たり前なのだが、とにかくこれで更にゆとりを持って仕事ができる嬉しさよ。


まさに「圧倒的ではないか我が軍は!」なのだ。

最近、色々ニュースがあるが、ルー・リードの訃報をニュースで見て、ルー大柴が死んだと思った人もいただろう。はては、プロレスの鉄人ルー・テーズと勘違いしたとか。

そんな奴はいないよな。ベルヴェット・アンダーグラウンド時代のルーを知ってる人なら、涙を流さずにいられない。きっとマーク・ボランの泣いたことだろう。
俺は泣いてないけど。

とにかく11月だよ。早いなぁ。陰嚢矢の如しだな。

日本シリーズより先にワールドシリーズで上原がリングを取ったが、同じ日本人として誇らしい。
38歳頑張るねえ。大したもんだよおっかさん。
藤井さんも野球をやっていたら今頃、草野球で下田のオルティスとか呼ばれていたことだろう。

とにかく今年もあと二ヶ月しかないわけで。

そういえば、かずはの体重はもとに戻ったのだろうか。
タツヲのマチュピチュに続くガラパゴス旅行は成就するのか。
マソの脱腸は直ったのだろうか。
藤井さんは、のんのん日和を観ているのだろうか。

人々へのせんない興味はつきないとこだが、ともあれ息災を祈る。

つーか、最近寒いな。風邪など召しませぬよう。では良き3連休を。

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生息地:都内在住
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